マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

1月29日

29日に購入したのはこちら。


アルオスメンテ 5 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

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天空の扉 (6) (ニチブンコミックス)

天空の扉 (6) (ニチブンコミックス)

君曜日2 ─鉄道少女漫画3─

君曜日2 ─鉄道少女漫画3─


以上3冊。
『君曜日』新刊、良い、凄く良い...(しみじみ)
持田さんの感情の一方通行感が、読んでいて切ないんですわなぁ。
季節が夏から秋へと変わり、アコと小平の関係も少しずつ熟してきている感じもまた良いですね。

ダンジョン飯、ああダンジョン飯

今更自分が言うまでもないかもしれないですが、『ダンジョン飯』が実に面白いです。


単行本、未だに書店では品切状況が続いているように思いますが、そろそろ増刷かかるんでしょうか(kindle版が同時発売なので、そちらで読んでいる方も多いのかも)。


作者の九井諒子さんは、web 上やコミティアでの創作同人誌で注目され、商業誌での活動も開始。これまでに刊行された3冊の短編集は何れも高い評価を受けてきた訳ですが、初の長編連載となる作品が「ハルタ」で掲載されている『ダンジョン飯』で、今月遂に待望の1巻が発売されたという次第です。


今回は『ダンジョン飯』の紹介をしつつ、この作品の魅力を幾許かでも伝えられればなぁと思っております。


舞台となるのは、とある村に存在する巨大な地下迷宮です。その地下迷宮は嘗て栄華を誇った黄金の国であり、迷宮の奥深くにいるとされる狂乱の魔術師を倒した者にはその国のすべてが与えられると言われています。
富と栄光を手にするため、多数の冒険者たちがギルドを組み、危険と隣り合わせの迷宮へと探索に向かっている、という訳です。


そんな冒険者のひとり、ライオスがこの作品の主役となります。彼のギルド(パーティー)は迷宮の最深部まで辿り着いたものの、空腹が原因で炎竜(レッドドラゴン)に敗北。ライオスの妹・ファリンの脱出魔法によって全滅は免れるものの、ライオスを庇ったファリンは炎竜に捕食されてしまいます。
消化されてしまう前に何とかファリンを助けたいものの、荷物を殆ど迷宮に残したまま脱出することになったうえ、これまで一緒に戦ってきた仲間2人が別ギルドに引き抜かれてしまう。
消化される前に妹を助けなければならない、つまり時間がない。しかし費用不足のためにこのままでは迷宮に入ることもままならない。
そんな八方塞がりに近い状況でライオスが捻り出した手段が、「食糧は迷宮内で自給自足」という方法。つまり魔物を食う訳ですね。
そしてライオスは、ギルドに残った魔法使いのマルシル(エルフ♀)と鍵師のチルチャック(ハーフフット♂)をややなし崩し的に巻き込み、更には魔物食を長年研究しているドワーフのセンシも仲間に加わり、魔物を食べつつ迷宮の奥へと向かう(そして妹を助ける)旅が始まります。


と、かいつまんで概略を書いた訳ですが、ちょっと一味違うのは感じて戴けたかと思います(感じなかったならば自分の筆力不足というやつです)。
元々、九井諒子さんは短編でもファンタジーの名手と言われていまして、独特の視点で優れた作品を幾つも描いています。例として1つ挙げますと、初の短編集『竜の学校は山の上』に収録されている『魔王城問題』では、魔王を討伐した後に残された魔王城、ならびに近隣の土地をどう管理するか、という題材で物語が紡がれます。


竜の学校は山の上 九井諒子作品集

竜の学校は山の上 九井諒子作品集


また、「食」という題材でも、先行作品を幾つか見つけることができます。



九井諒子『竜の学校は山の上』222ページ。)


上に挙げた作品集の表題作でもある『竜の学校は山の上』の一コマです。竜が実在する世界での、「竜学部」が存在する現代日本の大学を舞台にした作品でして、技術が発達した社会において存在意義が殆ど失われてしまっている竜をどう活かしていくかを題材とした物語です。「食用として竜の肉は有用か」という点を確かめるため、実際に鍋にして食べている場面になりますね。
モンスターを食材とする、という点において『ダンジョン飯』の源流と捉えることもできるかと思いますし、図解とかを使ってモンスターのリアリティを掘り下げていく手法も共通しているのではないかな、と感じます。



九井諒子ダンジョン飯』1巻30ページ。)


センシがスライムの生態を説明している場面になります。この作品には同様に魔物の生態を詳細に描写している場面が幾つもある他、巻末の描き下ろしも「モンスターよもやま話」と題された、生態図鑑的な内容となっています。


ファンタジーというか、ファンタジーRPG的な世界観の「約束事」みたいなものに対する考察を深めてストーリーに繋げていくのも魅力のひとつですね。上で概略を書いた際に「費用不足のために」云々と書きましたが、そのくだりを説明している箇所がこちらになります。



(前掲書13ページ。)


作品の世界観としては、ゲームの『ウィザードリィ』に近いと思うのですが、冒険を始めるまでの準備というものについて詳細に肉付けを行っているのが判るかと思います。
魔物の生態もそうですが、こういった、あまりファンタジー作品で顧みられないような視点(実際には自分が知らないだけかもしれませんが)でのリアリティの構築が、九井諒子さんの味であり、作品の面白さにも繋がっているのかなと考えたりしています。


キャラクター造型も秀逸でして、魔物食に振り回されるマルシル、とにかく魔物食第一で、周囲の人物が危機に陥っていようと何だろうと食事優先で行動をするセンシ、唯一の冷静な常識枠チルチャック、そして実は魔物に尋常ならざる執着を持つライオス。
どのキャラクターも実に個性豊かなのですが、実はかなりキているのがライオスでして、目的と手段が殆ど入れ替わっているような、静かな狂気すら感じさせるのが実に良いですね。(´ω`)



(前掲書23ページ。)


魔物への愛着を仲間に吐露し、「サイコパスだ」と一蹴されてしまうライナス。しかし魔物への関心はその程度で消えることはなく、その後も色々な行動を取ろうとしてはマルシルに阻止されたりします。詳細は是非読んで確かめて戴きたいところです。



(前掲書173ページ。)


魔物「動く鎧」の生態を解き明かし饒舌になるライナスと、冷ややかなチルチャック。「アイツ 魔物の話になると早口になるの気持ち悪いよな......」というチルチャックの台詞、ちょっと心が抉られますね。(´ω`;)


と、ここまで書いてきたのだけでは、案外シリアスに感じてしまうかもしれないなと思う訳ですが、そういう印象は殆どないのがまた面白いところです。個性溢れるメンバーによる珍道中的な雰囲気があるのと、やはり「食」の描写が大きな割合を占めているからでしょうか。捕まえた魔物をセンシが調理していく様子が詳細に描写されていき、(再現不可能にも関わらず)完成品にはレシピもしっかり記載するという徹底ぶり。この作品の核とも言える箇所故に、決して手を抜かずに描かれています。
スライムや大蝙蝠、マンドレイクバジリスク、果ては動く鎧まで、これが料理になった途端に旨そうに見えてくるのが素晴らしいです。


と、まぁ長々と書いてみましたが、やはり実際に読んで戴くのが最も確かかなという気もしますので、是非ご一読戴きたい作品です。
といったところで、本日はこのあたりにて。