マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『オタクブックス』と『オタクとデザイン』

これまた昨年末の冬コミで購入した同人誌です。
相変わらずの評論系です。

写真上:『オタクブックス』00号(創刊準備号的位置付け?)
写真下:『オタクとデザイン』第2号と別冊1

共に「デザイン」という視点からオタク文化を考察しているサークルさんです。
因みにサイトはこちら。

デザインの観点からの評論っていうのは(とりわけ「オタク」を題材としたものには)少なかったのではないかと思いまして、興味を持ったので購入してみました。
そういう知識が皆無なので、何か勉強にもなるかなとも思いましたし。

以下、感想めいた雑文を少々・・・のつもりが気が付いたら結構な長文になっていました。(;^ω^)


『オタクブックス』で取り上げられていたのはアニメーション制作会社のシャフトと新房昭之監督。
新房監督がシャフトで制作したアニメ(『月詠』『ぱにぽにだっしゅ!』『ひだまりスケッチ』『さよなら絶望先生』とか)を時系列で追いつつ、演出上の実験を次々を行うと同時にデザイン的にも洗練を加えていっていることが簡潔・且つ平易に書かれていて非常に参考になりました。

ただそれだけに、やはり画像使用を断られてしまったというのが惜しまれます。
そのため本来画像が入る場所にはそれが登場する時間を書いて対応するなど、著者の苦心が垣間見えるレイアウトになっています。


「引用」という手段は取れなかったのかな?と思ったりも。
アニメだと事情がいろいろと異なってくるのかも判りませんが、マンガの場合だと仮に許諾を取らずに使用しても、

  • 引用したコマについて言及が為されている
  • 言及箇所が「主」で引用が「従」である(つまり言及箇所が大きな割合を占めている)

のであれば「引用」と判断される筈。
確か評論家の夏目房之介さんはそれをやっているので許諾は取っていない、と確か『マンガと著作権』の中で言っていたと記憶しています。
このレベルであれば充分「引用」の範囲内ではないかなと感じた次第です。

まぁ、これは余程自分の言及の仕方に自信がないとできないかもしれません。
僕にはやる勇気は殆どありませんし。(;^ω^)
許可を貰えるなら貰った方が当然良いとも思います。


あとは、やはりデザイン的な面を重視した構成なのが原因か、余白が結構な量になっています。人によっては批判対象になる可能性もあるかもしれません。
僕は書かれている内容が面白かったので充分元は取れたと思っている次第。


続けては『オタクとデザイン』のほうに。
こちらのサークルさんは『オタクブックス』の方も大きな影響を受けておられるようです。

記事で個人的に興味深かったのは「動画革命東京」のこと。
情けないことに、この同人誌を読むまで存在すら知りませんでした。

株式会社シンクという、『ほしのこえ』のプロデュースをした竹内宏彰氏が設立した会社があるんですが(映像作品プロデュースとかソフト開発とかをしているらしいです)、その子会社の有限会社アニメイノベーション東京が行っている映像制作支援事業が「動画革命東京」とのことです。

どんなことをやるかというと、個人や少人数でのオリジナルアニメ企画を募集して面白そうなものに制作資金を提供し、制作管理やら販売を株式会社シンクが行う、ということのようです。
詳細はアニメイノベーションのサイトにて。


個人的な印象では、ATG(アート・シアター・ギルド)のアニメ版に近いかなと。
1960年代初頭に設立された日本の映画配給会社なんですけど、映画監督に1000万円だか出資して作りたい映画を作らせて自分の系列の映画館で上映したり、海外(特にヨーロッパ諸国)のアート系な映画を公開したりしていました。
ATGは他の制作会社と違って各種制約もあまりないので、芸術性の高い映画とか前衛的な作品とかが多く制作・配給され、映画の歴史に名を残すような作品も数多くATG系列の映画館で公開されています。

ただ、あくまで個人的な考えなんですが、邦画が衰退した一因にはATGがあるのではないかと思っています。
ATG系列の映画館って確か全国に十数箇所しかないんですが、そこで公開された作品が『キネマ旬報』等で年間ランキング上位の殆どを占めた時期があったんです。
これによって殆どの観客と作り手側が乖離してしまったのではないかと。
で、評論家や一部のエリートさんだけが「素晴らしい映画」を享受できると。

そういう環境って、「判る人には判る」ような作品が横行する温床になるのではないかと思う訳です。
そういう作品を否定する訳ではないんですが、そういう作品ばかりが溢れるのはあまり楽しいものではない気がします。
ATGは1992年に活動を停止しています。


最近のアニメはライトノベルやギャルゲーのアニメ化の割合が非常に多く、どうなのかなぁという印象もあるので「動画革命東京」には期待したいです。
特に配給・宣伝の面では細心の注意を払って欲しいなぁと思いますね。やはりマンガとかアニメとかは多くの人の目に留まることが重要ではないかと思いますし。


それ以外には、まったくの一般人に酒を呑みながらアニメを観てもらう企画とか、一般人に「萌え絵」を描かせてみる企画とか、非オタクの人を参加させる企画が面白かったですね。

あとやはり「デザイン」をテーマにしているだけあって、非常に洗練されたレイアウトになっています。実に読みやすい。
註釈や補足説明を付ける場所とか見出しの使い方とかグラフの使い方とか、相当に考えて構成しているなぁという印象を受けました。
一般書籍だと、『海洋堂クロニクル』が近い感じですね。

これは読む価値ありだと思いますよ。


さて今回はこのくらいにて。
コミケで購入した同人誌の紹介はあと1回やる予定です。