『墓場鬼太郎』にデジャヴを感じたりはしませんか?
アニメ版の『墓場鬼太郎』が何かと話題ですね。
水木版『鬼太郎』シリーズの原点である、貸本版『墓場鬼太郎』がアニメ化され現在放映中です。
さすがに残酷描写とかは幾分抑えられてはいるものの、貸本版特有の暗さ・陰鬱さが実に巧く再現されているように思います。
突然話は変わりますが、僕は mixi もやっているんですが、『墓場鬼太郎』を観たマイミクさんの日記に興味深い指摘がありました。
「この話、どこかで読んだ記憶がある」というものです。
この感覚、水木センセイの作品をよく読んでおられる方なら一度くらいは感じたことがあるのではないかと推測しています。
僕も嘗て感じたことがある訳でして。
で、マイミクさんが感じた既読感なんですが、これには2つの可能性があると思っています。
1つ目は実際に『墓場鬼太郎』を読んだことがあるという説。これは当然ですね。
そして2つ目が、その後『ゲゲゲの鬼太郎』等でリメイクしたほうを読んでいるという説です。
この点については、思ったほど語られたことがないようにも思うので、ちょっと詳しく書いてみることにします。
(非力ゆえ、思わぬ間違い・勘違いがあるかも判りません。その場合ご教授戴ければ迅速に修正・編集等の対応を取ります。)
簡潔に言えば上に書いてあるとおり、水木センセイはリメイクをよく行います。
『墓場鬼太郎』のエピソードのどれかを元にして、それの設定・キャラクター等の修正を加えたうえで全面的に書き直したものを『ゲゲゲの鬼太郎』等に用いることが何度もあるのです。
『墓場鬼太郎』が「原点」というのはそういう意味でもある、と個人的には考えています。
個別に検討してみます。
アニメで放映されたのは(これを書いている2008年1月21日時点で)第一話「鬼太郎誕生」と第二話「夜叉対ドラキュラ四世」です。
貸本版だと、「幽霊一家」「地獄の片道切符」「下宿屋」「あう時はいつも死人」あたりが対応していますね。
【幽霊一家】
鬼太郎の誕生エピソードはまず「幽霊一家」で描かれます。
これが描かれたのは1960年ですが、それ以降にも誕生エピソードは型を変えて何度か描かれることになります。自分の持っているもので確認できるのは3回、貸本版「鬼太郎夜話」と「おかしな奴」、「鬼太郎の誕生」です。
貸本版「鬼太郎夜話」は「幽霊一家」の直後に描かれました。
別の話に挿入されたエピソードのかたちにしたためか、大幅にカットされています。「地獄の片道切符」の箇所は完全に無くなっています。水木息子のみが地獄送りに遭っています。
「おかしな奴」はこれまた貸本です(出版社は異なります。1964年刊)。
これの冒頭で誕生エピソードが簡単に描かれます。同様に「幽霊一家」のダイジェスト版といった趣きになっていますね。
このバージョンでは地獄送りじたいがありません。
「おかしな奴」は誕生以降も続きがありまして、ねずみ男との出会いや怪奇事件の解決業をコンビを組んで始めるくだり(さすがに妖怪ポストはありませんが)、依頼を受けて(依頼主の)恋人に乗り移った妖怪を退治する話と続きます。
因みに妖怪退治の箇所のみをリメイクしたものが、「陰摩羅鬼(おんもらき)」という話になって1968年に『週刊少年マガジン』に掲載されています(こちらは『ゲゲゲの鬼太郎』)。
もう1つの誕生エピソード「鬼太郎の誕生」は、1966年に『ガロ』に掲載されています。
こちらでも地獄送りの描写はなく、逆に鬼太郎親子が水木親子に家を追い出されるという結末になっています。
【下宿屋】
まずは冒頭から。
夜叉の墓を見つけた博士が墓を掘り返すと同時に息絶え、夜叉が復活するくだり。
ここはガロ版『鬼太郎夜話』(1967〜1969年連載)でも描かれます。
ただしガロ版は夜叉ではなく、牛鬼になっています。
夜叉とドラキュラが対決する場面も、牛鬼と対決するというかたちで引き継がれています。
更には、「おどろおどろ対吸血鬼」という話が1968年に『マガジン』で掲載されています。この話も「下宿屋」をベースに作られています。
他にもいろいろとあったりはする訳ですが、本気で調べようとすると論文級のものになってしまいますし、今の自分にはそれをやる力量・時間・費用の何れも圧倒的に不足していますので、このあたりに留めておきます。
とは言え、こういうのを検証していくのは非常に楽しい作業だとも思う次第です。
様々なバージョンの何れも異なる味わいがあり、水木作品の奥の深さ・広大さに感嘆するばかりです。
今後も少しずつ『鬼太郎』シリーズを集めてはじっくり読み解いていきたいですね。
【参考文献】
この文章を書くに当たって、こちらの書籍を大いに参考にさせて戴きました。
- 作者: 山口信二
- 出版社/メーカー: やのまん
- 発売日: 2007/05/26
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 1,193回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
この本は実に素晴らしい内容ですよ。お薦めです。