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時折マンガの話をします。

『魔乳秘剣帖』に関する一考察

連投で『魔乳秘剣帖』について書いてしまいます。


(※以下の文章は事実に基づいているものの、僕個人の妄言が入り交じった推測の域を出るものではありません。鵜呑みにはしないよう充分にお気をつけ下さい。)


魔乳秘剣帖』は物語の骨格がしっかりとしている。その点については1つ前の記事で触れました。
作者の山田秀樹さんは、阿呆な設定をそのままに非常に真面目に時代劇を描こうとしているのだと考えられます。そしてそれを行うにあたり、相当入念な考証・調査を行っていると推測できるのです。
なぜかと言うと、幾つかの描写に過去の(時代劇)劇画の影響が見受けられるからです。


まずは時折出てくるカタカナ英語。
例を挙げると、

わかってます
おっぱい小僧を捕まえれば
おっぱいをゲットできるということですよね

(2巻143ページ)

という台詞があります。
カタカナ英語を用いるのはむしろ考証をないがしろにしているのではないか、そのように感じるのも無理はないことです。当然その時代に英語が使われることはなかった筈です。「ゲット」ではなく「手中にする」とかにするのが相応しい、と。
しかしですね、かの劇画界の巨匠・白土三平先生もカタカナ英語を使ったことがあるのですよ。
忍者武芸帳』のなかに、

どうした、一国一城の主になる夢は捨てたのか。
それにはまず侍大将になることだ。
それからあとはおまえの腕しだいさ・・・
ぜっこうのチャンスをのがすなよ・・・

(文庫版1巻324ページ)

という台詞があるのです。
カタカナ英語の使用は、むしろ伝統と言うべきです。


そしてもう一点。

魔乳秘剣帖 (1) (TECHGIAN STYLE)

魔乳秘剣帖 (1) (TECHGIAN STYLE)

こちら1巻の表紙ですが、魔乳千房の手に注目して戴きたい。
よく見ると、左手人差し指を立てています。
この行為、不自然には感じないでしょうか?全部の指できつく握っていたほうが力を込めることができる筈です。

しかしこれもまた伝統的な描写なのです。
貸本が出版されていた時期(1960年代初め頃)の劇画・時代劇で時折描かれているとのことです。一例として(と言うか唯一知っている事例なのですが)、劇画時代劇の大御所・平田弘史先生の代表作にして、諸事情あって長らく幻の作品であった『血だるま剣法』を取出してみます。

こちら。
因みに写真は2004年刊行の復刻版『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』からのものです。
その単行本収録の呉智英氏の解説に「刀の柄を握る指を、カラオケのマイクでも握るかのように指を一本挙げて描く奇妙な風習(当時のマンガなどで時々見た)」(159ページ)とあります。
また、『血だるま剣法』においても、「グロテスク」「スピード」といったカタカナ英語が用いられていますね。

つまりこれらの点から考えて、『魔乳秘剣帖』は長い時代劇劇画の伝統に則った正統的後継と位置付けることができる訳です。( ゚∀゚)
そう考えると、この作品も襟元を正して読む必要がありそうです。


・・・くれぐれも鵜呑みにはしないでくださいね。

血だるま剣法・おのれらに告ぐ

血だるま剣法・おのれらに告ぐ