マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『オタクはすでに死んでいる』を読んでみました。

少し前に読了してはいたのですが、暇がなくて感想を書けずにいました。
岡田斗司夫さんの『オタクはすでに死んでいる』です。
現時点で「オタク」について書かれた本(という言い方が正しいかどうかは判りませんが・・・)としてはかなり高いレベルにあると思います。
(追記:ネットの評判はどうにもよろしくないようです。趣旨は間違っていないと思うんですがね・・・。「岡田斗司夫さんが書いている」という点が問題なのかな。)

オタクはすでに死んでいる (新潮新書)

オタクはすでに死んでいる (新潮新書)

この本の元になったのは、今から2年ほど前、2006年6月にロフトプラスワンで開催されたトークライブ「オタク・イズ・デッド」です。
そして8月にはその内容を収録した同名の同人誌がコミックマーケットで販売されました。
『オタクはすでに〜』はその同人誌に加筆・修正を施した内容となっています。

本書タイトルが『北斗の拳』でのケンシロウの台詞のパロディですし、「オタク・イズ・デッド」も2005年に評論家の伊藤剛さんが上梓した力作論考『テヅカ・イズ・デッド』を敷衍したものと考えられます。
このようなパロディは非常にオタク的に感じたりもする訳ですが、それはまた別の話。


以下、概略と感想みたいなものを。


(僕が誤読をしていなければ)この本で語られるのは、「オタク」という共通概念が消滅してしまったということです。言い換えるなら「自分たちはオタクです」という一体感・帰属意識ですね。
タイトルの額面どおりに捉えたり、或いはタイトルだけ見て脊髄反射的に「何言ってんだふざけんじゃねぇ」とか思ってしまうと齟齬が生じてしまいます。そこは注意が必要かと思います。

この本の出発点は、岡田斗司夫さんが最近の(若い)「オタク」に対して感じた違和感です。
そして論を展開するにあたり、「オタク」を3つの世代に分類することから始めます。
世間の目もさほど厳しくはないので奇異の目はありながらも気にせず趣味と社会性を両立できた第一世代(現在40代)、宮崎事件によって世間からネガティブな視線を受けつつオタク趣味を受容してきた第二世代(20代終わり〜30代半ば)、生まれながらに大量のオタク商品に囲まれてそれに対する疑問を持たずに育った第三世代(20代前半)の3つ。
(余談ながら僕はギリギリ第二世代にいます。とは言っても第二世代の評論家さんの言説には少なからず違和感を感じていたりもするのですが。)

そして第二世代までは世代間の軋轢があるにしても何とか「オタク」という共通概念を維持し続けていたものの、オタクの世界に美少女主義が台頭し、それを端緒に各ジャンルの断絶が発生する。
それら諸状況を何となく説明できる言葉として何となく採用されたのが「萌え」だったものの、2000年代に入ってオタクブームに伴ってあたかもそれが中心概念のように認知されてしまう。
その結果、次第に嘗ての共通概念が消滅してしまった、つまり「オタクが死んでしまった」という結論に辿り着いています。


岡田斗司夫さんの強みは視点の広さだと思います。
萌えの起源・美少女主義の台頭を語る際に「週刊少年マガジン」の表紙のグラビアアイドルの使用とそこから男性誌が(マンガに限らず)軒並み表紙にグラビアアイドルを採用していくところに着目し、日本全体が美少女主義に傾いていったという指摘が非常に興味深かったです。
普通、萌えの起源とかを語る際は吾妻ひでおさんの同人誌『シベール』やロリコン趣味の発生あたりから始める場合が多い(気がする)んですよね。
「東京だけが日本ではない」、という指摘も(僕自身地方出身だけに)非常に納得できる。

逆に第二世代の論客の方々の著作を読むと、どうにも違和感・疎外感みたいなものを感じてしまう訳です。
随分前に東浩紀さんの『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)を読んだときに思ったのが、「各論としては間違ってないかもしれんけど、これを『オタク(総)論』とされるのはどうにも・・・(´Д`)」ということでした。

動物化〜』で取り上げられているギャルゲー、ひとつもやったことがない訳ですよ。
セイバーマリオネットJ』とか、その本で取り上げられるまで存在自体忘れていましたよ。
マンガへの言及が皆無なのですよ。世の中に存在しないかのような扱いです。
古い人間なんだよと言われたらそれまでですがね。(´ω`)

それでいて「一九九〇年代のオタク系文化では〜」とか書かれるとどうにも釈然としない。
だからこそ、岡田斗司夫さんの本に少なからず納得できたのだろうと思いますね。


『オタクはすでに死んでいる』では、「オタクという共通概念」が消滅した以上、これからは個々人が自分の好きなオタク作品を発信し続けるしかないという結論に辿り着いています。
そしてそれは案外楽しいことなのだ、と。
これもまた同意できる点だと思います。
このブログも、殆ど誰も読んでいないかもしれないけれど書いていて楽しかったりする訳ですよ。(´ω`)

一読の価値ありの本ですよ。


余談。
同人誌版との違いのひとつに、結末に書かれている「オタクたちへ」と題されたあとがきがあります。
ここで岡田斗司夫さんは自らが GAINAX を辞任した経緯について(知る限りでは初めて)触れています。それを信じるならば自らのノーブレス・オブリージを実践していたということだと思います。
その部分を含めて、あとがき部分は貴重な証言だと思います。