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時折マンガの話をします。

ふくしま政美『女犯坊』1巻

女犯坊 1 (1) (マンサンコミックス)

女犯坊 1 (1) (マンサンコミックス)


一言感想と言いつつも、少々長めに書いてしまいます。


とりあえず、帯の文章を引用してみます。

今年還暦の肉体に鞭打ち、睡眠時間を削り原稿と
格闘する姿はまさに修羅
妥協を許さず、原作者には再三の書き直し
スタッフにも極限まで厳しい注文を出す。
印刷所の10分おきの催促電話も無視
描き続け、ストレスから編集部もボロボロ。
必死の思いで仕上げた原稿にも、
劇画家は「まだ3割の出来だ・・・・・・」。

更にその文章の後ろにも別の文章が書かれています。

原作者悲鳴!
スタッフ失神!! 印刷所激怒!!!
編集部崩壊!!! 三十余年ぶりの
女犯坊』でふくしま政美
コミック界の最前線に
復帰した!

この帯だけで既に買う価値ありと言わざるを得ないですね。
ただまぁ、僕一人で盛り上がっていても何が何だか判らないかもしれませんので、上記引用に触れつつ『女犯坊』という作品の流れをかいつまんで追ってみようかと思います。

女犯坊』が初めて世に出たのは、1974年。「漫画エロトピア」という雑誌に連載されました。
名前のとおり、エロ劇画雑誌です。
同誌ではかなり人気があったらしく、1976年まで連載は続いています。

女犯坊』の内容を簡単に書いてみます。
主役は怪僧・竜水。圧倒的な性力と巨大な「モノ」の持ち主です。(´ω`;)
竜水は「世直し」を標榜しつつ数多の女性の相手をし、それと同時(ついで?)に権力(と性欲)に溺れた高僧とかを叩きのめし、体制そのものを転覆させようとする訳です。

この作品を際立たせているのは、エロ描写もさることながら、竜水の圧倒的なキャラクター造型と病的なまでの描き込みです。とりわけ筋肉の描写は尋常じゃない。
一度見ただけで忘れることができなくなるほどのインパクトを持っています。
現物を見たほうが早いかと思うので、とりあえず強烈なものを。(^ω^)



で、『女犯坊』において作者のふくしま政美氏は自らの画風を確立させて、注目もされることになります。
「マガジン」で『聖マッスル』を連載したり、梶原一騎と組んで『格闘士ローマの星』を描いたり(それらの人気は連載時イマイチだったようですが、現在はカルト的な人気が)。
ただ次第にふくしま氏の完全主義が更に凄くなっていくようで、描き込みはいっそう激しくなり原作者(ふくしま作品の殆どは原作付)と諍いを起こしたりした模様。
それが極限まで行った結果、『聖徳太子』という作品の連載中に失踪してしまいます。
(このあたりの経緯は名著『消えたマンガ家』に詳しいです。)


消えたマンガ家―アッパー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―アッパー系の巻 (新潮OH!文庫)


それから十数年、殆ど消息が掴めないという状況が続きます。
その間ふくしま氏の存在は殆ど忘れ去られていたのですが、90年代半ばにマンガの復刻ブームというのがありまして、その際にようやく再評価されるようになってきた訳です。
そして時期を同じくして消息が判り、確かロフトプラスワンで「ふくしま政美復活祭」というイベントも開催された筈です。

で、それ以降マンガ家の活動も再開するのですが、やはり描き込みの激しさとかは相変わらずで、すぐに連載中断となったり活動が途絶えたりという状況が続いてしまうのです。(´ω`;)
アフタヌーン」で一話だけ描いて中断した『THE 大市民』とか、何人くらい憶えているかな?

で、そんなふくしま氏がようやく『女犯坊』で単行本を出すまでに復活した、と。
これまでの『女犯坊』は天保年間から明治初期までが舞台でしたが、今回は現代です
女性の108の恨み・辛み・煩悩が合わさって、竜水は現代へと転生したのですよ。
その姿はふくしま氏自身の姿と重なって見える気がします。

ただ作者自ら語っているように、さすがに年齢的なものもあるのか全盛期の迫力に比べると幾分見劣りする感があるのは否めません。
それでも竜水が蹴りでビルを破壊するところとかは「おっ」と思わせるに充分でした。
今後のふくしま氏の動向に期待するところです。中断しませんように・・・。