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時折マンガの話をします。

『ブラッドハーレーの馬車』を、物語の点から検討してみる:第一話〜第四話

『ブラッドハーレーの馬車』というマンガがあります。
アニメ化も決定した『無限の住人』の作者、沙村広明さんが「マンガ・エロティクス F」という雑誌に連載していた作品で、昨年末に単行本になりました。

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

このマンガ、正直言いますと人にお薦めするのは躊躇われます。
非常に重苦しい気分になる内容なのです。
僕自身、どう評価したらいいものか考えあぐねている作品です。発売直後に買ったもののずっと感想を書かずにいた原因のひとつでもあります。(まぁ専ら、感想を書くより早くマンガが溜まってしまうのが主なのですが・・・。)

ただこの作品には名状し難い、繰り返し読んでしまう何かがあるのですよ。
ブログの感想等でとりわけ多く語られているのが、「少女の描かれ方」でしょうか。
有名どころでは、たまごまごごはんさんとかで頻繁に取り上げられていますね。

まぁ僕の場合、同じような観点で何か書こうとしても遠く及ばないので、物語の構成とかを絡めつつ検討してみようかと思います。
なるべくぼかして書きますが、ある程度のネタバレになってしまうのでご注意を。


【第一話 見返り峠の小唄坂】

第一話ということで、物語の背景が語られる。
ブラッドハーレー公爵と彼が設立した「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」の存在、そして公爵が毎年全国の孤児院から少女を養女として迎え入れ歌劇団でデビューさせていること。
そしてそれを隠れ蓑とした『1・14計画案』の存在も明らかにされる。

22ページ1〜2コマ目、『1・14計画案』の犠牲となったダイアナと孤児院の親友コーデリアの明暗(ダイアナの姿にスクリーントーンが用いられ、陰の差したかたちで描かれている)が強い印象を残す回です。


【第二話 友達】

『パスカの羊』(『1・14計画案』の犠牲となる少女の俗称)の過酷極まる運命が描かれる。
犠牲者のステラ・コーコランの肉体が破壊されていく様子が、淡々と描写される。
そして隣室にいた同じ孤児院出の少女・プリシラとの声のみでの交流。
44ページ(この回の最終ページ)があまりにも衝撃的。

尚、34ページのステラの独白、

先生達は・・・何にも知らなかったんだろうか・・・
それとも・・・

は、物語全体の構成を考えるうえで重要と思われます。


【第三話 ある追憶】

「実際に」公爵の養女に迎えられた少女フィリパ・ベスツェリと幼馴染みの少年ジョナスの交流が描かれる。
しかしフィリパは歌劇団デビューの直前に事故で脚を壊してしまい、舞台に立つことが絶望的になったことからジョナスと一緒になろうとした矢先、『パスカの羊』として送られてしまう。

この回にはひとつの疑問が生じます。
なぜフィリパが『パスカの羊』にならなければいけなかったのか、という点です。
この疑問は、第八話のブラッドハーレー公爵の行動を知るにつれいっそう深まるものとなります。


【第四話 家族写真】

この話では、囚人側から見た『1・14計画』が描かれる。
元・政治記者のクリフ・ガードナーが推測する『1・14計画』の真相とそれに対する情報統制。
その「推測」を語ったガードナーが消されてしまうことで、情報統制の厳密さ・堅固さが示される。

しかし第五話・第七話を検討するとその情報統制についても少なからず綻びがあります。それについては後述。
トーリー的には、囚人ピアス・ドーソンが『パスカの羊』として送られてきた娘エリザベス(余談になりますが、送られてくるのは「孤児」ですから、ピアスの奥さんは既に亡くなっていたということになります)を抱え上げて走り出す場面が印象的です。
87ページの最後のコマ、抱え上げられたエリザベスは微笑を浮かべています。その僅かな時間だけでも救われていたのだと思いたい箇所ですね。


続きます。