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時折マンガの話をします。

『ブラッドハーレーの馬車』を、物語の点から検討してみる:第五話〜第七話

さて引き続き、『ブラッドハーレーの馬車』の感想を書き連ねようかと。

第五話〜第七話までです。ある程度内容にも触れるのでご注意を。
ついでに書くと、いつの間にかたいそうな長文になっていました。


【第五話 絆】

公爵家の養女候補になった二人、ジェンとルビーの物語。
内気で友人思いのジェンと、複雑な過去を持ち強い野心を持つルビーの対照的な姿が描かれる。

111ページ1コマ目、2人の(少なくともジェンにとっての)「絆」であった帽子を最期まで掴んでいたジェンの姿が哀しみを誘います。

構成的な面で気になるのは、公爵家の秘密をへスター(孤児院の先生)は知らないという点です。
数々の言動から、夫人はジェン或いはルビーが純粋に公爵の養女になることを信じている。
一方、園長は「その後の運命」を知っている。
完全な情報統制を行おうとした場合、孤児院で働く人間は全員情報を共有するべきなのです。
こういう認識の不一致は都合が悪い筈なのですよ。第七話で真相を知るきっかけもそれです。
公爵側の脇の甘さみたいなものを感じてしまう訳ですね。


【第六話 澱覆う銀】

『羊』として送られてきた少女と、監守との触れ合いが描かれる。

この回ではその2人の様子がじっくりと描かれます。
絶望的な状況から、繰り返し首を吊ろうとする少女。
それを阻止し、会話を交わすうちに次第に少女に情を移していく監守。
監守の話を聞いて希望を抱く少女。助けるための行動を開始する監守。
しかしその試みは、公爵家が作り出した制度の前では無力に等しいものだった。

147ページ2〜4コマ目、監守の手引きで外へ出て、彼の到着を待つ少女の姿が切ない。
少女は彼に渡されたマフラーで自らの首を締め付けて、その後微笑を浮かべます。
首を吊ろうとした際に助けに来てくれた監守。少女は彼に思いを寄せ始めている。
自分で首を絞めたなら、必ず彼は来てくれるだろう。そんな願いを込めた行動です。

しかし彼は来ることはない。読者にはそれが判っている。
静かな哀しさが込み上げてくる回です。


【第七話 鳥は消えた】

歌劇団で活躍している養女・レスリーの物語。
レスリーの元に、かつて同じ孤児院にいたメイティが訪ねてくる。
メイティの何気ない質問から、レスリーは孤児院にいたマーガレット・ブリュエットが消息を絶っていることを知る。
そのことに不審を抱いたレスリーは事の真相を確かめようとするが・・・。

養女の側からも疑惑が芽生え始め、いよいよブラッドハーレー公爵の立ち位置が危うくなっているのが示される回です。(後ろ姿のみですが、唯一公爵の姿が描かれる回でもあります。)

この回でも、公爵家側の情報統制・情報操作の甘さを感じてしまいます。
孤児院への接し方を検討してみます。
同じ孤児院にいながら、レスリーは実際に養女として迎え入れ、片やマーガレットは『パスカの羊』として送られてしまう。
そしてマーガレットの件の真相を、孤児院の先生は知らされていない。
170ページの先生の応対もそうですし、156ページの

でも最後は幸せそうだったよ
命があるうちに娘を二人もブラッドハーレー家に送り出す事ができたって

というメイティの台詞から、前年秋に亡くなったジム先生も知らされていないことが判ります。(その一方で、第一話・第五話では孤児院の先生には知らされています。)
公爵側も「出自の孤児院に戻ってはならない」「出自の孤児院の者が当家を訪ねて来ても決して面会してはいけない」という制約を養女たちに課してはいるものの、同じく156ページでメイティが公爵家に入れてもらえていることから、どこかに養子・養女として引き取られてさえいれば孤児院出身でも出入りは容易ということが判ります。

両方とも養女として迎えるか、両方とも『パスカの羊』にしてしまうかすればこのような事態は避けられるのです。
或いは孤児院側に真相を知らせたうえで、権力を駆使して従わざるを得ない状況にしてしまうという手段も存在する訳です。
このあたりに脇の甘さを感じずにはいられません。

あとは、真相に近付いてしまったレスリーへの対応です。
フェニーチェ劇場にオペラを演じ、且つ主役級を演じるレスリーを即座に『パスカの羊』にしてしまう。つまりある日忽然と消えてしまう訳ですね。
他の養女たちにも様々な憶測・疑惑を抱かせるに充分だと感じます。この点については第八話でも触れます。


予定より長くなっているので、ひとまず区切ります。
次で最終話の検討と簡単なまとめを書きます。

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

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