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雷句誠さん問題その3:視点を変えてみる

雷句誠さんの提訴の件は、「マンガ家と編集者(或いは編集部)の関係」の話が主題になっています。
これは編集者への積年の憤りが滲み出た陳述書を読めば、このことを問題にしたかったのであろうことは明確に判ります。そしてこれに対する反響は大変な数にのぼり、同業者の方々からも色々と内情を伝える文章が出てきていることから、雷句誠さんの試みは(現時点においては)かなり成功していると考えてよいかと思います。


ただこの問題が大きくなり過ぎて、本来の「原稿紛失」に関する諸事情がおざなりになっている気がしないでもありません。(これも編集者の原稿に対する認識という点では地続きの問題ではありますが・・・。)
そんな訳で、この訴訟を通じてマンガ原稿は「美術品」としての地位を獲得し得るかどうかを考えてみようかと思います。


まずは訴状からの引用です。「6 本訴の意義」からです。

法的な側面でみた場合、未だ漫画の原稿を「著作物」として扱われることはあっても、「美術品」として扱った前例がない。漫画の原稿の紛失については、数々の事例があるが、いずれも「美術品」としての損害賠償請求がなされたことがない。

ここで気になるのは、「法的にみた場合、『著作物』と『美術品』の違いは何だろう」というものです。法学を研究した訳ではないので、正直違いがよく判らないのですよ。何となく別物であろうという印象はありますが説明に窮してしまいます。

そんな訳で、著作権法を調べてみました。
著作権法第2条第1項で「著作物」の定義が述べられています。それによると、

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう。

とあります。少々定義が広過ぎますね。
第10条第1項で、それよりは詳しい分類が為されています。

1 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
2 音楽の著作物
3 舞踊又は無言劇の著作物
4 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
5 建築の著作物
6 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
7 映画の著作物
8 写真の著作物
9 プログラムの著作物

注目すべき点は4ですね。「美術品」は「著作物」の概念の中に含まれると考えていいようです。美術品=著作物だけど著作物=美術品にはならないのがポイントですかな。

僕の手元にある作花文雄『詳解著作権法 [第2版]』(最新版は第3版です)によると、「漫画の絵やイラスト画なども美術の著作物に含まれる」(95ページ)と書かれています。
マンガを「美術品」と看做すのに問題無さそうな記述にも思えますが、「漫画のや」という箇所が事情を複雑にしているような気がします。
ではマンガの原稿の場合はどうでしょう?
ここでマンガという媒体ならではの特殊性が問題になるように思う訳です。

マンガは絵と台詞が不可分に結びついています。
台詞なし・或いは極端に少ない作品も当然ありますが(『SLAM DUNK』山王工業戦の最後とか石ノ森章太郎さんの『ジュン』とか坂口尚さんの短編とか)、それらはあくまで例外的なものです。
つまりマンガとは、第10条の分類でいうと「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」と「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を併せ持つ著作物と言えます。
このどちらか一方でも欠けていると、マンガ(ひいてはマンガ原稿)は成立しない。

そしてこれには「キャラクター」という概念も絡んできていまして・・・。
と、随分長くなったので一度区切ります。
自分で調べながら書いているので非常にまとまりのない内容になっているのはご容赦願いたく思う次第です。