マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

47年前のトレースマンガ

先日トレース疑惑への雑感という記事を書いてみたところ、予想以上にコメントを戴きました。
あまり深い考えなしに書いた文章だったもので、非常に真摯なコメントであったにも関わらずちゃんとしたレスができなかったように思います。やはりこの話題はより深く検討したうえで確固たる持論がまとまってから書くべきであったかなと反省している次第です。(´ω`;)


まぁ今日書くこともトレース関連なのですが。
問題提起とかいうのではなく、こういうものが以前あったのですよという報告です。
タイトルどおり、今から半世紀近く前に存在したトレースマンガをご紹介します。


こちらです。


(1997年に出版された復刻版です。不気味ですね!)


『寄生人』という、1961年に描かれた作品です。作者はつゆき・サブロー
1950〜60年代を中心に出版された「貸本」で描いていたマンガ家さんです。
つい先頃『遠野物語』の新連載を始めた水木しげるセンセイとも交流があり*1、最初に出版された(つまり貸本の)『寄生人』の表紙は水木センセイが描かれておられます。
今年始めにアニメ化された『墓場鬼太郎』をご覧になった方も多いと思いますが、あれに登場した「霧の中のジョニー」(或いは『ゲゲゲの鬼太郎』の吸血鬼エリート)はつゆき氏がモデルになっています。ほんとうにそっくりなんですよ。


つゆき・サブロー氏。同じでしょう?)


因みにどういう話かといいますと、表紙からも察せられるようにホラーマンガです。
主人公の新聞記者・水原の膝に化物が巣食ってしまい、次第にその化物が水原の身体を乗っ取ろうとして・・・というボディ・スナッチもの。『ジョジョの奇妙な冒険』第3部に登場するネーナのスタンド「女帝」を思い起こさせますね。


そしてこの『寄生人』ですが、殆どのコマがトレースです。
復刻版に同梱されている冊子に詳細な解説がありますが、『墓場鬼太郎』シリーズの第1話「幽霊一家」と第2話「幽霊一家 墓場の鬼太郎」のコマをトレースして、入れ替えて構成されているのですよ。
だから初めて読んでも物凄いデジャヴを感じるんですよね。(;^ω^)


しかし技術的な面では水木センセイには遠く及ばず、B級テイストが溢れる雰囲気になっています。
当時の流行なのか或いは貸本ならではの傾向か、グロテスク指向も強いですね。
技術の拙さが逆にストレートな不気味さ・気持ち悪さを感じさせるような箇所もあり、強いインパクトを残す作品となっています。


当然現在だと大騒ぎになるようなつくりですが、これが成立し得たのは、

  • 当時は著作権という概念があまり顧みられなかった
  • 更には貸本という、捨て去られ忘れられるのを半ば宿命付けられたジャンルで生まれた作品である
  • 作者とトレースされた側に親交があった

こういった事情が挙げられるかと思います。
いずれにしろ、そのような時代でのみ誕生し得た、まさに奇書と呼ぶに相応しい作品なのです。

寄生人 (QJマンガ選書 (06))

寄生人 (QJマンガ選書 (06))

*1:つゆき・サブロー氏は『カランコロン漂泊記』(小学館文庫)所収のエッセイでも紹介されていますし、『東西奇ッ怪紳士録』(小学館文庫)にも登場します。