何日か前、天乃咲哉さん*1の新刊『御伽楼館』を購入しました。
御伽楼館 1 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)
- 作者: 天乃咲哉
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2008/07/28
- メディア: コミック
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- 公式サイト:天乃咲哉【此花工房】
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物語の起点となるのは、双子の美人姉妹が経営する人形店。
そこでは若い女性に限り、その女性の "想い" が詰まった品物と交換で人形を無料で貸し出しています。
そして人形を借りた女性は、自らの "想い" にまつわる不思議な体験をすることになります。一話完結型で、その女性と彼女に関わる人たちのエピソードが綴られます。
女性たちは時に苦しい過去・過ちと向かい合うことになりますが、最終的には前向きな、明るさを感じる結末で統一されています。非常に読後感もよく、お薦めできる一冊だと思います。
ところで『御伽楼館』ですが、この作品は「コミックエール!」という雑誌で連載されています。「まんがタイムきららキャラット」増刊という位置付けの隔月誌です。創刊されて1年ほどになりますが、「男の子のための少女マンガ誌」というコンセプトが話題になったのを記憶しておられる方もいるかと思います。
- 参考:コミックエール!のサイト
最初このコンセプトを聞いたときは「キワモノかな」とか思ったりもしてしまいましたが、どうしてなかなか良質な作品を送り出しているようです。あまり読んでいないので大きなことは言えないものの、『御伽楼館』に限定すれば、流麗な線で描かれたキャラクターや繊細な心理描写、背景に用いられるトーンワーク等は「少女マンガ」と呼ぶに相応しいものだと思います。
そしてまたこの作品は、「男の子のための」というコンセプトにも沿ったものだと思う訳でして。*2
非常に読みやすいのですよ。
少々話は変わりますが、初めて少女マンガを読んだ際のことを記憶しているでしょうか?
僕の場合、それらしい最初の体験は高河ゆんさんの『アーシアン』です。で、読んだ際の感想を正直に言うと、何が起こっているのかよく判りませんでした。
どうやら「ちはや」と「影艶」という二人がメインらしいけど、この二人が何をやっているのかよく判らない。ストーリーがあるのかどうかもよく判らない。コマの読み進め方が判らない。断片的なモノローグの意味が掴めない。キャラクターの区別も付きづらい。
それまで読んでいたマンガ(主に「コロコロコミック」や「ジャンプ」のもの)とはあまりにも異質だった訳です。
それ以降、かなり長い間少女マンガを読まない時期が続きました。*3本格的に読み始めたのはここ6〜7年くらいです。結局『アーシアン』もあれから読んでいません。今なら読めると思うので、折を見て買ってみたいとは思っています。
思うに、「少女マンガを読む」という行為(或いはリテラシー)は外国語の習得に似ている気がします。
いつ頃から接していたかが重要になる。最初に少年マンガに慣れてしまうと途端に理解が難しくなるように思います。
後々になってから読み始めた場合は、感性がものをいうように感じます。それが不足している場合は数をこなす必要がある。いろいろと読んで少女マンガの「文法」を掴んでいくという訳です。
僕には感性というものが不足しているようなので、ある程度の場数を踏む必要がありました。
確か『こち亀』で、大原部長にマンガを読ませる話がありましたね。両さんが部長に少女マンガを見せて「なんだこりゃ!」と部長が叫ぶくだりがあったかと思います。
その際に両さんは、段階を踏んで段々と「高度なリテラシーを要する」作品を部長に読ませます。その話では必ずしも「少女マンガ」に限定してはいませんが、同様の読み方は少女マンガをこれから読もうとする方々には有効だと思います。
ようやく『御伽楼館』の話に戻ります。
この作品は、そういう「入門」としても非常に優れていると思う訳です。
既に書いたように、『御伽楼館』には非常に少女マンガ的な表現が多数用いられています。にも関わらず非常に読みやすい。あまり奇を衒ったようなコマ割りはないですし、モノローグ(内面描写)も極端に詩的な表現になったりせず、ストーリーに沿ったものになっています。実に丁寧に、「男の子」の視点に立って作られているように思うのです。*4
これまで少女マンガをあまり読んでいないという方は、この作品を取っ掛かりにいろいろ読んでみるのもいいかもしれません。名作はたくさんありますよ。僕もまだ読めていない作品が数え切れないほどありますし。
他のエールコミックスも気になりますね。・・・欲しいマンガがまた増えました。(´ω`)
※最近は少年マンガと少女マンガの区別は曖昧になりつつあります(その最先端が「コミックエール!」と言えるかも)が、そこらへんに入り込むと複雑になり過ぎて少々僕の手に余るので割愛します。