漫画ナツ100詳細:その1【1〜38】
8日に、漫画ナツ100のリストを作成しました。
しかしリストだけでは味気ないので、3回ほどに分けてそれぞれの作品について簡単な解説をしていこうと思います。
実を言うと、書き終わってから「しまった、あれを入れ忘れていた!」というのが幾つか見つかって身悶えしているところですが、それらについては次回以降に回したいと思います。それでは早速開始。
ファミコンロッキー (1)
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ファミコンロッキーこと轟勇気は、僕にとってのヒーローのひとりです。
五十連打をしている最中は自機を操作できないのではないかとか考えた時点で敗北です。因みに「シルビアが真のラスボス」説*1の出所もこの作品、の筈。
因みに朝日ソノラマなので、現在は入手が難しいかもしれません。
吾妻ひでおさんがマンガ界から失踪した時期のことが描かれています。
ホームレス生活・配管工の仕事・そして極度のアルコール中毒による精神科への入院。
壮絶な内容でありながら、実にとぼけた感じに描かれているのが凄い。
3.新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』(完全版)
無差別爆弾テロを繰り返す二人組と、北海道に突如出現した謎の巨大生物。
圧倒的なまでの暴力描写やテロリストの一人がカリスマとして祭り上げられる様子、そして独立して描かれていたそれぞれのエピソードが一箇所に収斂されていくのが見事です。
個人的にはヤングサンデー版の装丁が好みですが、こちらは全14巻なので断念。
4.荒木飛呂彦『死刑執行中脱獄進行中』
やはり荒木先生は外せませんね。(^ω^)
この短編集は『ジョジョ』に登場したキャラクターが再び出てきます。ファンにとっても嬉しい一冊。
5.安野モヨコ『監督不行届』
オタクな夫婦生活が描かれます。実に楽しそうです。
個人的には『働きマン』とかより、こういう雰囲気の作品を描いて欲しいです。
6.井浦秀夫『少年の国』(文庫版)
ある不思議な能力を持っている(と思われる)少女が新興宗教の教祖に持ち上げられ、次第にカルト化していく様子が生々しく描かれます。明らかにオウム真理教を念頭に描かれていますが、この作品が描かれたのは地下鉄サリン事件より前。
因みに作者さんは『弁護士のくず』を描いておられる方ですよ。
双葉文庫は一部を除いてあまり版を重ねないので、興味がおありの方はお早めに。
岡っ引きの佐武やんと、盲目の按摩でありながら居合の達人・市やんの二人が遭遇する様々な捕物。
それは時に哀しく、不条理ですらある。
複雑な心理を物語に折り込みつつ、演出面においても様々な実験・工夫が凝らされている傑作です。
8.石ノ森章太郎『少年同盟』(文庫版)
石ノ森章太郎さんは実に博学な方ですが、オカルト的なものへの関心も高かったようです。
それを巧みにSF的設定に組み込んだりもするのですが、その出発点と思われるのがこれ。
僕が持っているのは文庫版ですが、現在入手困難なので画像はオンデマンド版。
上で書いた「オカルト的関心」の到達点と言えるのが「リュウ三部作」です。
その第一作であり、私見では最も完成度が高いと思うのが『リュウの道』。ミュータントの造型も見どころです。
これも最近書店では見掛けなくなっている・・・。
10.樹なつみ『OZ』(完全収録版)
あのラストシーンは、未だに僕の胸に鮮烈な印象を残している。
多くは語りません。是非読んで戴きたい、傑作SFです。
「東ノ本組」(ヤクザ)が経営するコンビニ「ラバーズ7」では、何か問題・揉め事があった場合は「卓球対決」で白黒を決めることになっている。
そこでかつて万引きをして、卓球で負けたことからバイトをさせられているひろみ(♂)と同じく万引き疑惑が元でバイトをすることになったなつき。そしてラバーズ7のオーナー・ムネノリは嘗てなつきの母親に片思いをしていて・・・。
登場人物の恋愛模様に、ジリジリさせられること請け合いです。悶えてしまえばいいのです。(^ω^)
言わずと知れた、マンガ史上屈指の名作。
マンガはここまで描けるのか、と思わせる作品だと思います。
13.卯月妙子『実録企画モノ』
卯月妙子さんは、嘗て伝説的な「企画モノ」ビデオに出演していました。
その時期も含めた、ほぼ完全な自伝的内容となっています。
あまりにも凄絶過ぎる人生。そして人は、ここまで自分を描き抜くことができるのか。
内容故に受け付けない方も多いと思いますが、僕は『失踪日記』を超える内容だと思っています。
14.羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
時には定番を。
僕個人としては、これほどまでに「青春」のこっ恥ずかしさを描いた作品はないと思います。
竹本の「自分探し」を喝采する老教授たちのリアクションが大好きなんですよ。
説明不要の名作かと。
突然、小学校とそこにいた生徒たちが遥か未来へと飛ばされてしまう。次々に迫り来る苦難と危機。時空を越えてでも子供を助けようとする親。そして絶望の果てに、僅かに芽生える希望。
必読の一作です。
奇蹟を目撃する。
そんな一作です。是非とも自分の目で確かめて戴きたいのです。
やはり入れざるを得ないですね。マンガ表現の、到達点のひとつだと思います。
ネオ東京崩壊の描写は圧倒的です。そして崩壊後のネオ東京の混沌とした状況に、僅かな羨望を感じてしまうのは僕だけでしょうか?
ストーリーの完成度は、こちらのほうが高いかも。
或る団地で繰り広げられる超能力対決。日常と非日常の対比的描写が鮮やかです。
憲法により、クイズで国家の意思決定が為されるようになった近未来日本。
それを推進する側、反対する側、その他幾つもの思惑が錯綜する。そしてこの日本が向かう先はどこなのか。
異様なテンションに満ち溢れた怪作です。
「オタク」を題材にしつつ、それを真正面から肯定的に描いた記念碑的作品。
自分は体験できなかっただけに、このような大学生活には率直に憧れます。
とは言え個人的には荻上登場以降の、「オタク故の、自らの表現を送り出す苦しさ」を描いたことが、この作品を傑作たらしめていると考えます。
21.木崎ひろすけ『A・LI・CE』
A・LI・CE (角川コミックス・エース・エクストラ―Hirosuke Kizaki memorial edition)
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どの作品にしようか迷いましたが、唯一ちゃんと完結しているこれを。
アリスという少女を巡る、異なる勢力の対立・抗争が描かれます。
作者さんは非常に繊細な性格だったらしく、途中で描けなくなってしまうことが殆どだったようです。因みにこの作品はアニメ版もありますが、アニメとマンガでは結末(の印象)が随分異なります。見比べてみるのも一興かと。
『げんしけん』と同じく「オタク」を題材としていますが、アプローチはまるで異なります。
オタクの負の要素を容赦なく描きます。精神を抉り取られるような気分になりますね。
絵柄に騙されると痛い目をみます。気を引き締めて読みましょう。
1960年代末のカウンター・カルチャー期に大いに脚光を浴びたアメリカのマンガ家、ロバート・クラム。
そのブームはやがて消えるが、彼はその後自分自身の体験や家族を題材にしたマンガを描き始める。それらを中心とした傑作集です。自らの性癖まで吐露しつつ、皮肉と猛毒に溢れている内容が実にいいですね。非常に濃い絵柄なので好き嫌いははっきり分かれそう。
24.こうの史代『夕凪の街 桜の国』
これほど静かに、且つ強く心に訴えてくる作品は稀です。
1コマたりとも無駄な箇所はないので、隅から隅まで読み尽くしましょう。
これは「ヒロシマ」が持ち続ける宿命からの、解放の物語でもあると思います。
25.坂口尚『石の花』(文庫版)
坂口尚さんの長編三部作*2の1作目。
舞台となるのは第二次世界大戦期のユーゴスラヴィア。ナチスの侵略に対しパルチザンに身を投じる少年、強制収容所に送られてしまう幼馴染みの少女、祖国の為に二重スパイとなる少年の兄、その兄の親友でもあったナチス将校、その他多数の人物により繰り広げられる群像劇です。
そしてその戦争を通じて、少年が見た「戦争」と「平和」の真実とは。たいへんな名作なので是非ご一読を。
最近文庫版が品薄の模様。光文社シグナル叢書から復刻されていますが篦棒に高いのがネックです。
26.坂口尚『VERSION』(文庫版)
長編三部作の2作目です。
コンピューターのバイオチップ作成過程で偶然できた「自己増殖細胞を持つバイオチップ」、通称「我素」。
我素の争奪戦を核に物語は展開していきます。
そしてこの作品では、人間の持つエゴイズムついて執拗な考察が為されます。更には前作『石の花』において絶対の自信を持っていた「自分自身への信頼」というもの(詳細は省きます)についてまで疑いの目を向けているように思えます。坂口氏は常に思索し続ける人なのです。
これも品薄らしい。何でだ・・・。('A`)
27.坂口尚『あっかんべェ一休』(文庫版)
三部作の掉尾を飾る作品。
一休宗純、八十八年の生涯が描かれます。
そして『VERSION』において疑問を呈された「自分自身への信頼」に、この作品で再び回帰しているように感じます。
やっぱり品薄。頼むから版を重ねて欲しい・・・orz
書き忘れていましたが、坂口尚さんの作品は何れも圧倒的な画力で描かれています。
マルクス主義史観云々で敬遠するのはあまりにも惜しい。
忍者たちの戦いや多彩な登場人物の織り成す群像劇を堪能しましょう。非常に規模も大きく、読み応え抜群です。
劇場版やアニメのほうしか観ていない人って、意外と多いのではないでしょうか?
押井監督が凄いのを認めるにやぶさかではないですが、原作の持つユーモア感を完全に消し去っているんですよね。かなり印象は異なるので未読の方は是非。膨大な註釈も読んでいて楽しいです。
『攻殻機動隊』を読み進めていくと、次第に量子力学等の最先端科学と神話・宗教が融合した世界観が顕著になっていきます。*3そして「神話・宗教」の面を最初に、且つ最も強く押し出している作品がこれ。
破天荒な展開と、卓越した言葉遊びをご堪能あれ。
31.アート・スピーゲルマン『マウス』
マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語
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作者はユダヤ系アメリカ人です。そしてその父親は、アウシュヴィッツから生還したという過去を持ちます。
それぞれの民族は擬人化したかたちで描かれ、*4作者が父親へ聞き取りをする様子も作中で描かれていきます。更には作者自らの過去、父親の行動に対する反撥や責任追及まで。
これは単にユダヤ人の過去を描いた作品ではなく、父と子の葛藤の物語でもあるのです。
32.高橋葉介『夢幻紳士【幻想篇】』
夢幻紳士 幻想篇
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グロテスクと妖艶さの、奇跡的な融合。
夢幻魔実也の圧倒的な存在感。
読者すら罠に掛けるような、卓抜したプロット。必読です。
33.高橋葉介『夢幻紳士【迷宮篇】』
夢幻紳士 迷宮篇
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上に同じく。
話は独立しているものの、【幻想篇】をあらかじめ読んでいたほうが楽しめます。
実は【逢魔篇】を入れようとして間違えていた、というのは秘密。どれも非常に完成度が高いので問題はないです。
これも説明は不要ですかな。
子供の頃は、四谷さんが出てくる壁の穴の中がどうなっているのか、気になって仕方なかったものです。
・・・今でも気になりますね。そういえばアニメ版には、穴の中を五代君が覗き込む場面があったかな?
35.たかもちげん『祝福王』(文庫版)
祝福王 (1) (MF文庫)
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「宗教」そのものを、真っ向から描き抜いた作品です。
とりわけ文庫版3巻で描かれる、主人公が煉獄を巡る描写は驚異的です。
そんじゃそこらの精神では描けません。
「マンガでマンガを語る」大傑作。
ギャグ或いはパロディとして描かれつつも、作中の指摘・批評は実に鋭いです。
『サルまん2.0』の頓挫は非常に残念ですね。
BLの原点的な見方があるかもしれませんが、この作品はそれを遥かに踏み越えた深さがあります。
物語の核となるジルベールとセルジュの、決して譲れない恋愛観のぶつけあいです。
身を削るような、しかし限りなく純粋な二人の姿に刮目してください。
ただメシを食べ続けるだけなのに、桁違いの面白さ。
つまらないとか言う輩にはもれなくアームロックをお見舞いします。(^ω^)
マンガを読む時はね
誰にも邪魔されず
自由で なんというか
救われてなきゃあダメなんだ
とりあえず一区切り。続きます。