もうひとつのまんが道『劇画漂流』
3日ほど前ですか、本屋をうろついていたらたまたま目に留まって、思わず手に取ってしまったマンガがあります。
- 作者: 辰巳ヨシヒロ
- 出版社/メーカー: 青林工藝舎
- 発売日: 2008/11/20
- メディア: コミック
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辰巳ヨシヒロさんの『劇画漂流』上巻です。
遂に単行本になったか!という思いですね。
この作品は、「まんだらけマンガ目録」ならびに「まんだらけZENBU」に連載されていました。
作者の辰巳ヨシヒロさんの、自伝的内容となっています。
- 作者: まんだらけ編集部
- 出版社/メーカー: まんだらけ出版部
- 発売日: 2003/06
- メディア: 単行本
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12年という年月を掛けて完結させた作品です。なにぶん季刊の目録に掲載されていた作品なので知っている方はあまり多くないのかもしれませんが、これは実に素晴らしい作品だと思っています。・・・などと書いている僕も、金欠のため途中から目録を買わなくなってしまっているので、どういう結末を迎えたのかはまだ知らないのですがね。(´ω`;)
辰巳ヨシヒロさんは、「劇画」の出発点とも言える短編誌「影」(1956年創刊)の中心メンバーのひとりです。
最近では死語に近いのかもしれませんが、「劇画」は「まんが」に変わる新しい表現として非常に大きな注目を集めた時期がありました。後々のマンガにも大きな影響を与えています。
『劇画漂流』上巻では、マンガを描き始めた少年期から「影」創刊までが描かれています。
当時のマンガ少年の例に漏れず手塚作品に傾倒し、ハガキまんがへの投稿を始め、それが何度か入選することで注目され、それが元で手塚治虫との座談会が実現し*1、その後も大城のぼる*2に自作を送ったり出版社に持ち込みをしたりして、日の丸文庫に腰を据えたあたりで後の劇画を担っていく若手*3が集まりだしていく・・・という流れが縦軸として描かれます。
そして横軸となるのが家族のこと、その頃熱中して観た映画の数々、更にはその当時の社会状況(紙芝居や絵物語の流行とか、時事的な話題とか)。
あたかも「劇画」が誕生した時代そのものを描こうかとしているように、詳細に描いていくのです。
後に「劇画」と呼ばれるようになる新しい表現を模索し、煩悶する姿も同時に描かれます。
印象的な台詞を引用してみます。
手塚センセが雑誌に進出してからは場面構成が窮屈になって おもろなくなったやろ
何百ページもの長編を描いていた人が数ページしか貰えんかったら当り前や単行本は枚数が多いさかい コマ運びも自由に使ってええはずや
コマの運びでもっと心理的なものを表現できるんや*4(379ページ)
そして「心理的なものを表現」するために、映画で使われていた手法をマンガの中に取り込んでいき、多くのコマを使用してキャラクターの心理を描こうと苦闘する様子が、作中で描かれています。そしてその苦闘の成果が、「影」に掲載した作品になるという次第です。
その当時観た映画の説明に多くのページが割かれているのも、ここに繋がってくる訳です。
『まんが道』でも度々映画の話が出てきますが、当時のマンガ家の方々はほんとうにたくさんの映画を観ていたのだな、と感心します。
それにしても、手塚治虫に夢中になりマンガの世界に入り込んだ人が、その当人とは対極に位置する(少なくとも当時は位置していた)「劇画」を生み出すことになるとは、不思議なものを感じますね。
さて下巻は12月下旬に発売される模様ですが、「劇画工房」の結成とか、劇画の主要媒体だった貸本の衰退とか、週刊誌の勃興と劇画ブームの到来とかが描かれるのかな?読んでいないあたりなので楽しみです。
・・・それにしても、自分はほんとうに感想を書くのがヘタだな。('A`)