『ちはやふる』の、見開き描写から伝わってくる気魄について
先日、「マンガ大賞2009」の結果が発表されました。
見事大賞を受賞したのは、末次由紀さんの連載復帰第一作となる『ちはやふる』。
この結果については何ら異存はありませんね。『ちはやふる』は、昨年出版された数々の作品のなかでも、圧倒的な面白さだと思います。リンク先の記事も、末次由紀さんの真摯な姿勢が伝わってくる良い記事だと感じました。
実際この作品からは、描き手の熱い情熱がひしひしと伝わってきます。
全てのコマに、妥協がまったくないのですよ。少なくとも僕にはそう見えます。
今回はそんな中から、見開きページの描写に注目してみようかと思います。見開きにするということは、つまり作品の見せ場でもあるということですからね。
以下、画像を幾つか使用すると共に、ネタバレもある程度含みます。読み進める際はご注意を。
記事の収納もしておきます。
取り上げるのは2箇所。
まずは1巻の、千早がかるたの才能を開花させるあたりの描写です。第一話の冒頭の迫力もそれはそれは見事なのですが、個人的に強い衝撃を感じたのは前者だったので。ページで言うと109〜111ページあたりです。
千早のかるたの才能は、天性の耳のよさです。
その聴力については、かるたの試合以外の描写でも伏線が張られています。
階下の、しかも窓が閉まっている状況にも関わらず、校長先生の声を聞き取る場面です。かるたの場面ではないこういう日常描写で、さりげなく伏線を張っているのですね。
千早は自分のクラスに転校してきた綿谷新にかるたを勧められ、一緒にやるようになります。そしてかるた会に入ることに。そこで同年代の少年たちにバカにされたことがきっかけで彼らと勝負をすることに。その勝負において、千早の才能が明確に花開くのです。
かるたの札(百人一首)はテープかCDで詠まれます。因みに上の写真では途切れてしまっていますが、千早は深い集中に入って音を捕えようとしています。そして最後のコマで、ラジカセの左上が光っているような描写になっていますね。これは言うまでもなく、ラジカセから何かの音が発せられた、まさにその瞬間だということを表しています。そしてそのページをめくると・・・
このページを最初に観た際、皮膚が粟立つような感覚を味わいました。何回読み返しても、この場面は凄い。
ページいっぱいに描かれる「バンッ」の擬音。そのオノマトペにさえベタで線を加えることで、圧倒的なスピード感を表していますね。千早の右腕も斜線のみで描かれています。
そして千早以外の誰も、身動きが取れていない。
正確に言えば少し違いますね。新だけは、僅かに反応しています。
千早の左隣にいるのが新ですが、よく見ると顔が千早のほうを向いています。千早の動きに辛うじて反応はできているのです。
この時点では明らかにされてはいませんが、新はかるたの全国大会で、学年別で5年連続優勝しているほどの実力です。そのレベルでありながら僅かに顔を動かすことしかできなかったというところから、千早の反応の早さを窺い知ることができます。
次は最新刊(4巻)から。クイーン初登場の場面です。
全国大会出場を決めた千早たちが、会場となる近江神宮で勝利祈願を行います。
そこに丁度参拝に来たのがクイーンです。*1
どうですか、この圧倒的な存在感。
この見開き、よく見てみると大変な手間が掛かっているのですよ。
クイーンを描く際、スクリーントーンを使用していません。
陰影の描写をすべてカケアミ線で行っているのです。*2
このクイーンの姿は何か神秘的・ミステリアスな雰囲気を伴っており、たいへん重厚な印象を与えます。
この存在感は、恐らくスクリーントーンを使っては出すことができなかったと思います。
さらりと流して読んでしまった方がもしいらしたなら、是非ともじっくり読み返して欲しい。これらページにどれだけの気魄がこもっているか判るのではないかと思います。
さて『ちはやふる』の次巻は6月に出るとのことです。その巻で遂に千早とクイーンが初対決するらしい。
いったい次はどのような感動をもたらしてくれるのでしょうか。3ヶ月後が楽しみでなりません。
という訳で、今日はこのあたりにて。
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