マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

マンガ家と出版社との関係についての、ちょっとした話

何日か前に、こんなニュースが話題になりましたね。


簡単に書いてしまうと、『新ブラックジャックによろしく』『特攻の島』の連載終了以降は、作者の佐藤秀峰さんはネット上での連載に移行する、というものです。その理由のひとつには、出版社との確執があるとのことです。その詳細についてはご自身のサイト(佐藤秀峰 on Web)のプロフィールで赤裸々に綴っておられます。そちらもずいぶん話題になったのでご存知の方も多いかと。


マンガ家と出版社との確執という話題は、ここ何年かで急速に増えてきた感があります。昨年には雷句誠さんの騒動がありましたし、それを受けるかたちで松永豊和さんの自伝的小説「邪宗まんが道」が話題になったりもしました。



ところでこの「マンガ家と出版社との関係」、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
出版社がマンガ家を囲い込んで、自社に縛り付けているみたいな印象を持っておられる方も案外多いのではないでしょうか?
仮にそういう印象が強いとして、その原因は何かと考えると、いわゆる「ジャンプの専属契約」とかが有名になったことと、実際のところ複数の出版社に描いている作家さんが少ないということが大きいと思います。


しかし必ずしもそうではありません。
専属という概念から半ば無縁の業界も存在します。


BLですね。


論より証拠。有名どころの作家さんと、作品を幾つか挙げてみましょう。


まずはヤマシタトモコさん。

タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス)

タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス)

恋の心に黒い羽 (MARBLE COMICS)

恋の心に黒い羽 (MARBLE COMICS)

イルミナシオン (mellow mellow COMICS)

イルミナシオン (mellow mellow COMICS)

上からリブレ出版東京漫画社宙出版


高永ひなこさん。

不器用なサイレント (ビーボーイコミックス)

不器用なサイレント (ビーボーイコミックス)

リトル・バタフライ (1) (GUSH COMICS)

リトル・バタフライ (1) (GUSH COMICS)

ターニングポイント (Dariaコミックス)

ターニングポイント (Dariaコミックス)

同じく上からリブレ出版海王社フロンティアワークス


大和名瀬さん。

教師も色々あるわけで (ビーボーイコミックス)

教師も色々あるわけで (ビーボーイコミックス)

無口な恋の伝え方 (キャラコミックス)

無口な恋の伝え方 (キャラコミックス)

ちんつぶ 1―CHINKO・NO・TSUBUYAKI (MBコミックス)

ちんつぶ 1―CHINKO・NO・TSUBUYAKI (MBコミックス)

リブレ出版徳間書店実業之日本社*1


新田祐克さん。*2

春を抱いていた 13 (スーパービーボーイコミックス)

春を抱いていた 13 (スーパービーボーイコミックス)

公使閣下の秘密外交 (HertZシリーズ(19))

公使閣下の秘密外交 (HertZシリーズ(19))

男が男を愛する時 (花音コミックスミニ)

男が男を愛する時 (花音コミックスミニ)

リブレ出版大洋図書芳文社



リブレ出版はBLの超大手なので殆どの作家さんが描いているのですが、それ以外の出版社でもごく当り前のように描いているのが判りますよね。


この現象(複数の出版社・雑誌で描いている)原因の1つとして推測できるのは、BL作品は読切が主体であるという点です。連載であっても、長期連載になるものは例外的な存在なのです。リブレ出版だと、上に挙げた『春を抱いていた』の13巻というのが最長の部類ではないかな?ひとつの雑誌に縛られるということが起こりづらいのではないかと思う訳です。*3


唯一例外的に、長期連載作品が軸となっている雑誌があります。
冬水社から出ている「いちラキ」です。

いち*ラキ 2009年 06月号 [雑誌]

いち*ラキ 2009年 06月号 [雑誌]


これまた幾つか例を挙げてみましょう。

G・DEFEND(35) (冬水社・ラキッシュ・コミックス)

G・DEFEND(35) (冬水社・ラキッシュ・コミックス)


そして「いちラキ」で連載をしている作家さんは、僕の知る限りでは他の出版社では描いていません。
こう考えると、専属契約とか囲い込みというのは、連載(とりわけ週刊連載)という日本独特の出版形態が作り出した、極めて特殊な現象だということが改めて判りますね。
そこに様々な歪みが生じてきて、ここ数年になって遂にそれが表に出てきたということなのでしょう。


それ以外に「専属」から遠いのは、恐らく成年向と4コマです。
興味深いのは、成年向・4コマの出版社とBLの出版社が被っているところですね。
成年向だと大洋図書とかコアマガジン。4コマだと竹書房芳文社。何れもBL系の雑誌を持っています。あと芳文社実業之日本社はそれぞれオヤジ向マンガ雑誌を出していますが*4、両方とも専属とは無縁な印象があります。全然別の雑誌で連載していた人が突然新連載を始めたりすることが度々あるのです。


・・・こう考えてみると、4大出版社だけが特殊なのかな?
そしてそこがとりわけ巨大故に、本来当り前である筈の「複数の出版社での仕事」が特殊な例に見えてしまうと。
やはりマンガ業界というのは、不思議な世界なのだなと思います。


何ともとりとめのない文章になりましたが、今日はこのあたりにて。

*1:漫画サンデー」だけじゃないのですよ!

*2:ちょっと訳ありで現在休筆中ですが・・・。

*3:実際にはそれ以外に出版契約とかが絡んでくるのでしょうが、さすがに内部事情までは判りませんので。

*4:前者は「週刊漫画TIMES」、後者は「漫画サンデー」。