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時折マンガの話をします。

平野耕太『以下略』の、話題になりづらそうな元ネタの話

昨日、平野耕太さんの『以下略』を買ってきました。

以下略

以下略


ゲーマガ」にて連載中の作品です。ゲームショップに集うダメ人間たちの愉快過ぎる日常が、平野節全開で描かれています。独特の台詞回し、過剰なまでのハイテンション、そして機関銃の如く叩き込まれる、「オタクネタ」という名の弾丸。


ひぐらしのなく頃に』や『ガンダム』、『ベルセルク』等が度々ネタとして使われていましたね。それ以外にも福本作品や『バキ』、新作ゲームからファミコン時代のカルトゲームメーカー*1、同人業界ネタから80年代の描写*2に至るまで、とにかく扱う内容の幅広さ、濃さが只事ではありません。


さてそんな数々のネタの中から、敢えてちょっと話題になりづらそうなものを幾つか取り上げてみようかと思います。


まずは「もくじ」から。
各話のタイトルを抜き出してみます。

第一話  隠し砦の三悪人
第二話  生きものの記録
第三話  悪い奴ほどよく眠る
第四話  どですかでん
第五話  静かなる決闘
第六話  用心棒
第七話  乱
第八話  まあだだよ
第九話  天国と地獄
第十話  夢
第十一話 どん底
第十二話 わが青春に悔なし
第十三話 消えた中隊
第十四話 暴走機関車
第十五話 勝利の秘史
第十六話 羅生門
第十七話 海は見ていた
第十八話 暁の脱走
第十九話 殺陣師

このタイトル、すべて黒澤作品ですね。
隠し砦の三悪人』から『わが青春に悔なし』までと『羅生門』が監督作品、それ以外は脚本や原案です。正確に言うと、少しばかり名称を削っているものもありますが。*3
『以下略』の中でも黒澤監督ネタが出てきており、平野耕太さんの黒澤監督に対する愛着が窺えます。圧倒的な面白さを誇る黒澤作品(個人的な意見を言うと、50年代〜60年代半ばまでは神懸かり)や、監督自らの豪放なエピソードの数々*4は、平野作品のキャラクター造型に影響を与えているのかもしれません。


続けては第五話、「静かなる決闘」から。
この回で、ヒラノとヤブ(ダメ人間)は「僕っくんの考えたサーヴァントが一番強いぞ」聖杯戦争大会なるものを開催します。そのサーヴァントを披露(?)する際にまた無数のオタクネタが投下される訳ですが、ツッコミ役のダメ人間・ジャージが出してきたのがこちら。



平野耕太『以下略』37ページ。)


ナポレオンです。
そしてそれに対してのヒラノ・ヤブのツッコミ(右側のコマ)を引用します。

っざっけんな
この小太り中途半端デブめ!!


オメーより
ダヴーの方がつえーんだよ!!


この「ダヴー」というのは実在の人物ですが、平野耕太さんが念頭に置いているのは明らかに『ナポレオン ―獅子の時代−』に出てくるダヴーですね。何巻だったか忘れてしまいましたが、平野耕太さんは『ナポレオン』単行本帯に推薦文(?)を描いていますし、『以下略』の他のページでも次のようなネタがあります。『ナポレオン』で何度も出てくる台詞ですね。



(『以下略』53ページ。欄外の「↑マッセナ」に注目!)


さて話をダヴーに戻しましょう。通称「不敗のダヴー」です。
そのダヴーの猛々しさが最も鮮やかに描き出されているのが、単行本11巻に収録されている「ダヴー外伝 禿鬼」です。


ナポレオン 11―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

ナポレオン 11―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)


そして刮目せよ!これがダヴーだ!



長谷川哲也『ナポレオン −獅子の時代−』11巻199ページ。)




(同上、196〜197ページ。)


共和主義に仇なす者は、それが例え女性であろうと一刀両断。戦時には、敵に如何なる容赦も加えない。
ヤブがナポレオンより強いと言ったのも、これなら納得がいくというものではありませんか。
そんなダヴーや、彼にまったく引けを取らない個性的過ぎる将校たちが織り成す大群像劇『ナポレオン −獅子の時代−』。ヒラコー先生も絶賛のこの作品、もし未読なら読んでみては如何でしょうか?


さて3つ目は第九話「天国と地獄」から。
この話の中でどきどき魔女神判!』の話題になるのです。そしてそこから妄想・脱線が続いていって、最終的に




(『以下略』65ページ。)


となります。
何が何だか判らないという方も案外おられたかもしれません。

ネタがもう
すっげえ
わかりずらいんだよ
テメーのボケは!!

とジャージがヒラノに突っ込んだりもしていますね。
そしてこの元ネタは、まさかのモンティ・パイソンですよ。
これは現物を観て戴くほうが早いでしょう。




上の動画はどちらも英語版ですが、ある程度雰囲気は摑めるかと思います。
余談且つ有名な話ですが、下の動画は「スパムメール」の語源にもなったコントですよ。
モンティ・パイソンは、ほんとうにバカバカしいことを大真面目に、しかも無闇に壮大に行います。歴史考証とかも実にしっかりと行いながら、それでいてブラックな笑いを繰り広げるのが特徴かと思います。
やはり平野耕太さんの作風に、何らかの影響はあるような気がしないでもありません(少々弱気)。


それにしても、ほんとう関心の幅が広く、深い。*5
読んでいて「?」となる箇所も少なからずありました。今後も精進が必要なようです。(´ω`)


という訳で、今回はこのあたりにて。

*1:作中のを引き合いに出すとヘクト。『株式道場』とか『京都財テク殺人事件』が挙げられています。ヘクトはそれ以外にも『アメリカ大統領選挙』という、誰をターゲットにしたのかまったく判らない怪作を出したりしていました。

*2:この描写ならびにそれに対するヒラノたちの反応があまりにも秀逸。全編通しても屈指の面白さなので必読!

*3:『ソ満国境2号作戦 消えた中隊』『日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里』『殺陣師段平』あたりが該当。

*4:例えば『天国と地獄』のロケ中、「撮影の邪魔になる」という理由で家を立ち退いてもらって壊したとか。

*5:以前篠房六郎さんの記事を書いたときにも同じことを感じました。