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時折マンガの話をします。

『あずまんが大王』新旧比較をしてみる

先日、『あずまんが大王』の新装版を購入しました。


あずまんが大王1年生 (少年サンデーコミックススペシャル)

あずまんが大王1年生 (少年サンデーコミックススペシャル)


実際に読んでみて、実に多くの追加・修正があることに驚きました。
とりわけ序盤(4月〜6月あたり)は、トーン処理や輪郭の変更といった細かいものを含めると全てのコマで何らかの変更があります。
それら変更点については、既に三軒茶屋 別館さんで取り上げられていますね。


当初書こうとしていたことについてもかなり触れられていたので、なるべく重複しないよう気を付けつつ、個人的に興味があった変更点等について書いてみようかと思います。



【キャラクターの修正】


新旧両方読んだ方の大多数が注目するであろう点ですね。
特徴がよく出ているコマを取り上げてみます。



(旧版:あずまきよひこあずまんが大王』1巻14ページ。)



(新版:あずまきよひこあずまんが大王 1年生』14ページ。)


にゃも先生初登場のコマです。
顕著な変化は目と輪郭、そして髪の光沢とトーンの使用量。
目と輪郭は丸みを帯び、(一昔前の)アニメっぽさが消えているのは既に指摘もされている筈です。


そして髪の光沢ですが、新版では(確認した限りでは)全て無くなっています。
現在連載中の『よつばと!』ではむしろ光沢は繊細に描かれるようになっているので、これは4コママンガという特性に合わせた結果なのではないかと推測します。どういうことかと言いますと、コマの大きさが(ほぼ)一定であるという制約と、1つのコマに詰め込むことができる情報量の違いです。


4コマという非常に限定された条件下で、描きたい内容を可能な限り描く。
その一方で、コマの大きさは一定です。何でもかんでも詰め込んでしまうと、ゴチャゴチャとして非常に読みづらいものになってしまいます。
その際に必ずしも必要ではないと判断した描写を、可能な限り削ぎ落としたのが新版の描き方ではないかと考えます。


トーンの使用量も同様ですね。かなり減っています。
旧版では口の中とかにもトーンを貼っていましたが、新版では貼っていないです。上で挙げたにゃも先生の目も、よく見ると新版はトーンではなく、細かく線を重ねて陰影を表現しています。ジャージも同じように描いていますね。


全体的にシンプルな、スッキリとした印象になっています。



【背景の修正】


そのいっぽうで、背景の描写はより緻密になっています。



(旧版:『あずまんが大王』1巻17ページ。)



(新版:『あずまんが大王 1年生』17ページ。)


旧版でトーンを貼られただけだった塀が、新版ではしっかりブロックを描いています。
樹の占める割合が大幅に減少している点や、コマ右上の建物の段差部分がトーンから手描きに変わっていることにも注目です。余分な色が減り、より詳細に描かれつつも、榊さんと噛みねこが目に入りやすくなっていると感じます。



(旧版:『あずまんが大王』63ページ。)



(新版:『あずまんが大王 1年生』63ページ。)


フロントガラス越しに見えるシートや、にゃも先生の腕が新たに描き込まれています。
細かい箇所ですが、より現実感のある描写となっています。あずまきよひこさんのこだわりが感じられますね。
とりわけ『よつばと!』からは、背景のリアリティを強く意識されているように思います。



(例:あずまきよひこよつばと!』7巻127ページ。無闇にリアルなコンビニの描写と、それによって引き立つよつばの存在感に注目です。)



ふと思い出したのが、スコット・マクラウド『マンガ学』の一節。


マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

読者は記号的なキャラクターという《仮面》の中に入って、
感覚的刺激に満ちたリアルな世界へと安全に入っていけるようになるわけだ。


スコット・マクラウド/監訳・岡田斗司夫『マンガ学』51ページ。)


あずまきよひこさんも、その方向を目指しているのかもしれませんね。
仮にそうだとして、その試みは成功していると思います。『よつばと!』にしろ『あずまんが大王』にしろ、読んでいる最中はあたかも自分が作中に入り込んで、その世界で楽しんでいるような気分になりませんか?少なくとも憧れ(或いは「いいよなぁちくしょう・・・」という羨望)は感じるのではないかと。



【ちよちゃんの文体】


個人的にいちばん意外だったのがこれです。


旧版を読んでいて気付いた方も多いかと思いますが、ちよちゃんの台詞は途中でフォントが変わります。初登場時は一般的な明朝体だったのが、丸っぽいフォントになるのです。単行本ページで言うと70ページから。*1



(旧版:『あずまんが大王』1巻70ページ。)


このコマ以降、ちよちゃんの台詞のフォントはこれで統一されます。
自分はこの変更が、『あずまんが大王』において重要な位置付けを持つと思っています。このフォントは、ちよちゃんのキャラクターを形成する一要素だと考える訳です。「10歳の天才女子高生」という設定の「10歳」を担うものだと。


なので、新装版刊行という話が出た際真っ先に気になったのが、70ページ以前のフォントはどうなるのかという点でした。予想したのは、初登場時から丸っぽいフォントで統一されるのではというものでした。
で、どうなったかと言うと、



(新版:『あずまんが大王 1年生』70ページ。)


正反対でした。(´ω`)
全て明朝体で統一されていたのです。


これはいったい何故か。
考えるに、『あずまんが大王』の世界観をつくりだすのに、最早このフォントも必要ではなくなったのかな、と。
思えばちよちゃんの「10歳の」の箇所、話が進むにつれて重要性は薄れていったようにも。


改めて新装版のほうを読んでみると、全て明朝体でもそれほど違和感を感じなかったりするのです。逆にちよちゃんの台詞にメリハリが付くようになったかな、とも思ったりします。
自らの適当さに呆れたりもするのですが、まぁそれは別の話ということで。



と、このくらいにしておきましょう。
旧版を持っている方も、そうでない方も、間違いなく楽しめる『あずまんが大王』新装版。これは買いです。

*1:69ページと言ってもいいかもしれませんが、文字の太さが違ったので。