マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

エロマンガ家の真摯な声が聞こえてくる。『エロマンガノゲンバ』

さて今回の記事は、評論同人誌の感想ではありますが18禁となっております。
そういう訳で、以下の文章は収納しておきます。






人間の根源的な欲求のひとつに挙げられるのが性欲です。
エロマンガというメディアは、その欲求に根差したものと言えるでしょう。
そしてマンガ*1は実写に比べ、想像力・妄想力といったものを働かせる余地が遥かに大きいと思います。実写では難しい描写もマンガなら易々と描ける場合が多い。結果として、非常に先鋭的な表現が描かれることが少なくない。


だが「エロ」というジャンルは、槍玉に上がりやすくもあります。
性犯罪に結びつけて語られて青少年への悪影響云々とか、児童ポルノ所持規制がどうだとか、数年ごとに必ず国会で話題になります。まぁこれは、フィクションをフィクションと考えることができない困った人間がごく稀に存在してしまう点と、そういう逮捕者が出たりすると何から何まで○○の影響だ即刻規制だという結論に辿り着いてしまう人たちが意外と多いという点が問題でありましょう。


ただエロマンガにおいて、実際に行われていては問題な描写が存在するのはまぎれもない事実です。
幼女を虐げる内容であったり、陵辱ものであったり、更には猟奇ものであったりとか。
そういった事情もあったのか、描く側の立場から自らのことを語るということは(少なくとも自分が知る限りでは)殆どありませんでした。*2


エロマンガの作者さんは、どのような思いでエロマンガを描いているのだろうか?


2008年初頭でしたか、『キャノン先生トばしすぎ』というエロマンガが非常に話題になりました。


キャノン先生トばしすぎ (OKS COMIX)キャノン先生トばしすぎ (OKS COMIX)

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エロマンガ業界を舞台にした作品で、登場キャラクターのエロマンガに対するあまりにも熱い思い・情熱が多くの読者の感動を誘いました。えぇ僕も感動しましたよ。
作中、主役の零細エロマンガ家・ルンペン貧太と、新進ロリ作家・海乃みるくとの間で以下のようなやりとりがあります。

ゆ・・・
夢だったんだけどなぁ・・・
・・・エロマンガ家になるの・・・



エロマンガ家になるのが?
僕が出会った作家は皆口々に言う・・・
「今はエロなんか描いているがいずれは・・・」と・・・
「エロ落ち」「エロ抜け」とゆう言葉もある・・・
かく言う僕もいずれポルノよりはるかに巨大な市場を持つ一般誌へ討って出るつもりです・・・
「応援して下さい」「頑張ります」と言いながら
誰もがどこかでポルノを恥じているっ
それで当然と・・・
そうゆう業界なのだと思っていました・・・


ゴージャス宝田キャノン先生トばしすぎ』183〜184ページ。)


前者が貧太、後者が海乃みるくの台詞になります。
では実際のところはどうなのだろうか?エロマンガを描くということに意義を見出しているのか、或いはステップアップの手段なのか?これまでは想像するしかなかったと言えます。


これまでは、です。
エロマンガ家の方々が自らの創作姿勢について語る。それを収録した同人誌が刊行され始めています。
それが今回ご紹介させて戴く、『エロマンガノゲンバ』です。



タイトルは、最近残念な方向で話題になっている「マンガノゲンバ」のパロディですね。(´ω`)


こちらの同人誌を出しているサークルは「フラクタル次元」、「えろまんがけんきゅう(仮)」というブログサイトを運営されておられる稀見理都さんのサークルになります。
サイト名からも、また実際にリンク先を読んで戴ければお判りかと思いますが、エロマンガに関連する異様に濃い考察を行っておられます。そしてこのサイトの目玉のひとつと言えるのが、エロマンガ家さんへのインタビューです。


インタビューはサイトでも公開されていますが、『エロマンガノゲンバ』に収録されているのは言うならばそれの完全版です。
そしてインタビューだけではなく、マンガ家さんがどのような手順で原稿を描いているのか、実際に作者さんに描いてもらったものも公開したりしています。


インタビューをしているマンガ家さんは以下の方々。
サイトやブログをお持ちの場合は、そちらも併せて載せておきます。


先程引用させて戴いた『キャノン先生』の作者、ゴージャス宝田先生もインタビューを受けています。またゴージャス先生の描き下ろしショートショート(2ページ)が3つ収録されていて、これが実にいい内容なのですよ。とりわけ37〜36ページ*3のエピソードとかは、インタビューでの

僕なんかから見たら、どんな小さな女の子でも僕より頭いいし、もちろん体は小さいし、筋肉も弱いけど、でも「生命」「生物」としては僕より全然強いし、僕より全然頭がいいと常々思ってるんです。


(『エロマンガノゲンバ』16ページ。)


という発言を実に明確に示した内容だと思いました。
これは是非とも(18歳以上の方には)読んで戴きたいですね。


そしてそれに加えて、エロマンガのレビューを精力的に行っている書店「まんが王倶楽部」さんと、『マンガ論争勃発』の作者の永山薫さん・昼間たかしさんの両名にもインタビューをしています。


2007-2008 マンガ論争勃発

2007-2008 マンガ論争勃発

マンガ論争勃発2

マンガ論争勃発2

ブログはこちらになります:マンガ論争勃発−継続中(β)


そしてインタビューを読んでいて伝わってくるのが、エロというものへのまっすぐな姿勢です。
とにかく熱いのですね。次から次へとエロマンガへの愛に溢れた言葉が出てきます。


そしてそれを可能にしたのが、稀見理都さんのインタビュアーとしての力量だと思う次第です。
件のディレクターとは正反対のアプローチを言えるのではないかと思います。圧倒的なまでの知識(エロマンガのみならず、オタク的知識全般)をバックボーンに持ち、作者さんの描こうとしていることを把握し、経歴や影響を受けたマンガ家さんの話を訊きつつ語られた内容に絶妙の受け答えをして更に話を引き出して行く。


そういう場・空気を作り出しているのだろうと思います。「インタビューで重要なのは場を作り出すこと」みたいな話を立花隆氏が何かの本(『二十歳のころ』だったか?)で言っていましたが、それが見事に成功している例ではないかと。
URAN 先生へのインタビューで、お二人が知り合うきっかけとなったエピソードが語られています。マンガの読者側の意見を聞きたいと思っていたURAN先生が某SNSで大量のエロマンガレビューを行っている稀見理都さんを見付け、

これはプロの読者だな!!

(『エロマンガノゲンバ』94ページ。)

と思い声を掛けたとのことです。実に納得できる言葉だと思いました。


さて随分長くなりましたが、実に内容が濃く読み応え充分の『エロマンガノゲンバ』、関心のある方は(無い人間など存在しない筈だ!)是非読んで戴きたい1冊です。



【余談】

みたくるみ先生インタビューで、影響を受けたマンガ家さんについて尋ねている箇所があります。
サイトだとこちらですね。


その中で、綾野麗さんという作家さんに影響を受けたという話が出てきます。
そしてそこで取り上げられている単行本が、『NURSE ANGEL』という作品。



(上記リンク先より転載させて戴きました。)


この書影を見た際、「おおっ!」となりました。
これ、自分が生まれて初めて買ったエロマンガですよ。そして自分のその後の性癖を決定的にしてしまった作品でもあります。ただ名前を忘れてしまって、ずっと「何ていう人だったかなぁ」と考えていたのです。


凄くエロいけどトーリーの途中(しかも肝心の場所)で冨樫先生ばりのラフ画になってしまうんだよなぁとか、長編ストーリーの途中で終わってしまって「続刊『GIRL FRIENDS』は近日発売」とか何とか奥付に書いてあったけど発売されなかったよなぁとか、当然性器のところには修正が掛かっているけど巻末に修正された箇所のみがパズルみたいに掲載されていて、張り合わせるとノーカットになるよ!みたいなことが書かれていたなとか、いろいろと懐かしく思い出すことができました。

*1:何もマンガに限らず、小説やゲーム等でも言えることですが。

*2:雑誌とかには幾らか収録されているのかもしれませんが、なにぶん不勉強で判らない部分が多いです。

*3:この同人誌は左開きなのですが、収録されたマンガは右から読む形式なのでこうなっています。