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『惑星のさみだれ』、茜太陽の「宿題」問題

2日連続での『惑星のさみだれ』記事です。
今回も少なからず内容に触れるのでご注意ください。



昨晩、twitter でちょっと盛り上がった話題があります。まとめたのがこちら。


一言で言おうとすれば、「茜太陽がアニムスと繋がっていることを何故風巻はバラさないのか、そして9巻で太陽がアニムスを拒否したことが、何故宿題(バラさない理由)の答えとなるのか」といったところでしょうか。
これはなかなか面白い問い掛けだと思いましたので、自分でも何らかの解釈を出してみようかと思います。
以下の文章は収納しておきます。







まずはもう少し詳細にこの「宿題」について追って見ましょう。
該当するのは30話、単行本5巻になります。



水上悟志惑星のさみだれ』5巻20ページ。)


この2人は既に夢の中で出逢っており、*1風巻は太陽がアニムス側に付いていることを知っています。その直後の、夏合宿において上のやりとりが為される訳ですね。
そしてその後様々な経験を経て、迷いながらも太陽の心情が少しずつ変化していく。そして最終決戦・アニムスとの戦いに至り、時空系能力の返還を要求してきたアニムスを拒否し、騎士側に付くことを選択する訳です。それを確認した風巻が、



(同書9巻165ページ。)


と呟くという訳です。


さて、では考えてみましょう。
何故風巻は太陽がアニムス側にいることをバラさなかったのか?
自分の推測では、これは非常に明快なものです。
まず結論だけを言うと、風巻の目的にそぐわないからですね。


夢の中で風巻と太陽が初めて顔を合わす直前、アニムスとの会話で風巻はこのようなことを言っています。



(同書4巻128ページ。)


このコマだけ抜き出すと電波な人か宗教に目醒めた人かと思いがちですが、まぁそれはそれとしまして。
風巻は全人類の幸せを目的としている訳です。まぁそれは些か巨視的過ぎるとしても、少なくとも周囲の人間の幸せは願っていると考えて差し支えないでしょう。その場合、現時点(5巻の時点)で太陽がアニムス側にいるという事実を公にすることは、果たして周囲の幸せに繋がるかどうかということです。


そして恐らく、太陽は実際のところアニムス側にも付いたとは言えません。
太陽は孤独な現状を疎い、その結果世界が滅亡することを漠然と願っているような状況です。つまり、その現状が善くなる方向へ向かえば、滅亡を願わない(アニムスと袂を分かつ)可能性も充分存在する訳です。
風巻は太陽の家庭環境とかを知っていた訳ではないものの、夢の中でのやりとりから何かを感じ取ったのであろうと。そして人間側に戻る可能性もあると踏んだ筈です。「運命はどう転ぶかわからないからね」と夢から醒めた直後に言っていますし。*2


そして重要なのは、アニムス側にいるということをバラすのは、人間側に戻る可能性を摘み取ってしまうということですね。ほぼ確実に太陽は孤立する。家庭環境でも、騎士団の中でも孤立する。不可避的にアニムス側に付き、世界の破滅に協力することになる筈です。
まだ人間の側に回る可能性が充分にある以上、その可能性を断つことを風巻は望まなかったと推測する訳です。そして結局のところどちらに付くかは、太陽自身が決めることでありましょう。で、どちらの選択であれ自分が決断したことであれば、風巻は納得をしたのであろうと思います。*3


そう考えたからこそ、風巻は太陽のことをバラさず、その後も見守り続けているのだと推測する次第です。
そして日下部の最期を見て死に対する恐怖を知ったり、仲間と一緒にラーメンを食べたり(一緒に食べる約束を交わしたり)といった経験を通じて、少しずつ太陽の心境が変化していく訳です。


そしてアニムスとの戦いで疲弊していく騎士たちの姿を見て、遂にひとつの決断をする太陽。*4



(同書9巻163ページ。)


ここ、恐らく初めて太陽が誰か(この場合幻獣ロキ)に頼った場面ではないかと。
ここで思い出して欲しいのがこちらの風巻の台詞です。



(同書8巻12ページ。)


泥人形作成でスランプに陥っていた時期の、風巻の言葉です。
「素直に人の手を借りることが幸せの第一歩だよ」。
こう考えると、ロキに願い事を伝えたこの瞬間こそが、太陽が幸せの第一歩を踏み出したときではないかと思える訳です。
その姿を見ての、呟きであったと考える訳です。



と、何やら途中から「宿題」とはかなり異なった方向になった気もしますし、結論が出ていない気がしないでもないですが、このあたりで一区切りとしておきます。

*1:単行本4巻129〜132ページ。

*2:単行本4巻133ページ。

*3:心情的にはもちろん風巻も、太陽に人間側に来て欲しいだろうとは思いますが。

*4:因みにこのアニムス戦、よく見ると(アニムスに話し掛けられるまで)太陽のみまったくダメージを受けていません。もしかすると、アニムスもまた太陽を仲間と考えていたのかもしれませんな。そう考えると少し切なくもあります。