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時折マンガの話をします。

40年前に描かれた「超弩級」な人たち

遅ればせながら、東毅さんの『超弩級少女4946』を読みました。


超弩級少女4946 1 (少年サンデーコミックス)

超弩級少女4946 1 (少年サンデーコミックス)


主人公・飛田マコトは、女の子と付き合う夢を持ちつつも見向きもされない中学3年生です。
そんなマコトが付き合うことになったのは、宇宙生物と戦う身長49m46cm(自己申告)の少女、衛宮まなです。


ちゃんと説明してはいると思いますが、これだけだと意味が判らないかと思いますのでもう少し詳しく書いておきましょう。(少々ネタバレがありますのでご注意を。)





この作品世界においては、数十年にわたって宇宙生物との闘いが続いています。その闘いは人類同士の戦争行為と偽装することで、一般には伏せられてきたという説明が為されます。*1
そして宇宙生物に対抗できる存在が、「カテゴリー『D』」と呼ばれる、天使・悪魔・妖怪といった高位生命体です。


衛宮まなは、幼い頃に事故で命を落としたところを、「カテゴリー『D』」に取り込まれるようなかたちで生き存えた少女という訳です。取り込まれた結果として、巨大になってしまったということですね。
そして宇宙生物の襲来に巻き込まれたマコトを助ける訳ですが、戦いで傷を負い、それでも笑顔を見せようとするまなの姿を見て、その圧倒的な体格の違いにも関わらず、マコトはまなを守ろうとします。そしてそのマコトの姿に、まなは一目惚れしてしまうのですね。


さてそのような経緯を経てお付き合い(?)を始めた2人ですが、空前絶後とも言える身長差もさることながら、宇宙生物の襲来とか、宇宙生物と戦う際に放出されるまなの妖力*2で妖怪が活性化してしまったりとか、実はマコトの家(神社)が妖怪退治の家系だったりとか、マコトの妹がゴスロリ衣装を身に纏うサディストの黒髪美少女だったりとか、まなやマコトの調査のためにアメリカから送り込まれた調査員が金髪巨乳の美少女だったりとか、その金髪美少女はパンをくわえた状態で出会い頭にマコトにぶつかることで接触を計ったりとか、*3途中から何を書いているのか判らなくなりつつありますが、いろいろと前途多難な(それでいてニヤニヤさせられる)恋愛模様が描かれたりもします。マコトにも何やら(本人さえ知らない)秘密があるようで、期待させられます。
また、普通ではない故に普通の恋愛すらできない辛さとかも表現されていて、巧いです。ティム・バートン監督の名作『シザーハンズ』を思い起こしたりも。



さて、ここからが本題です。
1巻で、マコトと友人の神宮寺がこのようなやりとりをしています。



東毅超弩級少女4946』1巻144ページ。)


唐突に下品な話で申し訳ないのですが、これは巨大な人物を出す際に避けては通れない問題とも言えましょう。挙げた画像の下のコマでは「あの体維持するには、最低でも毎回九千人分の食料が必要なはずだし、」という台詞もありますね。
まなの身長は49m46cm。普通の人の約30倍といったところです。体積・容積もそれぞれ30倍になっています。つまり胃の大きさは30×30×30で、27000倍になっている。どんなに食を抑えてもその3分の1、つまり9000食分くらいは必要になるだろうということですね。


そのように、巨大化することにより生じる様々な問題点を、精緻にシミュレーションした作品が、今から40年ほど前に描かれています。
それがこちら、石川球人さんの『巨人獣』です。


巨人獣(ザ・パラノイド) (QJマンガ選書 (12))

巨人獣(ザ・パラノイド) (QJマンガ選書 (12))

こちらは復刻版。1971年に連載された作品です。)


むしろ「石川球太」という名前のほうが知られているのでしょうか?1955年にデビューして、動物マンガ等で良く知られた方です。『孤独のグルメ』で知られる谷口ジローさんは、石川球人さんの元でアシスタントをしていたこともあるそうです。


この作品の主役となるのは、表紙に描かれている男になります。
名前はトド・ウタマロ。23歳です。
彼はごく普通のサラリーマンでしたが、ある日突然巨大化を始めます。原因は不明。
住んでいたアパートは巨大化のため全壊。そして巨大化は更に進行し、体長は50mにまで達します。そしてそれにより、様々な問題が発生してくるのです。食糧問題は最たるものです。先程の27000倍という話も、この作品で描かれているのです。



(石川球人『巨人獣』太田出版QJマンガ選書版174ページ。)


そして水や食糧を毎回大量に摂取せざるを得ない訳ですが、その先には更に切実な問題が発生します。出すほうですね。
101ページには、1ページまるまる使用して、巨人獣(と作中で名付けられます)がプールの中に出した「もの」が描かれます。最終的に50mまで体長が伸びた巨人獣が排泄する量は、1日に小が100キロリットル、大が20トンにまで及ぶまでになります。更に言えば、それだけの量を即座に処理することは不可能で、穴を掘ってそこに行うといった手段しかありません。結果として途轍もない悪臭が発生することになります。
始めは同情を寄せていた近隣住民も、次第に彼を疎んじるようになる。


また、とにかく広い場所へ移動しなければならないという政府の判断もあり、東京湾まで移動することになります。その際にも、「巨人が移動する際に起こり得る問題・アクシデントの可能性」が詳細に検討されるのです。
電線の存在、転んでしまった場合の衝撃による建造物・水道・ガス管等の破損等ですね。そして猛暑(それに伴う疲労)、巨人獣が極度の近眼であるという設定により、移動そのものが非常な困難を伴っています。巨人獣のストレスという問題も当然存在し、作品全体に張りつめた雰囲気・緊張感が満ちているのです。


「巨人獣」の行く末は、不条理なものとなっています。
理由が判らないまま巨大化した彼の叫びは、痛切なものです。
非常に重厚な作品なので、機会があれば是非読んでみて欲しい作品ですね。



さて話を『超弩級少女4946』に戻しますと、食料の問題については作中で説明が為されています。上である程度書いたように、この作品にはファンタジー的設定も盛り込まれていますので、それに基づいたものとなっています。
実は作中でもかなり核となる設定なので説明は省きますが、それによりまなは普通の食事を必要としません。なので、最初に挙げた画像の次のページで、

何も食べません!
だから、そんなのいりませんのだ !!


東毅超弩級少女4946』1巻145ページ。)


と、『あずまんが大王』のちよちゃんみたいな口調で言い放ったりしています。


『巨人獣』で問題となったような点については、この作品ではほぼ解決されています。願わくば、巨人獣とは異なる、おじさんをニヤリとさせてくれるような結末に向かって欲しいものです。


ということで、本日はこのあたりにて。

*1:陰謀論で良く耳にするロジックですね。月面着陸の映像は作り物だ、とか。当然、判ったうえで使っていることでしょう。娯楽としては実に心躍らされるシチュエーションですからね。

*2:「カテゴリー『D』」とはとどのつまり妖怪ということを思い出して戴ければと。

*3:このシチュエーションは、『新世紀エヴァンゲリオン』TV版の最終話(それとも25話でしたか?)でも描かれていました。作者の東毅さんはエヴァの二次創作でも知られている方なので、これはいわゆるオマージュというやつですな。