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時折マンガの話をします。

超常現象の愉しみとさみしさ。『SpF8』

ではゆるりと、コミケで購入した同人誌の紹介を再開します。
今回取り上げるのはこちらになります。



『SpF8』(サークル:Spファイル友の会)


サークルさんのサイトはこちら:SpF Spファイル友の会ホームページ


タイトルが示すとおり超常現象を題材にした同人誌ですが、この同人誌を面白いものにしているのは「超常現象に対する立ち位置」ではないかと思います。それを説明するには、この同人誌に冠されている「Sp」というものについて知っておくことが重要かと思います。
詳細についてはサイトでも説明されているのですが、こちらでもかいつまんで書いておきましょう。


「Sp」とは、UFO研究の第一人者、J・アレン・ハイネックにより提唱された概念(?)に基づくものです。
ハイネック博士の著作『第三種接近遭遇』は、UFOとかに関心がある方にとっては必読と言って差し支えない書籍です。


第三種接近遭遇 (ボーダーランド文庫)

第三種接近遭遇 (ボーダーランド文庫)


で、この著作の第4章(邦訳文庫版だと63〜75ページ)において、「S=P図表」というものについての説明が為されます。UFO報告について、奇妙度(Strangeness rating)と可能度(Provability rating)の2つの数値を割り振って分類するものです。
これはかなり詳細な分類が為されているのですが、Spファイル友の会さんではこの図表に改変を加え、SP・sP・sp・Spの4分類にしています。大文字だと度合いが高く、小文字だと低くなります。
つまりこのサークルに参加されている方々はSp事例、つまり奇妙度が高く可能度が低い事例を珍重されているということです。この領域は、従来の(真面目な)研究ではバッサリと切り捨てられてきたところなのですね。


かなり有名な例を挙げると、「1961年にアメリカ・ウィスコンシン州イーグルリバーに住んでいた配管工ジョー・シモントンが自宅近くに着陸したUFO搭乗者からパンケーキを貰った。そのパンケーキを食べてみたところダンボールのような味がした」といったものがありますが、こういう無闇に意味が判らない事例を面白く感じる方々が「Spファイル」集まっているということです。


さて内容ですが、非常に判りやすい概要がサイトに既に挙げられているので、そちらを読んで戴ければと。

8冊目となるこの号においては、副題が示すように(超常現象に対する)「ちょっと、さみしいよね」という印象を全面に押し出しています。上記のパンケーキの事例についても、ジョー・シモントンの背景(離婚して郊外の掘建て小屋みたいなところで飲んだくれながら住んでいる、というような)に「さみしさ」を見出したり、宇宙人を目撃したと主張する人たちが描いたスケッチ(何故か例外なく下手)がことごとく異なる造型で、目撃者は誰とも「(同じ)宇宙人を見た」という感情を共有できない孤独に思いを馳せたりしています。余談ながら、50以上の宇宙人のスケッチ(何故か例外なく下手)がまとめられている本は貴重だと思います。
この同人誌の後半には6編の短篇小説(創作ですが、一部実体験に基づいたものも)が収録されていますが、これらも結末には仄かなさみしさが残る、この号のコンセプトに準じた内容になっています。


あと、やや民俗学的な傾向もあるように感じました。
同人誌に収録されたユーフォロア(UFO怪談)*1の事例を採集する姿勢にそれに近いものを(勝手に)感じますし、*2この号の冒頭を飾る原田実さんの論考『オサン狐はタイフォイド・メアリの夢を見るか?』は、広島・山口県で古くから流布している伝説とアメリカの都市伝説との共通項や混交・変質の可能性について書かれています。非常に興味深い内容となっています。


自分も超常現象についてはニワカもいいところなので、これ以上の解説は控えておきます。
実際に読んで戴いて、無闇に濃く不思議な世界を堪能するのが吉かと思います。上記サイトで通販を行う予定とのことなので、興味のある方は是非。



【余談】

かなり大きな印刷ミスが1箇所あるのでご指摘を。『オサン狐は〜』に、オサン狐の伝説を幾つか取り上げているところがあるのですが(6〜7ページ)、5つ目の説明が途切れてしまっています。そしてその途切れた箇所の続きが、何故か2つ目の説明に紛れ込んでしまっています。

②八五郎という人力車夫が江波の土手で上品な女性に海を渡って(中略)なかったのが残念だ。)
 呼び止められ(後略)


(『SpF8』6〜7ページ。)


上の太字の箇所が、

阿波国の藤兵衛狸がオサン狐に化けくらべを挑もうと


(同書7ページ。)

の続きとなります。読む際はご注意を。



・・・考えてみれば、貴重な休日の深夜まで時間を掛けて超常現象の同人誌を紹介している自分も、何かさみしいかもしれませんな。(´ω`)

*1:twitterufolore_bot、一時休止中とのこと。

*2:恐らく ufolore という単語も、UFO と folklore(民俗学)を合わせた造語ではないかと。