マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『阿呆鳥の唄』は、現代に甦った『プロゴルファー猿』だ。

ゴルフマンガ作品は、けっこうな数にのぼるであろうと思われます。現在連載中のものですと『風の大地』『黄金のラフ』『KING GOLF』とかでしょうか。『ゴルフ13』や先頃完結した『へ〜ん○しん!!』は果たしてゴルフマンガの範疇に入れていいものかどうか判りかねますが、まぁ入れても問題ないでしょう。


ただ、これらの作品には何かが足りない、そんな印象がありました。
それは何かと考えてみたところ、それは『プロゴルファー猿』的な破天荒さではあるまいか、と*1。そんなことを思っていたところ彗星の如く現れたのが、今回ご紹介させて戴く高橋のぼるさんの『阿呆鳥の唄』なのです。


阿呆鳥の唄 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

阿呆鳥の唄 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

阿呆鳥の唄 2 (ヤングジャンプコミックス BJ)

阿呆鳥の唄 2 (ヤングジャンプコミックス BJ)

(先日2巻が発売されました。)


表紙に出ている濃い顔立ちの男が、この作品の主役・竹虎一吹です。一吹は父親・鉄生の作った2億円の借金を返すために極道の世界へと入ります。しかしそれほどの額、そうそう返せる訳もなかったのですが、ある日一吹の組事務所にFAXが送られてきます。



高橋のぼる『阿呆鳥の唄』1巻101ページ。)


日本の影の首領・大統寺天命が主催するゴルフトーナメント戦。
優勝した組には、巨大カジノ建設の権利が与えられます。そして副賞として、優勝プレーヤーには現金2億円。一吹の借金と同額です。父親の特訓を受けた腕前と運の良さを見込まれた一吹は、プレーヤーとして出場することになります。


と、これだけ書くとそれほどおかしくはない気もするのですが、実際に読んでみると明らかに何かが違う。やはりそれには、高橋のぼるさんのアクの強い絵柄と独特過ぎる台詞回し、そして矢継早に繰り出されるエロネタの数々、意味を考えることすら馬鹿らしくなる描写の数々(褒め言葉)が寄与するところが大きいでしょう。


例えばトーナメント2回戦では、一吹はイーグル三姉妹と呼ばれる女性たちと戦うことになります。この中から誰と戦うか決めるように言われた一吹は、



(同書2巻23ページ。)


まぁこの質問じたい唐突なのですが、その質問を受けて三姉妹はちゃんと答えるのですな。しかも4ページも使って。そして結局全員と対戦するのです。清々しいまでにストーリー展開には寄与していません。そしてそのような描写を4ページにわたり入念に描く心意気が素晴らしいと思う訳です。



(同書1巻196〜197ページ。)


嘗て『エデンの檻』で大きく話題を振りまいたあの言葉も、まるで違和感がありません。
何をやっている場面か?見てのとおりパッティングです。


さて、ここでようやく冒頭でも触れた『プロゴルファー猿』的要素です。
『阿呆鳥の唄』には、嘗て『プロゴルファー猿』で垣間見えたエキセントリックな描写が少なからず見受けられます。オマージュと思しきものもある。それを幾つか取り上げてみたいと思います。




【奇想に満ち溢れたホール】


手許に『プロゴルファー猿』単行本がないので記憶頼みになるのですが、あの作品、相当に奇妙奇天烈なホールが登場していました。洞窟の中にあるホールだとか、隠しバンカー(グリーンの中に落とし穴状のバンカーがある)とか。遊園地のゴンドラの上か何かでショットを行うような回もあった筈です。
『阿呆鳥の唄』も、奇っ怪なホールが幾つも出てきます。



(同書1巻138ページ。)

直径350ヤードの巨大な池が中心に位置しているホール。



(同書2巻150〜151ページ。)

グリーン全体が木に囲まれているホール。



(同書2巻40ページ。)

氷で出来ているグリーン。
画像下のほうで「白いオッパイグリーン」と言っているが、果たしてこれは「グリーン」と呼べるのでしょうか?「白い」と言っているし。(´ω`)



(同書2巻72〜73ページ。)

上部がパラボラアンテナ状に広がっている建造物の上に、グリーンが存在するホール。



(同書2巻113ページ。)

グリーンが回転しているホール。


どうでしょう、何れも素晴らしいではありませんか。
自分はゴルフそのものへの関心はあまり高くないと思うのですが、こんなホールがあるのなら是非1度やってみたいと思う訳です。



【卑猥でありつつも懐かしさを誘う、オマージュに満ちた必殺ショット】


プロゴルファー猿』の特徴とも言える要素が、必殺技です。有名なものとして挙げられるのは、「岩返し」「もず落とし」「旗つつみ」あたりでしょうか。
『阿呆鳥の唄』には、この3つの技にオマージュを捧げたかのような必殺ショットが登場するのです。



(同書2巻93ページ。)

上で既に取り上げた、建造物の上にグリーンが存在するホールで打ったショットです。
バックスピンをかけて打っても打ち上げた勢いでグリーンから落下してしまうため、そうならないように遥か高くまでボールを打ち上げ、殆ど垂直に落下するようにして落下を防ぐ打ち方(の筈)。
狙った位置まで高く打ち上げてそこから垂直に落下させる猿丸の必殺技「もず落とし」を想起させます。
因みにこの技の名前は「エロ打 ビーチクタワーへ昇天ショット」です。



(画像左:同書2巻119ページ、画像右:同書2巻120ページ。)

見てのとおり、「旗つつみ」です。
因みに同様に旗に当てるくだりが、1巻冒頭(14ページ)にも出てきます。侠なら、誰もが願う旗つつみ。
そして上のコマでもある程度判りますが、正式名称(?)は「いろいろあるけどエロエロ打 おいなりさんは球球袋」です。


そして「岩返し」へのオマージュと(僕が勝手に判断した)ショットの名前は「昇天エロ打 冥土の土産は萌え萌えメイド」になります。果たしてどのようなショットなのかは、是非とも実際に読んで戴ければと思います。(´ω`)



【エキセントリックなキャラクター】


思い返すと、『プロゴルファー猿』に出てきた猿丸との対戦相手って、相当に危険な匂いが漂う訳ですよ。確かバットマンみたいな衣装を身に纏っているのもいましたし、最終的な決着を付けるためのドラコン対決のためだけに登場した、甲冑を身に纏った銀仮面という奴もいました。だいたいミスターX自体相当に危ないです*2


そんなエキセントリックな登場人物たちに勝るとも劣らない、個性的なキャラクターが、やはり『阿呆鳥の唄』には登場します。
蛤銀平やジョニーさんもなかなかに個性的ですが、やはりここは圧倒的なインパクトを放つ、一吹の父親・竹虎鉄生でありましょう。



(同書1巻161ページ。)

ドライバーでバンカーショットを打つ方法を一吹に伝授している場面なのですが、もはや何処から突っ込めばいいのか判らない状態になっています。それはそれとして、このコマを観ると何か心洗われますね。



(同書2巻188ページ。)

これは一吹への特訓中の一コマなのですが、どうしてこうなったのかお判りでしょうか?
恐らく判らないであろうと思いますので、是非単行本で確認して戴ければと思います。



久し振りに随分と長々書いてしまいました。
という訳で今回はこのあたりにて。

*1:自分も全部のゴルフマンガを読んでいる訳ではないので、単純に見落としている可能性も充分にある、という点をあらかじめお断りしておきます。

*2:ふと思い付いたのですが、もしかすると仮面を付けて正体を隠している大統寺天命は、ミスターXがモデルになっているかもしれませんな。