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時折マンガの話をします。

歴史が変わる瞬間:前代未聞の題材で強さを問いかける『どげせん』

※はじめに:ネタバレありに付き、読み進める際はご注意ください。


既に各所で話題になっているかと思われますが、昨日『どげせん』の単行本1巻が発売されました。


どげせん 1巻 (ニチブンコミックス)

どげせん 1巻 (ニチブンコミックス)


板垣恵介&RIN のお二人が描き出すこの作品はまさしく革命的、或いはコペルニクス的転回を読者に要求する内容だと言えましょう。
上の画像、表紙に大々的に描かれているのが、この作品の主役となる男・瀬戸発(せとはじめ)です。そして裏表紙に書かれている煽り文句が、この作品を実に的確に表現しているので、それを引用してみます。

一人の男が...一つの行為が...全人類に問う!!
" 強さ " とは何かを!!


本能を揺さぶる
衝撃作が今、始まる!!
" 土下座 " ーそれは
新たなる戦闘形態!!



板垣恵介・RIN『どげせん』1巻96ページ。)


土下座です。紛うことなき土下座。
そしてこの作品では、土下座の持つ意味合いが世間一般とは逆転しているかのように描かれるのです。瀬戸発は、渾身の土下座を繰り出すことで土下座された相手を精神的に打ち負かしてしまうのです。エクストリーム土下座と言えましょう。
トーリー的には、何かのトラブル→瀬戸発が土下座で解決を繰り返すかたちとなり、土下座の際に滔々と語られる哲学(?)に酔いしれる作品と言えましょう。以下、千変万化に繰り出される土下座を幾つか観てみようかと思います。



(同書68ページ。)


30年にわたり「メニューにあるものだけ」しか出さなかった、烈海王似のオヤジが経営する食堂。その食堂で「カレーラーメン」を食べたい瀬戸発は、一瞬で全裸になり店主に土下座をし、カレーラーメンを請う。その姿を目の当たりにした店主が狼狽し、遂に30年の歴史を変えてまでメニューに存在しないカレーラーメンを作る。その場面となります。
25種類ものフォントを用いてモノローグをちりばめることで、店主が如何に困惑しているかが効果的に表現されています。



(同書143ページ。)


第6話「進路相談」の扉ページとなります。
これは...アビイ・ロード


アビイ・ロード

アビイ・ロード


この流れるような土下座を前にしては、例えビートルズと言えどもこの横断歩道を渡るのは困難を極めるに違いない。
そして日本のマンガは右から左へと読むのが一般的であります。右側から歩いてきて、そのまま流れる様に土下座へと向かうこのカットは、未来を志向した土下座であると言うことができるでしょう。


そしてこの回では、第1話に登場したヤクザ・迫田登志夫(少し花山薫に似ている)が再登場。言うまでもなく第1話において、迫田は瀬戸の土下座に打ち負かされています。そんな迫田が瀬戸を探し、詫び方を請おうとします。迫田は組長の奥さんと情を交わしてしまい、糾弾の場に立たされようとしているのです。
そして会合の場で、迫田と姐さんが69をしている写真が提示され、まさしく万事休すというその瞬間、瀬戸が動く。その写真を観て一言、



(同書173ページ。)


「祈願だ!!」。無論、読者も含めて何が何だか判らない。
そして瀬戸の語りは更に続きます。



(同書176〜177ページ。)


台詞も引用してみます。174〜177ページにかけての瀬戸の台詞になります。

黒の勾玉と
白の勾玉が
結合(あわさる)!!


すると


宇宙が
祈願の気で
満たされる


対土下座!


組長の手術の
成功を心から
祈願する2人の
パワーは


銀河系宇宙を
内包するエネルギーを
生むんです


この見開きは、土下座を宗教的な高みにまで押し上げた歴史的なページと言えるやもしれません。土下座という行為を宇宙的スケールで語った作品は、恐らく存在しなかったに違いありません。


『どげせん』は「漫画ゴラク」にて連載中です。
瀬戸発は更なる高みへと向かっている模様。その姿は、見届ける価値があると確信しています。
読んだ後は、土下座に対する認識が変わっている。街へ出て土下座をしたくなるかもしれませんな。(´ω`)
是非書店へ。万一無かった場合は、土下座してでも手に入れましょう。


といったところで、本日はこのあたりにて。