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時折マンガの話をします。

石黒正数先生のインタビュー記事が面白い

最近、マンガ・アニメ関連の記事で話題になった1つとして、これを挙げることができるかと思います。


リンク先冒頭に掲載された写真には、『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之監督へのインタビュー記事が写っています。まどか達の日常を描く2期、或いは番外編を作ってみたいという内容です。
ところで、このインタビューが何に掲載されているかはご存知でしょうか?
この雑誌になります。


季刊 S 2011年04月号(34号) [雑誌]?

季刊 S 2011年04月号(34号) [雑誌]?


季刊エス』34号(2011年4月号)。つい先頃発売されたばかりです。
この雑誌は「漫画・イラスト・アニメ・ゲーム《ストーリー&キャラクター》表現の総合誌」を謳っておりまして、話題の作品の作者・スタッフ等への実に丁寧なインタビューに加え、BDをはじめとする外国の作品の紹介等も幅広く行っています。実に読み応えのある雑誌なので、未読の方には強くお薦めしたいです。
この最新号においては、このような特集も組まれていました。


荒木飛呂彦先生へのロングインタビューです。
新房監督と荒木先生、というだけでも垂涎ものと言えましょう。しかしながら、それだけではない。この号では他にも先頃完結した『桜蘭高校ホスト部』の葉鳥ビスコさんや『放浪息子』の志村貴子さんへのインタビューと、圧倒的なラインナップなのですが、個人的に最も面白く拝読したのが、『それでも町は廻っている』の石黒正数さんへのインタビューでした。


一読者として気になっていた様々な点について、実に淀みなく(それでいて愉しみを損なわないかたちで)答えてくれていました。以下、幾つか引用しつつ、触れてみようかと思います。


まずは同じ(?)キャラクターが複数の作品にまたがって登場することに関して。


探偵綺譚?石黒正数短編集? (リュウコミックス)

探偵綺譚?石黒正数短編集? (リュウコミックス)

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)


『探偵綺譚』が歩鳥、『木曜日のフルット』が紺先輩と酷似しています。実際に考察を重ねている記事も既にありますね。


石黒正数さんはこのように発言しています。

石黒 歩鳥は頑張って作ったので、新しいキャラを作るのが面倒臭かったってわけじゃないけど......キャラクター*1を作るのに、すごい照れがあって。
ーえ?何でですか?
石黒 分かんないんですよ。人それぞれ色んな性癖があると思うんですけれど、例えば女性のマンガ家さんでバストを描くのが恥ずかしいとか、男性のマンガ家でさんでハンサムな男の人を描くのが恥ずかしいとかありますよね。俺の場合はキャラクター*2を作って名前を付ける、っていうのがすごく恥ずかしいんですよ。だから、なるべく使い回しで!
ーそれは、どんなキャラクターでも恥ずかしいんですか。
石黒 脇役だったら、ちょっとしか描かなくていいから良いんですけど、主役級の歩鳥、タッツン、紺先輩は全員、短編からの流用です。恥ずかしかったから。
ーでも、それはキャラクターを大事にしているということだし、ちょっと手塚治虫スターシステムみたいですよね。
石黒 そうですね、スターシステムだと思っている方もいるし、描き分けが出来ないと思っている方もいますけど...(笑)。ただ、スターシステムだと俳優がキャラクターを演じているという概念だから、そういうつもりではなくて。まぁ、パラレルワールドのつもりで、使い回...いやいや使っているんですよ!


(『季刊エス』2011年4月号66ページ。)


複数の作品にまたがってキャラクターが登場するのは、作者の照れ・恥ずかしさからくるものであった、とうのは実に意外で、且つ面白い発言でした。確か夏目房之介さんが、「手塚治虫は恋愛シーンを真面目に描くとテレが出てしまい、次のコマでキャラクターがバタバタとデフォルメされた動きを入れたりする」といった内容の指摘を何かの本(『手塚治虫の冒険』かな?)でしていましたが、それに近い感情なのでしょうね。


あとやはり気になるのは、伏線と時系列の話でありましょう。
それらについては、こちらのサイトで詳細に検証されています。


そして石黒正数さんのインタビューでは、このように語っています。

石黒 毎回、ひねって落とすスタイルなのは藤子不二雄の影響です。そうしないと読み切りスタイルのマンガとして落ち着かないというか...落ち着かないんですよ!あのスタイルしか知らないと言っても過言ではない。他の話にまたがるような伏線が張ってあるのは、いつかやりたい話がいくつかあって、それをやり忘れないように、イタズラで入れているんです。一巻に紺先輩がチラッとモブで出て来るのも、最初から紺先輩を出すつもりだったから。八巻で主役級の話がある丹波凛というキャラクターも、実は七巻にモブでチラッと出ています。わりと、イタズラや遊びでやってるんですけれど、ものすごく伏線が張られているみたいに思われますね。一応、そんな風に言われるようになったので、辻褄が合うようにタイムテーブルを作ってます(と、タイムテーブルを取り出してくる)。
ーおー、すごいですね!
(中略)
石黒 読者さんの中には時系列シャッフルをされているんじゃないか、と検証されている方もいたので、歩鳥の髪を切ったんですよ。ハッキリやっていますよ、というレスポンスというか。あとは連載の途中で髪型が変わる、ということもやってみたかったので。時系列シャッフルはキャラの呼び方でも分かるようになってます。前の話を描く時は、タッツンが歩鳥のことを「嵐山さん」と呼んでいたり、もっと前だと歩鳥がタッツンのことを「辰野さん」と呼んでいたりする。ただ、やっている方にしては大変ですよね。どっかで矛盾させたら大変なことになる。本当にエラいことしちゃったなあと(笑)。


(前掲書68〜69ページ。)


因みに紺先輩は1巻44ページに、丹波凛は7巻62ページにモブとして登場していますよ。


しっかりと読者の考察・意見等を意識したうえで、それに合わせるかたちで作品を作り込んでいく姿勢が素晴らしいと思う次第です。自分もある程度時系列を整理しようとしたことがありますが、実に大変な作業ですよ。考察するだけでも大変なのですから、それを作品にフィードバックしていくの労苦たるや、相当なものであろうと容易に推測できます。



(前掲書70ページ。)


因みにこれがタイムテーブル。さすがに判読が難しいかたちで撮影されていますが、実に詳細に設定が為されているのは充分に判るかと思います。これほどまでに考え抜かれたうえで描かれた作品を読むことができる、というのは幸せなことでありましょう。



これ以外にも、興味深い話が目白押しのインタビューとなっています。
石黒正数さんインタビュー以外の記事も実に面白い。というか、『季刊エス』はどの号も読み応えのある記事が多数収録されています。誇張なくお薦めの雑誌ですよ。


という訳で、本日はこのあたりにて。

*1:本文では「キャラクー」と脱字があったので修正。

*2:同上。