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高遠るいさんの、あまり知られてはいない(かもしれない)仕事

先月下旬、高遠るいさんの『ミカるんX』最終8巻が発売されました。


ミカるんX 8 (チャンピオンREDコミックス)

ミカるんX 8 (チャンピオンREDコミックス)


数多の特撮作品のオマージュから始まりつつ、第二部以降はタイムトラベルの要素を(歴史上の出来事や伝説・文学作品を絶妙に織り込みつつ、しかも自分の読んだ限り論理的な破綻を起こすことなく)取り入れ、果ては新人類の目醒めと旅立ちまでを描き抜いた、近年稀に見る気宇壮大な作品のひとつであったと思います。


さてそのような作品を描いた高遠るいさんですが、『ミカるんX』以外にも様々な仕事をしておられます。『CYNTHIA_THE_MISSON』は言うに及ばず、『SCAPE-GOD』や『鉄漫』、最近だと『ボアザン』、他にもしとね名義でTYPE-MOONのアンソロジーとか描いていたりしますね。


弩月万罪―Typeーmoon作品集 (IDコミックス DNAメディアコミックス)

弩月万罪―Typeーmoon作品集 (IDコミックス DNAメディアコミックス)


そんな高遠るいさんの、かなり初期のお仕事をご紹介。
一部の方にとっては周知の事実かという気もしますが、少なくとも2011年10月時点では wikipedia にも掲載されていないので、そこまで広くは知られていないと思います。1ページのみの、イラストに近い仕事です。それがこちら。



何の本に掲載されたか、お判りでしょうか?
時期的には2005年9月、『CYNTHIA_THE_MISSION』の2巻が出る2ヶ月ほど前になります。ネット上だとたまごまごごはんさんが『CYNTHIA_THE_MISSION』の記事を度々書いておられましたが、そんなたまごまごさんであっても最初に高遠るいさん関連の記事を書いたのは(確認できた限りでは)2006年11月30日。上に掲載した画像は、それよりも1年以上前に描かれた作品ということになります。

ではそろそろ答えを。こちらになります。


テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ

テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ


マンガ研究という分野における記念碑的労作、伊藤剛さんの『テヅカ・イズ・デッド』になります。当該ページは217ページ。


上の画像を良く観てみると、実に落ち着かない、違和感のある表現が用いられていることが判ります。具体的に挙げると以下の2つですね。

  • 敵らしき若い男が間白(コマとコマの間を区切る空間)を掴んでいる
  • ヒロインらしき女の子がコマを突き破っている


この2つの表現は、(主に)1950年代の手塚治虫が度々使っていた表現です。間白を棒(のようなもの)に見立ててそれにぶら下がったり、或いは壁に見立てられ突き破られたり。こういったマンガならではの特性を『テヅカ・イズ・デッド』では「フレームの不確定性」と呼んでいます。
しかしながら60年代以降の劇画への移行(仮想的な「カメラ」を意識した、リアリズムを指向した映画的手法の導入)・それに伴うキャラのより高い頭身の変化・クローズアップの多用は、コマをフレームとして捉える方向へと流れ、「不確定性」を抑圧する結果となったという訳です。(何ぶん読解力には自信がないので誤読があるやもしれません。未読の方は実際に読んだほうが良いかと思います。)


つまり上の高遠るいさんが描いたページは、「フレームに固定されている(のが自然な)キャラがそれを侵犯する行動を取った場合どのような印象を与えるか」を描いたもの、と言えましょう。
伊藤剛さんが意図したものを正確に理解したうえでないと描くことは難しいと思われます。その経歴も含め*1、やはり図抜けた才能を持っておられるのだなと感じる次第です。


と、何を書いているのか自分でもよく判らなくなってきましたところで、締めとしようかと思います。
なかなか難しい内容ですが、気になる方は是非『テヅカ・イズ・デッド』ご一読を。

*1:『ミカるんX』何巻だったかの帯にもなっていたので有名かと思いますが、高遠るいさんは東大卒です。