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『ヒストリエ』記事の予想外の反響と、著作権・引用に関する話

今月1日に、岩明均ヒストリエ』7巻のコマ割りに関しての記事を書きました。実質的に約1ヶ月ぶりの更新となりましたが、幸いにも幾つかブックマークされたりもして胸を撫で下ろした次第です。


そして翌日は仕事だったのですが、休憩時間(18時頃)に何気なく自分のブログをチェックしてみたところ、同日15時頃から急激にアクセス数が伸びていました。その1時間だけで、平日の2〜3日分のアクセス数です。いったい何事かと twitter でつぶやいてみたところ、上記記事に関して、あまりにも予想外の展開が起こっていたことが幾つもの返信から判ってきました。
以下、大雑把にその動きをまとめてみます。



まず起点となったのは、自分が辿った限りではこちらです。


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MC☆あくしず」等でマンガを描いておられる、松田未来さんのツイート。
本職のマンガ家の方に言及されるというのは些か面映くもありますが、実に嬉しいことですね。このツイート、リンク先をご覧になれば判るように、多くの方がリツイートしてくださっています(これもまたありがたい限りです)。
そしてその中の一人に、何と赤松健先生がいた模様。*2


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リツイートのみならず、ご丁寧にリンクまで貼っていただいた上で言及して戴きました。やはりフォロワー数3万を越える赤松先生故というべきでしょう、この時点で一挙に自分のブログに来てくださる方が増えた模様です。


しかしながら、赤松先生の言及を読んで、強い戸惑いを感じたのも事実でして。
記事内容には概ね好意的な評価をして戴いたようで、それに関しては身に余る光栄であるのですが、「こういうブログが著作権的にOKになれば」というくだりに些か動揺してしまいました。
「自分は『引用』の範囲内に収めたつもりだったが、これでも著作権的にアウトなのか!?」という戸惑いです。
この記事に限らず、自分がマンガの画像を使用する際は、恐らくほぼ全てを引用の範囲内に収めてきたつもりでしたので、赤松先生のツイートには少なからず戸惑いを感じてしまったのですな。


しかし幸いなことに、自分の判断を裏付けて戴くかのような発言がありました。
『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』等の著作で知られる、ライターの小田切博さんです。

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌


或いは、東日本大震災の直後に書かれたこの記事を読まれた方も少なからずいらっしゃるかと。


以下、小田切博さんと赤松先生のやりとりを幾つか。


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ひとまずは胸を撫で下ろしたといったところです。
そしてありがたいことに、マンガ家の方々からも後押しのような発言が。


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上が梅川和実さん、下がゆうきまさみさん。
畏れ多い気分です。(そういえば過去記事でゆうきまさみさんの作品に言及したことも・・・。)
そして赤松先生、他にも様々な方からリプライを貰ったようで、画像の引用については理解された模様です。


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その後「引用OKなら何故マンガ評論は活発にならないの?」という旨のツイートをされて、そこからまた別の論議が盛んに行われていたようですな。そのあたりに関してはまたいろいろと込み入った話になりますので、割愛させて戴きます。


で、この一連のやりとりで朧げながら判ってきたのは、著作権・引用に関する認識は非常に曖昧なのだな、ということです。・・・まぁ自分も専門家ではなくいちマンガ好きに過ぎないので、あまり大きなことは言えないのですがね。(´ω`;)
そんな訳で、著作権と引用に関する話はずいぶん前に書いたこともあるのですが、改めて軽く触れてみようかと思います。


著作権に関する書籍類は入門的なものから専門書に至るまで無数に出版されている訳ですが、文学作品から絵画・音楽等も含め非常に幅広い分野に及び網羅しているのが「著作権」である訳でして、その中のいちジャンルである「マンガ」に割かれる紙幅はどうしても少なくなりがちです。自分が持っている書籍で、マンガに対象を絞ったうえで最も詳細に著作権・引用に関して書かれているのはこちらになります。



10年前に書かれた書籍ですので、もしかするとより詳しく且つアップデートされた内容の書籍が出ているのかもしれません。しかしながら(マンガ家や評論家の方々がパネリストを務めている)シンポジウムでの発言をまとめた内容なので極度に専門性に偏ることはなく、非常に読みやすい内容となっています。これは絶対に持っていて損はない筈です。


著作権の引用に関する条項は、第三十二条第一項にあります。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、且つ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

これを満たしていれば、画像を使うことに特に問題はないということになります。
この条文に関する詳細な解説が、『マンガと著作権』では語られています。とりわけ19〜36ページあたりにかけてが詳しい。そのあたりは繰り返し読むに値する内容だと思います。そのあたりを参考にしつつ、引用条項について少し触れてみます。


まずは「公表された著作物」である、という点。
つまり私的な内容のものであった場合、仮に引用の形式をしっかりと踏んでいたとしても法に触れるということです。確か震災直後でしたか、twitter で芸能人の方のDMを無断公開して物議を醸したケースがあったかと思うのですが、そういった行為はNGということです。御本人の許諾が得られているのであればその限りではないのですが。
マンガの場合で考えてみると、例えばマンガ家の方が「○○のコマはこのような意味が・・・」といった内容を誰かにメールで送ったとして、そのメールを受けた人物が自分の著作なりサイトなりに「作者は××という意味があると筆者にメールで伝えてきており・・・」といった内容を「無断で」書いてはいけないといったところでしょうか。どちらかというと一般常識・モラルの問題に近いように思えますね。


次いでは「公正な慣行に合致する」ものである、という点。
これに関しては夏目房之介さんが、

この辺は素人としては読み飛ばして行かざるを得ないんです。何故かと言うと、裁判の過程で、具体的な例に添って、「公正な慣行」とは何かっていうのを決めていくのが、法律な訳です。


(監修・米沢嘉博『マンガと著作権 〜パロディと引用と同人誌と〜』26ページ。)

と仰っています。
裁判の過程で「公正な慣行」が決まるということは、多数の判例が必要になってくるということでもある訳ですが、ことマンガ関連の裁判に関しては和解で決着するケースが非常に多く、判例じたいがあまり多くない。しばらく前にあった雷句誠さんの裁判も確か和解というかたちになった筈です。裁判というものは費用も時間もかかるので、「判例出るまで続けてくれ!」とはなかなか言えないですしね。
なので自分もブログで記事を書く際にはさすがに「これは公正な慣行なのか」とか考えたりはしていません。


そして「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で」行なわれている、という点。これが最も重要ですかな。
その際に焦点となるのが、出所の明示と主従関係です。


まずは出典を書くのが大事ということです。自分の場合、先日の『ヒストリエ』の際もそれ以外のマンガ関連の文章でも、画像を使う際は必ず著者名・タイトル・ページ数を入れています(書き漏らしの可能性はゼロではありませんが、ほぼ全ての画像に入れていると言って問題ない筈)。
実はこの作業、最近はノンブルが入っているべき箇所までコマが浸食しているケースが非常に多く、大変面倒くさい。目次から途中のページ(それぞれの回の最初のページ)を調べ、そこから引用する該当ページまで数える、ということがよくあります。しかしながらこれを疎かにすると引用になりませんので、粛々と数えています。煩雑な作業故か、これをしっかりとやっているサイトは少ないかもしれませんな。


そして主従関係ですが、あくまで自分の書いた文章が主であり、使用した画像は文章に従属するものでなければならない訳です。あとは画像を使う必然性。
お気に入りのコマとかキャラクターとかの画像を大量に掲載して、「△△は最高だな!」と一言だけ書いたりするのは引用ではないということですな。引用の仕方については、やはり夏目房之介さんが、自著を引き合いに出しつつ実に判りやすく書いておられます。

引用というのはたとえばこういう例ですね。図版を引用してこれについて、破滅の前の二つの風景、混乱と静寂、そして最後の逆説的平和、ということを論じている訳ですね。ここでは、必ず絵に言及しています(図3)。絵の内容に言及するっていうのがコツなんですが。いやコツと言いますか(笑)。絵の内容に言及する、言及しないで単なる挿絵として使っちゃうとまずいんです。これは突っ込まれると微妙な問題になります。そうじゃなくて絵の内容に言及すること。そして、ここにも書いてあるように、出処がちゃんと書いてあることですね。


(同書31〜32ページ。)

絵の内容に言及するのが大事、という点を繰り返し強調されているのがお判りかと思います。
このくだりに感銘を受けた訳でして、自分のブログでは画像の出典明記に加えて、使用したコマの画像についての言及も行なうようにしています。全てのコマで完璧に行なえているかというと甚だ自信はないですが、殆どのコマについてはそれがどのような場面なのかの説明を行なっている筈です(時間に余裕がある方は過去記事をご参照戴ければと)。
で、尚且つそのコマについての説明とか意味といった文章を書き連ねる。あくまで自分の文章が主でなければならないですからね。画像だけ貼り付けても、自分でやっていてさほど面白くないですし。


と、軽く触れるつもりが長々と書いてしまったので、このあたりにしておきます。
あと引用なのだから何を書いてもいいというのではなく、やはり作者の方への敬意は大事でありましょう。よく見掛ける©マークとか「著作権は□□先生に帰属します」的な文章、著作権的にはさほど意味がなかったりはする訳ですが、やはり書かないよりは書いたほうが敬意は感じられますよね(自分は書かずにやってしまっていますが・・・)。


(12月13日追記:©マークを使うと問題が発生する場合もあり得るとのご指摘を戴きました。詳細についてはコメント欄をご参照ください。)


といったところで、今回はこのあたりにて。