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時折マンガの話をします。

Kindleで『アフタヌーン四季賞CHRONICLE』が発売されていた

マンガの新人賞ってやつ、規模の大小はあるにしろ、だいたいの出版社で開催されています。有名どころでは、「手塚賞」「赤塚賞」「ちばてつや賞」「白泉社アテナ新人大賞」とか。
そんな数ある新人賞でも、とりわけ高い知名度を持つ賞のひとつに、「アフタヌーン四季賞」を挙げることができます。


名前からも判るように、「アフタヌーン」が開催している新人賞です。これまた名前から推察できますが、年に4回開催されます。ジャンル・ページ数共に不問という珍しい形式となっています。
そして「四季賞」は応募作品のレベルが高いとの評判もあり、実際四季賞受賞作家さんで、現在も第一線で活躍されている方は相当数にのぼります。詳細は Wikipedia あたりをご参照戴ければと思いますが、現在アニメ放映されている『翠星のガルガンディア』でキャラクター原案をされている鳴子ハナハルさんも四季賞を受賞していますし、『囚人リク』を描いておられる瀬口忍さんも、(恐らくは)受賞しているようですね。


さて、そんな「アフタヌーン四季賞」ですが、2005年に受賞作をまとめた『アフタヌーン四季賞CHRONICLE』という書籍が発売されたことがあります。完全受注生産で、収録作品数は48。1987〜2000年までの受賞作品からのセレクションとなります。
ただ、この『CHRONICLE』、上にも書いた通り完全受注生産のため、現在は非常に入手が難しい。当然のようにプレミアも付いてしまっている、という状況が続いていました。



しかしながら、これは twitter でのTLで知ったのですが、つい先日(4月26日)、Kindle で『アフタヌーン四季賞CHRONICLE』が発売されていたのですよ。



前々から読みたいとは思いつつも、書籍版のほうは買い逃してしまっていたので、思わずすべて購入してしまいました。因みに1冊(?)につきダウンロード料金は525円。書籍版は6300円(中古相場は更に上)なので、全部購入してもほんらいの価格の 1/3 です。
ただ、こちらの Kindle 版は、書籍版の更なるセレクション版となります。書籍版に付いていたブックレットも無しというかたち。


Kindle 版の収録作は以下の通りになります。


【春Selection】


【夏Selection】


【秋Selection】


【冬Selection】


合計25作。書籍版の約半分といったあたり。*1
ご覧になればお判りのとおり、錚々たる顔触れですね。
四季賞受賞作から、そのまま連載へと移行したケースも幾つか見受けられます。


デビュー直後の作品と、現在の作品を読み比べると、いろいろな発見や気付くことがあって面白いですね。



(『アフタヌーン四季賞CHRONICLE 1987-2000 春Selection』101ページ。)


こちらは『ウェスタンカーニバル』の1コマですが、説明のフキダシが羊皮紙型です。
松本零士さん以外で、この型のフキダシが使われる例は非常に珍しいかな、と思ったり。


絵柄や作風の変化を見るのも面白いです。
木尾士目さんとか、現在の『げんしけん』とはまるで絵柄が違います。作風的には、『四年生』『五年生』に近いものがあるのかな、と思ったりはしますが。真鍋昌平さんの『憂鬱滑り台』とか、『闇金ウシジマくん』のルーツと考えることもできるかも。黒田硫黄さんや五十嵐大介さんは、デビュー直後から揺るぎないものを持っている気がします。
逆に、劇的なまでに変化していると感じる人も。



(『アフタヌーン四季賞CHRONICLE 1987-2000 春Selection』126ページ。)


これ描いている方、お判りでしょうか。





王欣太さんなんですよ。
『A Mess on a Weekend』の最初のコマになります。
ちなみにこの作品、すべて同じコマ割りです。1ページに大コマ2つ。それぞれのコマの下には、主役の青年のモノローグが添えられます。若さと時代故か、*2少々面映い台詞を饒舌に語っています。そのいっぽうで、コマ内部での台詞は非常に少なく、絵物語的なかたちになっています。
内容としては、とりたてて明確な目的もなく日々を過ごす、青年の空虚さ・刹那的な日常といったところでしょうか。映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に近いかな?とも。



王欣太さんといえば、やはり『蒼天航路』や『ReMember』のような、ギラギラした作風・熱のこもった筆致を想起する訳です。未読ではありますが、『地獄の家』とかもそんな雰囲気を匂わせていますね。
それ故に、『A Mess on a Weekend』には驚かされました。



と、そんな感じで、どの作品も非常に興味深く拝読することができました。
マンガ好きの方にこそ、お薦めしたい1冊と言えるかもしれません。
これまで手に入れづらかった作品が、こうして比較的廉価で読めるようになっていくのは嬉しいですね。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:書籍版では「春」収録だった(らしい)作品が幾つか「夏」に移動していたりもするようです。

*2:発表されたのは1989年冬。