水木しげるセンセイの元ネタについて+α
何日か前に、水木しげるセンセイ作品の「元ネタ」に関してちょっと盛り上がっていた模様。
上のまとめ記事は、純粋に水木しげるセンセイの妖怪絵の元ネタを淡々と挙げていったもの。下の記事は、このまとめ記事を読んで書き綴った内容です。
下のほうは、まぁこれは自分の主観でしかないのですが、幾許かの悪意みたいなものが行間から滲み出ている印象を受けますね。
『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な妖怪漫画家、水木しげる先生が描いた妖怪の絵がパクリだらけだと指摘してる『Twitter』で指摘してる人がいまして、まとめを見るかぎりなるほどパクリだらけでした。
このように書いていらっしゃる訳ですが、「指摘してる」が繰り返されていて日本語として妙だな、文法とか気にするよりも書き上げることを優先したのかなといった意見はさておいて、上のまとめでは1度も「パクリ」という言葉を用いていないのですよね。
「パクリ」だと指摘したのは、下の記事を執筆された方であろう、と。
水木センセイの作品には少なからず元ネタがある、というのはそれなりに有名な話です。これは何も妖怪絵に限った話ではないのですね。実例を挙げてみましょう。
この画像は、『白い旗』という作品のクライマックスです。水木センセイは戦記マンガも多数描かれていますが、数ある作品の中でも有名な、戦記ものの代表作のひとつと言えるでしょう。
硫黄島での玉砕で僅かに生き残った部下の命を救うため、砲弾が飛び交う中でひたすらに白旗を降り続けた隊長が、一人残らず死に絶えるまで抗戦するべしと考える別の日本軍将校の命令で射殺されてしまう場面。戦争の理不尽・無意味さが淡々と、しかし静かに燃えるように描かれる名編です。
そしてこの場面の元ネタがこちら。
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ポーランド映画界の巨匠、アンジェイ・ワイダ監督の代表作『灰とダイヤモンド』。
第二次大戦後のポーランドのレジスタンスグループの対立(自由主義側とソ連側)を背景に、テロリズムに走ることになる青年の悲劇を描いた名作です。そのラストシーンが、上の画像です。
これ以外にも、『鬼太郎のベトナム戦記』のラストシーンは、旧ソ連を代表する映画監督の一人、フセヴォロド・プドフキン監督の代表作『母』が元ネタだったりもしますね。
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自分などは水木センセイの博覧強記・情報収集能力に只々感嘆するばかりです。そして如何なる元ネタが存在しようと、描かれた作品は紛れもなく水木センセイの味わいになっているところに面白さを感じたりもする訳ですが、やはりこれを許し難いと義憤に駆られる方もいるのかもしれませんね。確かに、現在同じようなことをやり、且つ「これは自分のオリジナルだ」と言い張るのであれば、問題にはなるかと思います。
ただ、上の『白い旗』が描かれたのは1964年*1なのですが、その時期は現在よりも著作権に関する捉え方が非常に緩かったという点は踏まえておくほうが良いかと考えます。少なくとも1980年頃までは、映画のワンシーンをマンガでほぼそのまま使うといった行為は、それほど珍しいことではありません。*2
幾つか例を挙げてみましょう。
(石ノ森章太郎『サイボーグ009』秋田文庫版5巻21ページ。)
こちらは名作『サイボーグ009』の冒頭、002となるジェット・リンク初登場の場面です。
これに関しては、あまり説明する必要はありませんかな。
ミュージカル映画の金字塔、『ウエスト・サイド物語』の冒頭ですね。002の名前、ジェット・リンクも、『ウエスト・サイド物語』のジェット団が元ですかな。*3対立しているシャーク団との抗争で、相手をナイフで刺してしまう筋書きも元ネタを踏襲しています。名前で言えば、003ことフランソワーズ・アルヌールも、1950年代に活躍したフランスの女優の名前をそのまま用いていますね。
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石ノ森章太郎さんの作品で、もうひとつ挙げてみましょう。
(石ノ森章太郎『原始少年リュウ』竹書房文庫版121ページ。)
SFシリーズ " リュウ三部作 " として知られる作品の2作目『原始少年リュウ』の一コマ。
原始時代を舞台にしつつ、SF・オカルト的ギミックをちりばめた作品です。上のコマは、「りゅうの王」と呼ばれる生き物(ティラノザウルスと思われます*4)に闘いを挑んだリュウの同志・キバが力尽きる場面ですが、この「揺れる腕」を「キバが呼んでいる」と解釈するくだり、映画『白鯨』に同じシチュエーションが存在します。
キバと「りゅうの王」の関係そのものが、『白鯨』におけるエイハブ船長とモビー・ディックの関係に近いですしね。
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更にもうひとつ。
次は藤子・F・不二雄先生です。
(藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん』1巻378ページ。)
個人的に「大長編ドラえもん」の最高傑作だと思っている『のび太の宇宙開拓史』の名場面、のび太とギラーミンとの一騎打ちのシーンです。読み返す度に心が震えますね。
そしてこの場面は、『ヴェラクルス』という西部劇映画の決闘シーンが元ネタです。『ヴェラクルス』を観て感動するエピソードは、A先生の『まんが道』にも描かれていましたので知っている方は多いかもしれません。
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『のび太の宇宙開拓史』が「コロコロコミック」に掲載されたのは1980〜81年なので、その時期あたりまでは、元ネタを使うという行為は取り立てて非難されることはなかった、と考えられるかも。
と、「元ネタ」の実例を幾つか挙げてみました。
石ノ森章太郎さんや藤子先生の株がつるべ落とし状態になる方がいたら申し訳なく思う次第です。
因みに「元ネタをしっかりと判るようにしておくべきだ!」という意見があるのならば、こちらのサイトに詳細なデータがあります。
何と言っても、togetter での元ネタツイートをされた方のサイトなので、精緻を極めた内容となっています。
ここまで調べるのは、余程のファンでないとできないよなぁ、と感嘆するばかりですね。
といったところで、本日はこのあたりにて。