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『さよならソルシエ』は、装丁・デザインが緻密に計算されている

もう1ヶ月近く前になりますが、穂積さんの新作『さよならソルシエ』の1巻が発売されました。


さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)

さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)


昨年発売された初単行本『式の前日』が、新人離れした完成度で話題となり一時期入手困難になったのみならず、その年の「このマンガがすごい!」オンナ編で2位を獲得。一躍時の人となった感もある穂積さんの、待望の初連載作品となります。


式の前日 (フラワーコミックス)

式の前日 (フラワーコミックス)


さよならソルシエ』の舞台となるのは19世紀末のパリ。そこに画廊を構える気鋭の画商・テオドルスが主役です。彼は権威と品格・保守に凝り固まっているパリ画壇に、不敵な態度で新風を巻き起こさんとします。
そしてテオドルスのフルネームは、テオドルス・ファン・ゴッホ。彼の兄は、後に天才画家と評されることになるフィンセント・ファン・ゴッホであった・・・。


新しい画風(印象派)を席巻させようと画策するテオドルスとパリ画壇との対立と、テオドルス、フィンセントの二人の関係を軸に、物語は綴られていきます。
テオドルスの目論みはどのような結末を迎えるのか。純真無垢なフィンセントと、彼に対して崇敬と嫉妬が入り交じった複雑な感情を持つテオドルスとの関係が如何に描かれるのか。
後の史実から幸せな結末は難しいと思われますが、そこに至るまでの彼らの、のみならずその時代にパリに生きる人々の姿をどこまで鮮烈に描いていくのか。


未だ導入部といったところではありますが、初連載作にして既に円熟の筆致といった印象も強く受ける。1巻ではテオドルスのトリックスター的活躍が読み手の心を躍らせてくれますね。2巻以降では上で書いた2つの軸がより詳細に描かれていくものと思われます。続きに大きな期待を寄せる次第です。



さて、そんな『さよならソルシエ』ですが、作品のみならず、装丁・デザインも非常に計算された、洗練されたものという印象を受けました。



上の画像と同じですが、こちらが表紙。
テオドルスの顔が大写しになっています。鋭いまなざしと不敵な笑みが強い印象を与えますね。
そしてこの絵は、裏表紙と1枚続きになっています。より正確に言えば、カバー全体が1枚の絵になっていますね。



こちらが裏表紙です。描かれているのはフィンセント。
テオドルスに比べると、ギラギラしたところがまるでないのが判るかと思います。
テオドルスの後ろに立ち、相手を射抜く様な鋭さというよりは、何かを深く見据えるようなまなざしといった印象(まぁ、これは個人的な主観ではありますが)。
そして当然ですが、フィンセントは絵筆を持っています。これが巧い。



背表紙のところに、ちょうど筆先が描かれているのですね。
つまり、仮に本棚に棚差しされている状態であったとしても、絵筆だけは見える。
この作品が、絵画・或いは画家を題材にした作品であるということが、背表紙を見ただけでも判るようになっているのです。
それでいて、タイトルは『さよならソルシエ』。タイトルだけではどのような物語なのか、少々想像しづらい。思わずどんな作品なのか、手に取ってみたくなるような仕掛けだと思う訳です。
そして筆の方向、つまり背表紙へと向かえば、そこには概略が記載されています。
表紙方向へ目を動かせば、強い存在感を放つテオドルスの姿。


実に緻密に計算された構図だと感じます。
そしてこのように、背表紙も使った、立体的な観点からデザインできるのは、「書籍」という形態の強みかと考える次第です。



電子書籍も悪くないけど、やはり紙の本も良いですね。
といったところで、本日はこのあたりにて。