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時折マンガの話をします。

マンガにおける「田舎」の描写:ユートピアとディストピアのあいだ

自分の出身が岩手県だからでしょうか、マンガを読んでいると「田舎の描写」が気になります。
ひとことで「田舎」と言っても、言うまでもなく作品によって、その描かれ方は千差万別です。のどかな生活が描かれることもあれば、あまりにも息苦しい日常が描かれることもある。いろいろと読み比べてみるのも面白かったりします。


という訳で、大雑把な分類をしつつ、「田舎」が描かれているマンガをまとめてみました。
パッと思い付いた作品を挙げていくので、「○○が入っていない!」と感じる向きもありましょうが、そこはご容赦のほどを。



ユートピア的な田舎が描かれる作品】


のんのんびより 1 (MFコミックス)

のんのんびより 1 (MFコミックス)


まずはこちら、近々アニメ放映も開始される『のんのんびより』。
単行本の帯に「自転車で20分の最寄りの本屋はジャ○プの発売が毎週水曜日。」とあるくらいの、田舎を舞台にした作品です。自分の実家もそれなりに田舎でしたが、発売日は火曜日だったので、更に僻地ですね。
全校生徒5名の分校に通う女の子4人の日常が、四季の移り変わりも背景に描かれていきます。それぞれのキャラクターの掛け合いに癒される作品。


天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)


くらもちふさこさんの『天然コケッコー』も、どちらかというとユートピア的な印象がありますね。こちらはなかなかに人間関係が錯綜していて一筋縄ではいかない展開ではありますが、悪人はほとんど存在しないですね。
天然コケッコー』の舞台となる村も、バスが2時間に1本という片田舎。村人全員顔見知りという地域が描かれます。


この他にユートピア的な田舎というと、やはり『まんだら屋の良太』ですか。



この作品も、かなり悲喜こもごもの内容ではありますが(良太があこがれていたお姉さんが、恋人の借金のカタに無理矢理ブルーフィルムに出演させられたりするエピソードとか)、何と言うか、全体的には実に愉しそうな空間なのですな。
こういった「ユートピア的な田舎」の条件としては、当り前かもしれませんが、愉しさを共有できる友人が複数存在することが挙げられそうです。



ディストピア的な田舎が描かれる作品】


逆に、何らかの愉しみを共有できる友人が存在しないと、かなり田舎は息苦しい場所になるのかもしれません。
この息苦しさ、田舎のどん詰まり感を描いた極北とも言えるのが、これまたアニメが佳境に入っている『惡の華』と、『ハイスコアガール』で大ブレイクを果たした押切蓮介さんによる『ミスミソウ』であろうと思います。


惡の華(1) (少年マガジンKC)

惡の華(1) (少年マガジンKC)

ミスミソウ 完全版(上) (アクションコミックス)

ミスミソウ 完全版(上) (アクションコミックス)


この2作品で描かれる街の閉塞感は、あまりにも生々しいです。
行き場をなくして渦巻く負の感情がもたらす悲劇を、是非ご一読して欲しいところ。とりわけ『ミスミソウ』は読むのが辛い作品かもしれませんが、これは傑作としか言いようがない。


あと、上で挙げた『まんだら屋の良太』は温泉街が舞台なのですが、同じ温泉街を舞台とした作品でも、高橋しんさんの『雪にツバサ』は、どちらかと言うとこちらに分類される作品ですね。


雪にツバサ(1) (ヤンマガKCスペシャル)

雪にツバサ(1) (ヤンマガKCスペシャル)



【中間的な位置付け】


息苦しさみたいなものはあっても、それを忘れさせてくれる何かが存在する例。
最も判り易いのは、これまた押切蓮介さんになりますが、『ハイスコアガール』の原型とも言える、自伝的色彩も濃い『ピコピコ少年』シリーズになりますね。


ピコピコ少年

ピコピコ少年


学校の成績も悪く、親ともケンカしてばかり。理不尽な経験も数知れず。それでもゲームがあれば、そこは地獄ではない。


小玉ユキさんの『坂道のアポロン』も、これに近いかな、という印象を受けます。これは田舎が、というよりは主人公が身を寄せている家に息苦しさがある訳なので、視点を変えればユートピア的なのかも、とか。



最後に、上に挙げたもの以外の作品を書き連ねておきます。
あくまで個人的な印象に基づく、大雑把な分類です。追記していくかも。

ユートピア的】


ディストピア的】

それにしても、見方によってずいぶん異なる様相を示すものだなぁ、と感じます。
といったところで、本日はこのあたりにて。