読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

マンガLOG収蔵庫・別館

本館のバックアップとして使用しています。

『エロエロ草紙』を買ってきた

しばらく前のことですが、こんなニュースが話題になりました。


文化庁国会図書館の協力のもと、選定された13作品のデジタルアーカイブを電子書籍化、無料配信を行う実証実験が行われました。
詳細は以下のページをご参照ください。


そしてこの実験で、最も多くのダウンロード数を記録した作品が、酒井潔『エロエロ草紙』。今から80年ほど前に作られるも、発禁処分となり世に出なかった幻の書籍です。発禁本という話題性、そして嫌でも目に付く扇情的なタイトル、興味を惹くのも至極当然、最も多くダウンロードされたというのも頷ける。
現在も、国立国会図書館デジタル化資料で閲覧は可能となっています。


さて、そんな『エロエロ草紙』ですが、このプロジェクトの影響もあるのでしょうか、つい先日復刻版が発売されています。


エロエロ草紙 【完全復刻版】

エロエロ草紙 【完全復刻版】


デジタル化資料で読めば良いではないか、という向きもあるかもしれません。
しかし実際にデジタル化資料のページで読んでみると判るかと思いますが、拡大したりするのがなかなか面倒だったりもしますね。そしてデジタル化資料はすべてモノクロであるのに対し、復刻版はカラーページ。多色刷となっています。
実際の復刻版を読んで、判ることがあるかもしれない。それ以前に、やはり可能な限り書籍のかたちで持ってみたい。そんなふうに思い、実際に買ってみました。


そしてやはり、本というかたち故に判ることってありますね。
著者の酒井潔氏の遊び心が伝わるような、造本が為されていました。



(酒井潔『エロエロ草紙』5ページ。)


冒頭箇所に掲載されているイラストです。少年、或いは青年が、ドアの隙間から中を覗き込もうとしているイラストです。何と言うか、人の行動は昔からさほど変わらぬかもしれないとか思ってみたり。



(同書6ページ。)


次のページは白紙となっています。
しかしただの白紙ではありません。よく見て戴くと判るかと思うのですが、線が入っています。実はこのページ、ミシン目で切り込みが入っています。前ページの、扉と少年が丁度収まるサイズの切り込みとなっています。更に次のページに行きますと、



(同書7ページ。)


胸がはだけた、下着姿の女性のイラスト。
つまり、そのミシン目を切り取ると、2ページ向こうの女性の姿が見えるという仕掛け。あたかも5ページ目の、少年の視線を追体験するかのような造りとなっている訳です。
なかなかに洒落た造本だと考える次第です。



内容についてはデジタル化資料で確認可能ですが、肌も露な女性のピンナップイラストの他、艶笑小話・エッセイ、男女の性愛を無闇に格調高い文体で綴った詩、等々。現在の観点からすればさほどエロを感じはしないかもしれませんが、逆に昭和初期の価値基準・締め付けの厳しさが垣間見えると言えましょう。そしてこの時代の社会風俗資料的な価値もあるのではないかと。



個人的に好きだったのは、「現代青年作法心得」と題された文章ですね。
一部引用してみます。

 さて晩餐の席についた場合は、これ亦豪健なる現代青年の作法を以て終始せねばならぬ出る皿出る皿*1は、驚く可き速力と、騷音とを以て、見事に平げて行く。そして其の間には婦人達に男性の力を示す爲に、フオークを二本の指で曲げて見せたり、皿を拳固でヤツと叩き破る可きである。食事が終つたら、テーブルクロースを引き破いて、口や手を拭ひ、次に悠然と十三文甲高の靴をテーブルの上へ投げ上げて、應接間から持つて來た葉卷を吸ふ可きである。
 續いて君は、如何に現代の青年が社交的談話術を巧妙に驅使するかを知らしむる爲に、賭博の話、淫賣の話等を最も尖端的な露骨さを以て婦人達に話し聞さねばならぬ。


(同書10〜11ページ。)


一読して思い浮かべたるは蛮族
ヒャッハー という勝鬨が周囲に響き渡りそうな勢いです。
この現代青年とやらはモヒカンで肩には棘付き肩パッドを装着しているのではないかと推測する訳ですが、これが現代青年の心得とあれば俺はそれに従い、マッドマックス的な世界に身を投じるに吝かではない・・・とか考えていると最後の文章で足を掬われるので要注意です。


と、読物としてもなかなかに面白いです。
復刻版なので少々値は張りますが、ご興味のある方は買って損はないのではないかと。
といったところで、ひとまずはこのあたりで。

*1:2つ目の「出る皿」は原文では略字の記号が用いられています。