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料理で繋がる父と娘、料理で繋がる教師と生徒(そして生徒は黒髪ロング):雨隠ギド『甘々と稲妻』

昨日、雨隠ギドさんの新作『甘々と稲妻』を購入しました。


甘々と稲妻(1) (アフタヌーンKC)

甘々と稲妻(1) (アフタヌーンKC)


雨隠ギドさんは、これまでは「ウイングス」とかで執筆されていました。短編集『ファンタズム』や、妖怪が跳梁跋扈する和製ファンタジー『まぼろしにふれてよ』等がありますね。何れの作品も、実に叙情性の高い作品であることが共通しているかと思います。
他にも、BL作品を4〜5冊出しておられますね。


まぼろしにふれてよ (1) (ウィングス・コミックス)

まぼろしにふれてよ (1) (ウィングス・コミックス)


そんな雨隠ギドさんが「good! アフタヌーン」で始めた連載が、『甘々と稲妻』になります。これがまた実に良い作品なので、ご紹介してみようかと思います。



この作品の主役(のひとり)は、犬塚公平という人物です。
彼は高校の数学教師。半年ほど前に妻に先立たれてしまい、娘のつむぎ(幼稚園児)と二人暮らしです。仕事に家事に育児にと、慌ただしい生活を送っています。
ある日、犬塚はつむぎと一緒に花見に行きます。そしてそこで、奇妙な光景を目にします。



雨隠ギド甘々と稲妻』1巻13ページ。)


花見の席で、独りで涙ぐみ、重箱に入ったお弁当を黙々と食べる少女。
何故かジャージ姿。かなり適当に纏められた髪。
因みに右側にいるのが、犬塚とつむぎです。


聞けば、一緒に花見をする約束をしていた母にドタキャンされてしまい、それでいながらお弁当は美味しく、且つ忙しい母の事情も知っている。いろいろ考えていたら泣けてきた、とのこと。
そしてつむぎがそのお弁当に興味を示すも、既にその少女は独りで完食してしまっている。それなら、と少女が手渡したのは、1枚の名刺。



(同書16ページ。)


飯田小鳥と名乗った少女の家は、お食事処を経営しているらしい。


そしてその奇妙な出会いから数日後、犬塚が仕事から家に帰ったとき。
彼は、つむぎがテレビ番組を、齧り付くように観ている姿を目撃する。



(同書20ページ。)


その番組は、料理番組。
そこに映し出されていた料理を、母親に作って欲しい、そう伝えて欲しいと、つむぎは父親に話します。愕然とする犬塚。忙しい日々と、元々料理が得意ではないことから、コンビニ弁当やファミレスばかりの生活になっていた犬塚家の食事。どうにかして娘に美味しい食事を食べさせてあげたい。そう考えた犬塚は、数日前に貰った名刺を頼りに、そのお食事処へ向かいます。



(同書24ページ。)


そこにいたのは、黒髪ロングの美少女。
先日とはまるで雰囲気の異なる、飯田小鳥の姿です。
そのとき母親は不在で、店を開ける状態ではない。しかしながら、小鳥は悪戦苦闘しつつも、何とか土鍋でご飯を炊き上げる。そのご飯を美味しそうに、実に美味しそうに食べるつむぎを見て、犬塚は、これからは自分でご飯を作るから、いっしょに美味しく食べようと約束をします。
そしてその様子を見た小鳥が、唐突に提案をします。それは、これからは自分と一緒にご飯を作って、一緒に食べませんかというものであった・・・。


というのが第1話。
実は小鳥は、犬塚が受け持つクラスの生徒です(副担任ということもあってか、憶えていなかった模様)。小鳥は、料理研究家でもある母が多忙のため、夜はほとんど独りで過ごすことになっています。そして小鳥は、料理の手順は比較的詳しい(母親に教えてもらっている)ものの、怪我をした経験から、包丁が使えない。料理をする際にはかなり致命的です。
いっぽう犬塚は、料理自体は苦手だが、包丁くらいは使える。
独りで過ごすのは寂しいということもある。それなら一緒に・・・と考えて、先程の提案をしたという次第。
いっぽうで犬塚も、教師と生徒という手前もあり逡巡はするものの、つむぎに美味しい料理を食べさせたい、それは自分一人では難しいという判断もあり、利害の一致を見て一緒に料理を作るという提案を受けることにします。


そのような経緯を経て、犬塚と小鳥の、少しぎこちない料理作りが始まるという訳です。それを縦軸に、つむぎが通う幼稚園で怒ったトラブルとか、ピクニックに行く(或いは行こうとする)エピソードとか、つむぎが熱を出す話とかが横軸として絡み合い、物語が紡ぎだされていきます。


この作品、料理を作る場面が実に楽しそうで良いのですね。



(同書59ページ。)


豚汁を作る準備をしている場面。小鳥は包丁が使えないので一人だとほぼ間違いなく作れない訳ですが、実に楽しそうに仕込みをしています。ほんとうに料理が好きなのが伝わってくるコマですね。



(同書128ページ。)


卵焼き(薄く作った卵焼きを重ねて巻いていく本格派のやつ)に挑戦して、失敗してしまった場面です。あぁ、やっちゃうよねという共感と併せて、慌てふためく二人の姿が実に微笑ましく描かれていると思います。



(同書168ページ。)


出汁を取っている場面。
純粋に出汁を取っているだけの場面なのですが、小鳥の表情に恍惚にも似た色香があって実に素晴らしいではありませんか。


そして料理を作る主役がこの2人であるとすれば、食べる側の主役はつむぎです。



(同書36ページ。)



(同書175ページ。)


上はご飯を食べたときの顔、下は茶碗蒸しを食べたときの表情。
まさに天使。
犬塚が自炊を決意するのもむべなるかな、というもの。
そして一緒に食事を作っていくなかで、小鳥の犬塚に対する感情に少しずつ変化が生じてきているのも注目ですね。これからの展開に大きな期待を寄せたいところ。


料理、黒髪美少女、あどけない幼女、教師と生徒、父と娘。これらの要素が絶妙に混じり合い、実に素晴らしい味わいを持つ作品となっています。この作品じたいが、あたかも丁寧な調理が為された逸品料理のようだと言えましょう。お薦めの一作です。
といったところで、本日はこのあたりにて。



【追記】
黒髪ロングの美少女が登場する作品ですので、さりげなく水星さん家で開催中の「黒ロン祭2013」に参加させて戴きます。