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水木ファン・研究者必携。「水木しげる漫画大全集」全巻予約特典が届いた

昨日、家にとある荷物が届きました。送り先は講談社
自分は「水木しげる漫画大全集」の第1期全巻予約をしていまして、その購入特典が来たのですね。
これが実に素晴らしい内容でしたので、ご紹介しておこうかと。



まずはこちら、「ビビビの名刺入れ」。
ねずみ男のイラストが刻印されていますね。革製の、しっかりとした作りです。
職業柄、自分の名刺とかは持っていないのですが、どうにか有効活用したいと思わせる完成度です。



ねずみ男の名刺も付属。
ゲゲゲの鬼太郎』でも、誰かに取り入ろうとする際によくこの名刺を差し出したりしていますね。



そして、今回の購入特典の目玉と言えるのがこちらです。



水木しげる漫画大全集」別巻1となる、『未発表作品/未完成作品・未定稿集』です。
その名前からも判るように、原稿が完成していながらも発表はされなかった作品、筋書きの変更やページ削減等、諸々の事情により使われなかった原稿、果ては没原稿、経緯不明の原稿に至るまでを収録しています。
この別巻が、初出となるものばかりです。


ページ数は特典という性質にも関わらず190ページ近く。
更には、その作品群の至るところに、未発表・未完成のまま途絶するに至った経緯の詳細な註釈・解題が付いています。日本でも屈指の水木マニアとして知られる作家・京極夏彦氏と、水木しげる漫画大全集編集委員会による解題は、精緻を極めた資料収集・研究に裏打ちされており、それと同時に水木作品の広大さ・奥深さを存分に伝えるものとなっています。



個人的に、最も関心を惹いた箇所を2つばかり書いておきます。
まずは、竹内版墓場鬼太郎への言及があった点ですね。


まぁ、いきなり竹内版墓場鬼太郎と言っても何のことやら判らない方がいるかもしれませんので、簡単に書いておきます。
元々、水木センセイの『墓場鬼太郎』は、兎月書房っていうところから出版されていたのですが、3作品書いた時点で廃刊になってしまうのですね。しかしかなり人気は高かったようで、続きを希望する声も多かったとのこと。そしてその一方で、経営難で原稿料の支払が滞ったりしたこともあり、水木センセイと兎月書房は折り合いが悪かった模様。
そして、現在では考えられないことですが、兎月書房は竹内寛行というマンガ家さんに依頼して、『墓場鬼太郎』の続きを勝手に書かせるのですね。そのことにより水木センセイと兎月書房は決裂。水木センセイは先に書いた3作品の続きを、「ガロ」を出版した青林堂の前身となる三洋社で描くことになります。それが『鬼太郎夜話』です。


こういった事情や、水木センセイと竹内寛行氏が顔馴染みであった点もあってか、「竹内版」については少なくとも水木サイドから語られることは殆どなかった筈なのですが、この別巻においては以下のように言及されています。

(前略)しかし兎月書房は経営難であり、水木に対する支払いも滞っていたらしく、両者の関係は良いものではなかった。そこで兎月書房は「墓場鬼太郎は書名であり作品名ではない」という到底受け入れがたい主張のもとに、水木以外の人物(竹内寛行氏)に続きを描かせるという暴挙に出る(竹内版墓場鬼太郎は短編集ではなく単行本で、19巻まで発行された。出来不出来は置いておくとしても、本家とは似ても似つかない作風であった)。


水木しげる水木しげる漫画大全集別巻1 未発表作品/未完成作品・未定稿集』84ページ。


「到底受け入れがたい」「暴挙」といった強い言葉に、兎月書房に対する立ち位置が見て取れます。そのいっぽうで「出来不出来は置いておくとしても」とやや婉曲な表現を用いたのは、竹内寛行氏への配慮かもしれませんね。「竹内版」という作品そのものに対しての評価も、ある程度は行われていますし。


消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

(竹内版墓場鬼太郎についての評価は、この2冊が参考になります。)



2つ目は、三洋社版『鬼太郎夜話』幻の第5話についてです。


これについては、『水木しげる画業四〇周年』という豪華本に収録されたインタビューで、次のように語っていたとのこと。*1

(前略)もうひとつ惜しいのは、鬼太郎夜話の五巻というのがあるんですよ。目玉を、米を大きく膨らませるのがあるでしょ、あの機械に入れるんですよ。あれに入れて物凄く大きくなる話、落下傘みたいにね。鬼太郎の目玉をね。その原稿がみえなくなってしまいましてね。一冊描きあげたんですよ、3万円もらって。そういう点、長井勝一社長は漫画家に原稿料を払うことに関しては、きちっとしていました。漫画描きの苦労を知っているわけです。兎月の社長は営業出身の人だから、わからんですね。(後略)


(前掲書102ページ。)


これは、『鬼太郎夜話 第五巻 亀男の巻』の原稿紛失についての一幕です。
この『亀男の巻』については、存在じたいが疑問視されていた作品です。単行本・原稿共に、現時点まで存在が確認されていないのみならず、『亀男の巻』についての証言が水木センセイ自らのもののみ。その他諸々の理由(タイトルが他の作品に比べ趣きが異なる、リメイクされた形跡がない、等々)から、元々存在しない作品なのではないか、という説が有力視されていた。そんな作品なのですね。


しかし、この別巻によって、『亀男の巻』は確かに存在したのだ、ということが明らかにされています。
たった1枚だけですが没原稿が発見され、それが掲載されているのです。
これはあまりにも貴重な資料だと言えるでしょう。
1枚だけ故に、その後どのような展開があったのかは判らない訳ですが、水木センセイの証言も参考に想像を膨らませるのも一興かもしれませんな。



そしてこの『未発表作品/未完成作品・未定稿集』のもうひとつの目玉。
それが、鬼太郎の描き下ろし新作の収録です。
最後に書かれていた鬼太郎ものが、1996〜97年にかけて描かれた『鬼太郎霊団』なので、実に16年ぶりの新作となります。扉ページのみ上げさせて戴きます。



(前掲書166〜167ページ。)


タイトルは「墓場の鬼太郎 妖怪小学校」。
時系列で考えると、『墓場鬼太郎』のエピソード「ないしょの話」の後、ということになりますね。
水木センセイお馴染みの、過去作品のリメイク的描写も織り交ぜ、且つ現代の世相も反映させながら、やはり水木作品としか言いようがない味わいに仕上がっていると感じました。


全ページ見どころしかないようなこの特典、読むためには全巻予約が必要となります。
申込締切は、2014年1月末。まだ間に合います。


決して安い買物ではありませんが、水木作品は名作だらけですし、この『未発表作品/未完成作品・未定稿集』はファンであれば是非とも読んで戴きたい逸品です。
といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:限定220部とのことで、さすがに持っていません。(ノД`)