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『幸腹グラフィティ』の官能的食事描写

先日、川井マコトさんの『幸腹グラフィティ』新刊3巻が発売されました。


幸腹グラフィティ (1) (まんがタイムKRコミックス)

幸腹グラフィティ (1) (まんがタイムKRコミックス)


美術系の高校に通う女の子・町子リョウ。
町子さんと同居しつつ同じ高校に通うはとこ・森野きりん。
町子さんとは高校入学前から知り合いの同級生・椎名さん。
この3人が物語の中心となり、学生生活や家族関係を横軸として、彼女たちの日々の姿が描かれています。
そして彼女たちを繋いでいるのが、料理・食事です。主に町子さんが作る料理と、彼女たちの食事シーンが、ストーリーそのものにも関わりつつ、物語の縦軸となっている。
ここ最近、食事を題材にした作品がまた増えつつあるなと感じる訳ですが、そんな中でもお薦めの1作であります。


この作品の白眉と言えるのが食事シーンです。
実にまぁ、官能的な描写なのですね。五感を総動員して紡ぎだされているかのような、淀みなく流れるような解説がその描写に華を添えています。
今回は、如何にしてそのような官能的描写が為されているかについて、書いてみようかと思います。まぁ一見すれば何となくは判るものではあるかもしれませんが、改めて言語化してみることで理解が深まるかもしれないですし。



ではまず、現物を見てみましょう。
比較的構図が近い2つを挙げてみることにします。



川井マコト幸腹グラフィティ』3巻104ページ。)



(同書3巻105ページ。)


どちらも椎名さんです。上の画像は調理実習でハンバーグを作っている場面の1コマ。下の画像はそれを食べている場面になります。明らかに質感が違うのが判るかと思います。この2つに限らず、食事シーンはおしなべてこのような描写が為されています。
ではどこが違うのか、少々細かく見ていきます。



【線の描写】

  • 複数の線を重ねて描いている


【髪の描写】

  • 髪の毛の描き込みが細かくなっている(線を多用して髪を描写している)
  • 色の濃いスクリーントーンを使用している(毛髪の色の濃さの段階が多い)


【目の描写】

  • 睫毛の描写が詳細になっている
  • 眼球(黒目)箇所に光の描写(白抜き)を多用*1


【頬の描写】

  • 頬に必ず斜線が加えられ、上気したように描かれる


【唇の描写】

  • しっかりと唇を描写している*2


大まかな特徴としては、こんな感じでしょうか。改めて説明は不要かもしれませんが、先程挙げた2つの画像のうち、下の画像(食事シーン)における特徴ということになります。専門的な用語とかはあまり詳しくないので、その点はご容赦願いたいところ。
全体的な傾向として、やや写実性を指向した描写になっていると言えましょうか。


幸腹グラフィティ』は、いわゆる萌え系4コマに分類される作品です。そしてこれはあくまで傾向ですが、4コマ系の作品はデザイン的と言いますか、あまり線を重ねて描写したり、1本の線に強弱を付けたりはしないように感じます。もちろん例外はあるでしょうが、どちらかと言えば、フラットな線です。
それ故に、この作品での食事シーン、複数の線を重ねた(やや写実的な)描写は強いインパクトを読み手に与える。


頬の斜線の描写も、これは(時には熱々の)食事を摂っている故に上気している表現な訳ですが、この斜線は、「恥じらい」とか「恍惚」とか、少なからず性的な感情を示す記号としても用いられるのは言うまでもないでしょう。


そして旨い食事を堪能したことによる、陶酔感溢れる表情。
これらの要素が綺麗に組み合わされることで、斯くも官能的な描写となる、ということでありましょう。



是非実際に読んで、確かめて戴ければと。
と、そんなところで、本日はこのあたりにて。

*1:構図によっては日常描写とさほど変わらない箇所も縷々身受けられますが、一傾向として、ということで。(´ω`;)

*2:大きく口を開けて食事をするきりんに関しては、唇は省略される傾向があります。