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時折マンガの話をします。

『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』

ここ数ヶ月、何かと忙しくて更新が滞り気味です。休日もマンガを読んだりネットをグダグダと見て終わってしまうか、仕事みたいなことやるかで終わってしまうことが多くていかんですね。


そんな状況ではありますが、たまには何か感想っぽいものを書いておこうかと思います。今回取り上げるのは『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』。購入したのが4月末なので既に3ヶ月以上経ってしまっている訳ですが、意外なほどに感想が見当たらない印象もありましたので、非才を顧みず何か書いておこうかなと思います。



著者は赤田祐一さん・ばるぼらさんのお二方。
赤田祐一さんは編集者としてかなり有名ですね。大ベストセラーとなった『磯野家の謎』『バトル・ロワイアル』を担当された方であり、雑誌「クイック・ジャパン」を立ち上げた方でもあり(しかも自費らしい)、個人的には名ルポルタージュ『消えたマンガ家』に取材協力者的位置付けでやたらと登場する方であります。
ばるぼらさんはネットワーカーとか古雑誌蒐集家といった肩書きを持っておられますが、2005年頃までのインターネットの歴史を「個人サイト」を中心に据える視点で記述した『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』やマンガ家・岡崎京子論の決定版『岡崎京子の研究』でも知られる方ですね。どちらも、どうやって調べたのか謎と言って差し支えない程の、膨大且つ精緻を極めた情報量が特徴です。
因みにお二方の共著としては、『消されたマンガ』以来となりますね。


消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―アッパー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―アッパー系の巻 (新潮OH!文庫)

教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書

教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書

岡崎京子の研究

岡崎京子の研究

消されたマンガ

消されたマンガ

(『教科書には載らない〜』に関しては、そろそろ続編にも期待したいですね。)


さて話を戻しまして『20世紀エディトリアル・オデッセイ』ですが、帯の文章を使わせて戴くと「画期的な編集とビジュアルで新たな価値観を生み出した雑誌を、関係者のインタビューと関連資料で振り返る」内容となっています。元々は「アイデア」というデザイン系の雑誌に連載されていたもので、それに書き下ろし・加筆修正が加えられています。
あまり聞き慣れない雑誌かもしれませんが、過去に何回かマンガ・アニメ・ライトノベルのデザインを特集した号とかもあったので、それらに関しては知っている方もいるかもしれませんね。


idea ( アイデア ) 2009年 05月号 [雑誌]

idea ( アイデア ) 2009年 05月号 [雑誌]

idea ( アイデア ) 2009年 09月号 [雑誌]

idea ( アイデア ) 2009年 09月号 [雑誌]

idea (アイデア) 2011年 09月号 [雑誌]

idea (アイデア) 2011年 09月号 [雑誌]

idea (アイデア) 2012年 05月号 [雑誌]

idea (アイデア) 2012年 05月号 [雑誌]

(このあたり。)


目次は以下のようになっています。括弧内は初出になります。
太字にした箇所が本編?といったところ。

  • プロローグ
  • ホール・アース・カタログ:ア・レトロスペクティヴ(347号)
  • [コラム1]『MAD』から始まったアメリカ・パロディマガジンの影響
  • [コラム2]革命的な自販機本『Jam』
  • プリンテッド・パンクス(357号)
  • [コラム3]ミニコミからスタートしたロック批評誌『ロッキング・オン
  • [コラム4]あらゆる領域を横断した脅威の雑誌『遊』
  • キャッチ・ザ・ニューウェイヴ(352号)
  • [コラム5]ダンディズムを突き詰める男の雑誌『NOW』
  • [コラム6]新宿が誰の街かと問い続けたタウン誌『新宿プレイマップ』
  • バック・トゥ・フィフティーズ(355号)
  • 実験雑誌としての『アンアン』(350号)
  • [コラム7]『暮しの手帖』以前の花森安治と『婦人の生活』シリーズ
  • [コラム8]切り口もビジュアルも過激な建築批評誌『TAU
  • 伝説の雑誌『ワンダーランド』と『宝島』
  • 大伴昌司と内田勝の視覚革命(349号)
  • [コラム9]90年代に続々と創刊した多彩なデジタルカルチャー雑誌
  • [コラム10]日本のマンガの基礎を築いた『ガロ』と『COM』の功績
  • コミックマーケット創成期と同人誌(348号)*1
  • [コラム11]『ウイークエンド・スーパー』『写真時代』―セルフ出版の時代
  • [コラム12]三流エロ劇画御三家『漫画大快楽』『劇画アリス』『劇画エロジェニカ』
  • 米沢嘉博書物迷宮(354号)
  • 雑誌曼荼羅 1901→2000
  • エピローグ
  • 20世紀雑誌年表


雑誌連載順に並べると、「ホール・アース・カタログ:ア・レトロスペクティヴ」「コミックマーケット創成期と同人誌」「大伴昌司と内田勝の視覚革命」「実験雑誌としての『アンアン』」「キャッチ・ザ・ニューウェイヴ」「米沢嘉博書物迷宮」「バック・トゥ・フィフティーズ」「プリンテッド・パンクス」の順になります。
それが書籍になった際には上の目次のように掲載順が変更されている訳ですが、それに伴って、全体がゆるやかに二部構成になっている印象がありますね。描き下ろされた「伝説の雑誌『ワンダーランド』と『宝島』」までが第一部、「大伴昌司と内田勝の視覚革命」からが第二部といった感じ(個人的な関心は後者のほうなので、雑誌で買ったのもそちらになります)。


便宜上の第一部は、「ホール・アース・カタログ」の思想とかイギリスのパンク・ファンジン(ならびにDIYの考え方)、パンク以降の「なんでもあり」的な精神を体現したかのようなニューウェイヴ雑誌(「WET」等)、1950年代アメリカ的表現・デザイン、そしてそれらの日本での受容・影響が、膨大な図版と取り上げられた雑誌・ファンジン関係者へのインタビューで検証されています。第二部は日本独自の動きというか、サブカルチャー寄りの内容ですね。
何と言いますか、雑誌の影響とか潮流といったものが、朧げに見えてくるような構成になっているんですな(自分より理解力が高い方にはもっとはっきり見えるのかも)。


それらの雑誌・ファンジン・同人誌等が創られた時代の空気が伝わってくるような、異様と言えるくらいの熱量・密度が、全てのページを覆い尽くしているように感じます。
インタビュー後に亡くなられた方も少なからずいらっしゃり、時代の証言としても非常に貴重なものと言えるかと。



『20世紀エディトリアル・オデッセイ』という書籍じたいのデザインも実に手が込んでいます。
これは連載時のものと比較すると判りやすいのですが、




(画像上:「アイデア」349号127ページ。)
(画像下:赤田祐一ばるぼら『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』129ページ。)


書籍化にあたって、より内容に添ったデザインにしているのが判るかと思います。上2つの画像はどちらも「大伴昌司と内田勝の視覚革命」の冒頭ページに該当しますが、書籍化にあたって大伴昌司氏の著作『怪獣ウルトラ図鑑』をモティーフにしたデザインにしている訳ですね。


怪獣ウルトラ図鑑[復刻版] (写真で見る世界シリーズ)

怪獣ウルトラ図鑑[復刻版] (写真で見る世界シリーズ)

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この他にも、




(画像上:「アイデア」348号129ページ。)
(画像下:赤田祐一ばるぼら『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』147ページ。)


この下の画像で使われているフォントとか、実に1970年代同人誌っぽいではないですか。実際に現物を持っている訳ではないですが、そうそう、こういうのだよ、と思わずにはいられない手書き風フォント。
まぁ、雑誌のほうもこちらはこちらで良さはありますし、(「アイデア」での)雑誌としての統一感というのがあるかと思いますので、どちらが優れている、というものではないのですがね。


書籍化に伴い書き下ろされたコラムページも特徴的です。



赤田祐一ばるぼら『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』93ページ。)


後ろのページが見えているのが判るかと思いますが、コラム収録ページのみ横幅が若干狭くなっています。そしてこの本は基本横書きなのですが、コラムだけ縦書き。かなり手が込んだ製本になっています。



と、いろいろと書き連ねてみましたが、どのインタビュー・各種コラムも詳細且つ興味深い内容。そして何より、1200を超える大量の雑誌類図版を眺めるだけで面白く、それぞれの雑誌に付された簡潔且つ的確な解説も読んでいて飽きることがない(膨大過ぎて疲れることはあるかも)。
定価は2500円+税と少し高めではありますが、それ以上の価値はあると思います。雑誌やサブカルチャー方面に関心のある方は読んで損はないかと。お薦めの1冊です。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:『20世紀エディトリアル・オデッセイ』8ページの初出一覧には349号と記載されていますがそちらは誤りになります。