マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

謹賀新年+α

明けましておめでとうございます。

 

昨年は、と言ってもここ数年ずっとではありますが、仕事のほうが何かと忙しく、数ヶ月更新が滞ることも珍しくないという状態でした。そのため、最新記事が『黄昏流星群』のやつになってしまいトップページに延々とおっさん達の画像が並び続けるという状況と相成ってしまいました。

 

あと個人的に印象深かったのは、自分の過去記事がコンビニ本に雑なかたちで剽窃されたっぽいという珍事ですね。

 

今年の目標としては、まぁささやかではありますが、昨年よりは更新頻度を上げていきたいですね。相変わらずマンガは読み続けていますし、いろいろ感想を書いてみたいものも増えてはきていますので。

昨日(12月31日)は実に久しぶりに冬コミ3日目への参加が叶い、評論系を中心に同人誌を買い込んだりもしたので、それらも含めたアウトプットをしていきたいな、とは思っています。

 

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(購入・或いは献本戴いた同人誌。)

 

今年もよろしくお願いいたします。

 

神々の黄昏

まずはこちらの画像をご覧ください。

 

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先日、『黄昏流星群』の尖り気味なエピソードを幾つかご紹介する記事を書きました。

m-kikuchi.hatenablog.com

 

その際ちょっと言及するのを忘れてしまったのですが、『黄昏流星群』には人ならざる存在が唐突に登場するエピソードが少なからず存在するのですね。上記リンク先だと「星鵠を射る」がそれに該当します。

そしてそのような、人ならざる存在をまとめたものが、上の画像となる訳です。

٩( 'ω' )و

幾つか漏れがあるような気もしますが、その点はご容赦戴ければと。

 

この「人ならざるもの」を大雑把に分類すると、以下のようになるかと思います。

①:天使

②:悪魔

③:神様

④:幽霊・幽体

⑤:地球外生命体

⑥:サンタクロース

⑦:インキュバス

⑧:その他

 

どのキャラクターがどれに分類されるのか、当てて見るのも面白いかもしれませんね。

ヒント?を幾つか挙げておきます。

1:天使は4人

2:悪魔は2人

3:神様は2人

4:幽霊・幽体は6人

5:地球外生命体は1人

6:天使の1人の名前はレオナルド

7:4人の天使のうち、2人は複数回登場する

8:①〜③のうち、おでんと関わりがあるのが2人

 

どうしても判らない場合は、実際にご覧戴くのがよろしいかと。

人ならざる存在が紡ぎ出す物語、つまり神々の黄昏を、是非ご堪能ください。

といったところで、本日はこのあたりにて。

 

 

『映画大好きポンポさん』をもっと愉しめるようになる映画を3つ挙げる

先日、『映画大好きポンポさん』の書籍版が発売されました。

 

映画大好きポンポさん (ジーンピクシブシリーズ)

映画大好きポンポさん (ジーンピクシブシリーズ)

 

 

この作品は、最初は pixiv で公開された作品です。

www.pixiv.net

これが非常に話題となり、気がつけば書籍化という流れ。

現在も無料で全編読めますので、気になった方はまずこちらを読んでみるのも良いかと思います。因みに書籍版との違いは、6つのチャプターに分けられている点・CHAPTER.1〜5の末尾にコラムが合計7つ収録されている点・巻末描き下ろしマンガといったところです。何れも(実在の)映画に関する内容となっています。こちらも読物として面白い内容となっていますので、興味のある方は是非手にして欲しいと思います。

 

 

ポンポさんは映画のプロデューサー。数多くのヒット作を送り出した伝説的プロデューサー、J・D・ペーターゼンの孫であり、そのコネクションと共に映画人としての才能も引き継いだ、銀幕の申し子と呼ばれる存在です(しかしながら、ポンポさんが製作する映画はB級娯楽作品が中心)。

彼女のアシスタントとして働くジーン・フィニは、映画以外の居場所がないような青年です。学生の頃はカースト最下層に位置し、そこから逃げるように映画だけを観続けていた、そして映画監督になることを唯一の夢としてペーターゼンフィルム社に飛び込んでいった、そんな青年です。

ある日、ポンポさんの次の企画のオーディションに、未だ女優志望という段階の少女、ナタリー・ウッドワードが参加します。そしてそこから物語は大きく動き始めます。

 

あとは実際に読んで戴くとして、この作品のキモはやはり、妥協や打算を極限まで排除して創作に興じる狂気にも似た情熱・それがもたらす愉悦と快楽を描いている点にあるのだろうと思う訳です。それ故に、それを知っている人・或いはそれに憧憬を抱く人の感情を揺さぶるのだろうと。

 

 

そして作中やコラム類で言及される(実際の)映画の数々。これもまた非常に魅力的なのです。作者の杉谷庄吾さんの映画愛・映画に対しての持論・価値観が行間からにじみ出てくるといいますか。

映画が好きなら、更に読んでいて愉しくなるのではないかと思います。この作品のキャラクターが登場する際、プロフィールと共にそのキャラクターが好きな映画が3つずつ挙げられるのですが、自分が観たことのある作品タイトルがあるとニヤリとしてしまいますよね。

 

 

ということで、ちょっと映画の話をします。

タイトルにも挙げたように、『映画大好きポンポさん』をもっと愉しめるようになる、と個人的に考える作品です。以下、内容にも少なからず触れるので未読の方はとりあえず pixiv のほうを読んでおくのが良いかと思います。

 

この作品中に、「マイスター」という映画が出てきます。

ポンポさんが脚本を書いた作品で、大雑把に内容をまとめると「天才指揮者が老いや焦りから失態を演じてしまい音楽への情熱も失ってしまうが、休養で訪れたアルプスで出会った少女との交流から次第に情熱を取り戻し復活を遂げる」というものです。

 

この「マイスター」に影響を与えているのではないか、と勝手に推測する3作品を挙げてみよう、という訳です。まぁ、あくまで自分が勝手に予想しているだけなので全然関係ないのかもしれないのですが、的外れなこと言っているよと嗤って戴ければと。

 

 

1:『サウンド・オブ・ミュージック

 

アルプスと言えばこれだろう!ということでまずは1本目、『サウンド・オブ・ミュージック』です。アカデミー賞も受賞している名作なので、詳細は省きます。ミュージカルは苦手で...という方もいるかもしれませんが、これは観て損はないと思います。雄大なアルプスの描写に目を奪われますよ。パッケージとかだとイメージが付きにくいかもしれませんが、第二次世界大戦直前、ナチスが台頭してきた時期のオーストリアを舞台にした、実話を基にした重厚な歴史ドラマでもあるのですよね。

まぁ、上映時間が3時間近いので、ポンポさん好みではないかもしれませんが。

(^ω^)

 

2:『殺人幻想曲』

殺人幻想曲 [DVD]

殺人幻想曲 [DVD]

 

 

指揮者が主役ならこれかな、と。不穏なタイトルですがコメディ映画です。

監督のプレストン・スタージェスは1940年代に活躍した映画監督・脚本家です。スクリューボール・コメディと呼ばれる、一癖ある男女がぶつかりあいながら最後は結ばれるような作品を主に手掛けています。この作品は公開当時は不評でしたが、現在は(たぶん)代表作のひとつに挙げられているのではないかな、と。

 

高名な指揮者が妻の不貞を疑うようになり、いろいろ報告を受けるうちにそれを確信するようになるのですね。そして妻の殺害方法とかを妄想しながら指揮棒を振ったりするのですが、その精神状況が如実に指揮に影響する様子が可笑しいのですな。妄想で殺害を企てて昂りまくっているときに鬼気迫る指揮をして絶賛の嵐を受けたり、とか。

 

3:『ブルグ劇場』

ブルグ劇場 [DVD]

ブルグ劇場 [DVD]

 

 

あくまで個人的な予想ですが、この作品は「マイスター」の骨格となっている。

1936年の作品となります。

主役となるのは舞台の老名優です。ある時、この俳優は「若さがなくなった」という批評を受け、そのショックが元で舞台を休むようになるのですね。そして休業中に街で見掛けた若い女性に一目惚れしてしまい、彼女が勤める店に足繁く通い始めるのですが、彼女には駆け出しの舞台俳優である恋人がいて...という筋立て。

そして幾人もの登場人物の思惑・感情が錯綜していく訳ですが、最後に老優は舞台への情熱を取り戻し復帰を果たすのです。

職業の違いはあれど、「マイスター」と『ブルグ劇場』、構成が非常に近いのが判るかと思います。

 

そしてこの「マイスター」についてジーンが言及するくだり、

冒頭とラストにある

オーケストラの

演奏シーン

 

ダルベールの

心の有り様で

同じ曲が

全く別物になるよう

工夫された演出......

 

うまい!

 

としか

言いようが無い

 

(杉谷庄吾【人間プラモ】『映画大好きポンポさん』87ページ。)

 

『ブルグ劇場』もほぼ同じ演出なのですよ。

『ブルグ劇場』では舞台俳優なので演奏ではなく戯曲になります。冒頭とラストで、『ファウスト』が演じられるのですね。共に同じ場面。しかしながら演出と演技の妙で、まったくの別物に見えてしまう。観たのはずいぶん前ですが、非常に驚いたことを記憶しています。 たぶん、「マイスター」の脚本を読んだときのジーンに近い感情だったと思う。

 

 

と、3作品挙げてみました。

実際に影響があったのかどうかはともかく、何れの作品も名作だと思いますので、ご興味のある方は一度ご覧になってみるのも悪くないのでは、と思います。

 

といったところで、本日はこのあたりにて。

あなたの知らない黄昏流星群

四十歳を越え

多くの大人達は、

 

死ぬまでに

もう一度、

 

燃えるような

恋をしてみたいと

考える

 

それはあたかも

黄昏の空に

飛びこんでくる

流星のように、

 

最後の輝きと

なるかもしれない。

 

この熱い気持ちを

胸に秘めつつ、

 

落ち着かない日々を

送る大人達を

 

我々は......

 

黄昏流星群

と呼ぶ−

 (弘兼憲史『黄昏流星群』1巻5ページ。)

 

皆様ご存知『黄昏流星群』の、記念すべき第1話冒頭を飾る台詞です。(^ω^)

説明するまでもないかもしれませんが、40代以上の男女の恋愛模様を題材とした連作集となります。熟年の性についてかなり踏み込んだ描写が為されているのが特徴と言えるかと。

40代以上とは書きましたが、実際には60代前後が中心という印象もありますね。中には80代が登場するエピソードもあります。その年代の男女の交わりが、性行為も含め実にねっとりと、生々しく描かれているので、「あぁ、爺さん婆さんがやってるやつね」くらいの認識で遠ざけている、或いは流し読み程度という方も少なからずいるのではないかと思う訳です。

 

しかしながら『黄昏流星群』はそれだけではない。

継続して読んでいる方は気付いているかもしれませんが、この作品群の中には時折、溜まった澱が吹き出したかのような、無闇に尖ったエピソードが描かれたりするのですね。

かなり前から、そういうエピソードがあることを知り合いに教えていたりしたのですが、かくいう自分自身時折つまみ読みしている程度だし、知らない作品はまだ存在する筈だ。そう思ったので、

 

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50巻まで読みました。٩( 'ω' )و

そして読んでいくと、やはり味のあるエピソードがいろいろ見つかりますし、それ以外にも弘兼憲史さんの指向というか傾向というか、そういうものが朧げに見えてきたりするのですね。

ということで、独断で選ぶ『黄昏流星群』のお薦めエピソードを幾つか挙げていきます。最初は軽めの入門編的なものから、次第に濃くしていく予定です。

以下、少なからず内容に言及しますので、「俺はまっさらな気持ちで『黄昏流星群』に向き合いたいのだ!」という方はご注意ください。

 

続きを読む

過去記事がコンビニ本に勝手に使われていたうえ、雑なコピペが原因で恥ずかしい文章になっていた

昨晩 twitter のTLに、このようなツイートが RTで流れてきました。


添付されている写真から判断すると、水木しげるセンセイ作品にこのような元ネタが...的な本らしいというのが判ります。そして恐らくはツッコミどころ満載な内容なのだろうという予測もできる。
自分も水木センセイファンの端くれとして、どれどれどのような内容か...と写真を拝見してみたところ、2枚目の写真に既視感を感じたのです。


はて、この写真下部にある文章どこかで...と思った訳ですが、


俺の過去記事だ ٩( 'ω' )و


まぁ偶然かもしれない。
これは比較検証してみる必要があるだろう、と思いましたので、



買ってきました。(^ω^ )
鉄人社から出ている、『人気マンガ・アニメの怖い元ネタ』という本になります。いわゆるコンビニ本というやつですね。
「この作品には実はこのような元ネタが...」というのを集めた内容となっています。


冒頭のツイートにあった該当箇所は、「第四章 あの名作の知られざるネタ元」の最初を飾る、「水木しげるが生んだすごい妖怪たちの元ネタ」という項になります。126〜129ページがその項にあたります。
そして既視感を感じた文章は以下のくだりになります。

 そもそも、水木しげるは元ネタが多い作風で有名だった。
 たとえば、「鬼太郎ベトナム戦記のラストシーンはプドフキン監督の映画「母」を参考にしたものだし、戦争マンガの傑作「幽霊艦長」のエンディングは、1958年の映画「灰とダイヤモンド」と同じだ。「ゲゲゲの鬼太郎」だけでなく、様々なソースから引用をしているわけだ。
(『人気マンガ・アニメの怖い元ネタ』128ページ。)

実はこの引用箇所じたいにかなり恥ずかしい間違いがあったりするのですが、それに関しては追って触れます。
では、自分の過去記事を参照してみることにします。


m-kikuchi.hatenablog.com



4年ほど前に書いたものになりますね。
詳細はリンク先をご参照戴ければと思いますが、該当箇所を引用しておきます。

水木センセイの作品には少なからず元ネタがある、というのはそれなりに有名な話です。これは何も妖怪絵に限った話ではないのですね。実例を挙げてみましょう。



水木しげる『幽霊艦長』ちくま文庫版、287ページ。)


この画像は、『白い旗』という作品のクライマックスです。水木センセイは戦記マンガも多数描かれていますが、数ある作品の中でも有名な、戦記ものの代表作のひとつと言えるでしょう。
硫黄島での玉砕で僅かに生き残った部下の命を救うため、砲弾が飛び交う中でひたすらに白旗を降り続けた隊長が、一人残らず死に絶えるまで抗戦するべしと考える別の日本軍将校の命令で射殺されてしまう場面。戦争の理不尽・無意味さが淡々と、しかし静かに燃えるように描かれる名編です。
そしてこの場面の元ネタがこちら。


灰とダイヤモンド [DVD]

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ポーランド映画界の巨匠、アンジェイ・ワイダ監督の代表作『灰とダイヤモンド』。
第二次大戦後のポーランドレジスタンスグループの対立(自由主義側とソ連側)を背景に、テロリズムに走ることになる青年の悲劇を描いた名作です。そのラストシーンが、上の画像です。
これ以外にも、『鬼太郎ベトナム戦記』のラストシーンは、旧ソ連を代表する映画監督の一人、フセヴォロド・プドフキン監督の代表作『母』が元ネタだったりもしますね。


母 [DVD]

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やはり俺の過去記事を元に書いている、と思わざるを得ないですな。٩( 'ω' )و
先ほど触れた「かなり恥ずかしい間違い」も傍証のひとつとなっています。灰とダイヤモンド』のラストシーンを元にしている作品、『幽霊艦長』じゃないんですよ。『白い旗』です。


自分の過去記事の引用箇所、ちょっと説明不足だったかもしれませんが、『白い旗』という作品は、ちくま文庫版『幽霊艦長』に収録されている短編のひとつなのですね。戦記マンガを集めた短編集なのですが、タイトルとなったのはその中のひとつ『幽霊艦長』であるということです。
なので引用した画像の出典には「水木しげる『幽霊艦長』ちくま文庫版、287ページ。」と書いた訳です。
しかしながら『人気マンガ・アニメの〜』の執筆者氏はそれに気付かず、出典箇所のみ読んで『幽霊艦長』のラストシーンの元ネタが『灰とダイヤモンド』だと判断してしまった模様。


画像の直後に「この画像は、『白い旗』という作品のクライマックスです。」と書いたのですが、どうやら伝わらなかったようで、自らの説明力不足を嘆かねばならないのでありましょう。
まぁ、『幽霊艦長』ならびに『白い旗』をちゃんと読んでいれば、間違えようがない筈なのですが。
(^ω^ )


『人気マンガ・アニメの怖い元ネタ』には元ネタ(自分の過去記事)が存在して、且つそれを誤読して勘違いをしたまま出版するという、体を張ったギャグなのかなと感じた次第です。
他の箇所はどうなのかも気になるところではありますね。


といったところで、本日はこのあたりにて。

『約束のネバーランド』における認識番号の法則

約束のネバーランド』、面白いですね。


孤児院のグレイス・フィールドハウスで幸せに暮らす38人の子供たち。しかしある日、最年長のエマとノーマンの二人は、孤児院の隠された目的を知ることになり...というくだりから始まる物語です。
第1話が公開された際もその衝撃的な展開が話題になったと記憶していますし、最近だと、自分は未見なのですが「アメトーーク」でも紹介されて絶賛されていたとか何とか。


そして今月、最新巻となる4巻が発売されたのですが、帯折り返し部分に、原作者の白井カイウさんによるコメントが書かれていました。こちらになります。

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ここで個人的に気になったのが、

①首筋のナンバーの法則?の
 ほぼ答えみたいなヒントが
 本巻本編のどこかにあります

というくだりです。
首筋のナンバーというのは、孤児院の子供たち全員の首筋に刻印されている認識番号のことです。第1話の冒頭で出てきますね。

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白井カイウ出水ぽすか約束のネバーランド』1巻15ページ。)

こんな感じ。
幸せな暮らしでありながら、何かが歪であることを示す演出にもなっています。


この認識番号、何か法則みたいなのはあるのかなと漠然と思っていた訳ですが、やはりあるらしい。
という訳で、ちょっと調べてみることにしました。
以下、ある程度は作中の内容にも触れるので未読の方はご注意を。

続きを読む

引っ越してきました

これまで長いことダイアリーのほうで書いていましたが、ダイアリーの新規登録の終了とかありますし、諸々の機能もこちらのほうに注力している感がありましたので、これを機に引っ越してみることにしました。

例によって仕事のほうが忙しいので更新頻度は低いですが、時折思いついたように何か更新するかと思いますので、今後はこちらのほうでよろしくお願いします。

狂気を創り出すコマ割り:『ヒストリエ』10巻におけるアレクサンドロスの描写について

先日、待ちに待った『ヒストリエ』の新刊が発売されました。



9巻が出たのが2015年の5月なので、1年10ヶ月ぶりになりますか。
この巻では、前半は9巻において戦端が開かれた、マケドニア軍とアテネ・テーベ連合軍によるギリシア地方覇権を決する戦争(カイロネイアの戦い)の顛末が、後半ではマケドニア王・フィリッポスや重臣アンティパトロスの目論見により政治・軍事の世界に否応なく巻き込まれていくエウメネスが描かれます。


既に何度か繰り返し読んでいる訳ですが、ほんとうに素晴らしいの一言に尽きますね。様々な思惑が複雑に絡み合いつつ、広がりを見せていくストーリー、引き込まれます。既に次の巻が待ち遠しいですね。


で、先程前半ではカイロネイアの戦いが描かれる旨を書きましたが、そこで描かれるのは、この戦いで初陣を飾ったアレクサンドロスの姿です。後の英雄・アレクサンドロス3世ですね。
そしてアレクサンドロスの描かれ方ですが、天才性を持つと同時に只ならぬ狂気を孕んだ存在として描写されます。父であるフィリッポスをして「ヤツは病気だ」*1と言わしめるほどの。


ほんの僅か先の未来が「見える」という神懸かり、それに基づく常識では思いも寄らない行動、まったくもって異質な価値観・言動。アテネの兵隊が「白っぽい小柄のバケモノ」*2と認識してしまう異様な存在として描かれるのですね。


で、その異様さ・狂気を、マンガの特性といいますか、構造を巧みに利用して表現している箇所がありまして、それが非常に面白いなと思ったので軽く触れてみます。
既読の方はもうお判りかもしれませんが、こちらになります。



岩明均ヒストリエ』10巻96ページ。)


敵陣の切れ目を突き抜いて単騎でアテネ軍の背後に回ったアレクサンドロスは、敵の隊列を掻き乱すこと「のみ」を目的として、背後をテーベ軍側へと駆け抜けながら敵兵の首を次々に「撫で斬り」していきます。そして手持ちの剣がすべて使い物にならなくなると見るや、馬から降りて先程切り捨てて首から下だけになった兵隊のもとへ悠然と歩いていき、淡々とその亡骸の装備を外し、剣を調達していくのですね。
呆気に取られ、或いは理解不能な恐怖で身動き一つできずにいるアテネ兵を前に、アレクサンドロスは自らの武人としての心得・持論を滔々と展開し始めるのです。それが上のコマになる訳です。


このコマ、ぱっと見では明らかに違和感があります。何かに憑かれたかのような、正気ではないような印象を受ける。
しかしながらこれは、マンガならではの表現であると共に、読む側が狂気を勝手に見出してしまっているとも言える訳ですね。


これは、2つのコマを別々に見ると判ります。




それぞれのコマを単体で見ると、特に違和感を感じるものではないことが判るかと思います。ほんらいこの2つのコマは別個の存在といいますか、僅かではありますが異なる時間のコマなのですね。
また、描かれてはいない箇所を推測するかたちにはなりますが、恐らくそれぞれのコマ、描かれていない目の向きは、描かれているそれとほぼ同じ向きになっている。顔の左側が描かれているコマの右目は左側に寄り気味の筈ですし、同様に右側が描かれているコマの左目は下向きになっている筈なのです。


しかしながら、この別個のコマが左右に並ぶことで、読む側がこの2つの顔を1つの顔として捉えてしまう訳です。結果として、左右の目が異なる方向を向いていて且つ口許が中途半端に歪んでいるかのような、非常に違和感の強い、狂気を孕んだかのような顔として認識してしまう。非常に巧い演出だなぁと感じました。


複数のコマを繋げることで異なる意味が生じる、っていうのは、映画でいうモンタージュ理論っぽいところがありますね。それでいて、連続している僅かな時間の、特定の箇所を切り取って同じ面に並べて描くというのはマンガならではかもしれないなと思いました。


と、まぁそんなことを考え連ねていた訳ですが、そういったことを特に気にせずとも『ヒストリエ』は最高の面白さなので、まだ読んでいない方は是非ご一読を。2ヶ月に1冊くらいのペースでも、次の新刊が出る頃には恐らく追いつく筈です。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:岩明均ヒストリエ』10巻135ページ。

*2:同書77ページ。

東京都指定不健全図書・諮問図書におけるBL作品の傾向と対策

※タイトルにはやや誇張があります。
表現規制とかに関心が高い方は、東京都指定不健全図書・諮問図書について目を配る機会があるのではないかと思います。


月に1回(毎月10日前後)に東京都青少年健全育成審議会というのが開催されまして、その会において何作品か(通例1〜3作品ほど)「不健全な図書類」というのが指定されます。
その対象となる図書類は全年齢作品として販売されていた訳なのですが、その指定を受けると一般書店では回収がかかって見当たらなくなったりするのですね。


そしてこの指定を受ける作品、男性向けのみではなくここ何年かはBL作品も受けることが多くなってきています。
それでちょっと訳あって、指定を受けたBL作品を調べる機会があったので、以下にまとめてみます。指定を受け始めたのは2010年からになりますので、それ以降のデータになります。これ以前の指定作品があり、且つご存知の方がいらっしゃれば、ご教示戴ければ幸いです。
因みに作者名がないもので、ふつうの鉤括弧「 」は雑誌、二重鉤括弧『 』はアンソロジーになります。



2010年


2011年

  • 『肉体派 VOL.19 極 !! エロ』(オークラ出版、2011年3月18日)
  • 宮下キツネ『殿下の家電』(海王社、2011年5月20日)
  • ジュネットMOOK DVD JUNE」(ジュネット、2011年6月1日)
  • 青山あると『Dr.チェリー』(海王社、2011年6月20日)
  • 宮下キツネ『限界バトル』(笠倉出版社、2011年8月5日)
  • 佳門サエコ『先輩の水着』(リブレ出版、2011年8月10日)
  • 藤井あや『男巫女』(ジュネット、2011年9月15日)
  • 藤井あや『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』(ジュネット、2011年11月15日)
  • 『肉体派ガチ! VOL.1 特集:戦うおっさん』(オークス、2011年12月23日)


2012年

  • 和泉アオ『ワンコ発情中』(日本文芸社、2012年1月10日)
  • 蝶野飛沫『愛玩奴隷 クライマーズハイ!』(ジュネット、2012年7月15日)
  • 東城麻美『被虐のキッス 東城麻美 伝説の作品集 上』(竹書房、2012年7月16日)
  • 東城麻美『享楽のペルソナ 東城麻美 伝説の作品集 下』(竹書房、2012年8月16日)
  • 宮下キツネ『もえるお兄様』(光彩書房、2012年11月7日)


2013年

  • 黄上恵理『心騒がせるキミと』(光彩書房、2013年2月7日)
  • いつきゆず『隷従の檻』(ジュネット、2013年5月15日)
  • しもがやぴくす&みらい戻『性玩具病棟』(ジュネット、2013年7月15日)
  • ふきなつき『愛玩サディスティック』(オークラ出版、2013年9月12日)
  • かゆまみむ『彼の食欲×性欲×所有欲』(リブレ出版、2013年11月10日)


2014年

  • はらだ『変愛』(リブレ出版、2014年1月23日)
  • 麻井キンタ『褐色のマーメイド』(大都社、2014年7月8日)
  • 蜂宮よう子『縛られやケンちゃん』(東京漫画社、2014年9月25日)
  • 「BOY'S ピアス 禁断」2014年11月号(ジュネット、2014年11月1日)


2015年

  • 藍川いたる『かべアナ』(ジュネット、2015年1月15日)
  • 座裏屋蘭丸『ペット契約』(リブレ出版、2015年3月10日)
  • 十はやみ『女装クロギャルママ男子』(ジュネット、2015年5月15日)
  • 灰崎めじろ『淫夢教師、飼育解禁。』(ジュネット、2015年6月15日)
  • 座裏屋蘭丸『眠り男と恋男』(リブレ出版、2015年7月10日)
  • 花田マコ『教師玩具』(ジュネット、2015年8月15日)
  • 『性癖BL』(メディアソフト、2015年9月15日)
  • 蔓沢つた子『好物はいちばんさいごに腹の中』(竹書房、2015年10月1日)
  • 有馬ちま子『ドS執事とヤンキー坊ちゃま』(コアマガジン、2015年10月24日)
  • 赤星ジェイク『はれもの水風船』(ふゅーじょんぷろだくと、2015年10月24日)


2016年


2017年

  • 池玲文『媚の凶刃 〜X side'〜』(リブレ出版、2017年1月10日)

以上、もしかすると幾つか漏れがあるかもしれませんが、調べた限りでは44作品になります。
そしてこう一覧を作成してみると、朧げに見えてくるものがあるといいますか。


まず、最初は特定の作品ではなく、雑誌やムック・アンソロジー類を指定していたことが判りますね。これに関しては、恐らくではありますがアタリをつけていたのではないかと考える訳です。複数の作品が収録されている雑誌やアンソロジーはそれに適しているといいますか、後々の作品ごとの指定に向けての試金石みたいな意味合いも含まれていたのではないか、と。
実際、2010年に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』が指定されている訳ですが、翌年に同じ出版社の作品が2つ指定を受けています。因みに作者の宮下キツネさんと青山あるとさん、共に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』にも参加しているのですね。


そして宮下キツネさんは(あくまで調べた限り、ではありますが)不健全図書の指定を受けた最初のBL作家さんになった訳でして、それ故なのか三度にわたり指定を受けています。3回指定を受けたのは唯一、宮下キツネさんのみ。
2回指定を受けた方というのは何名かいますね。藤井あやさん、東城麻美さん、座裏屋蘭丸さん。共通しているのは殆ど間をおかず続けざまに指定を受けているという点になります。一度注目?されると続けざまに...という傾向が窺える訳ですが、それぞれケースが異なるので個別にみていきます。


まずは藤井あやさんから。『男巫女』『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』の2作品で指定を受けている訳ですが、注目して戴きたいのは後者です。タイトルからある程度察することができますが、『桃色男子』は全4冊のシリーズで、「檸檬編」はその3冊目になります。1冊目は2007年、2冊目は2008年、4冊目は2012年3月に発売された訳ですが、これらは何れも指定を受けていないのですね。何故か3冊目だけ。
同様の傾向を窺える作品も別に存在しまして、佳門サエコさんの『先輩の水着』がそれにあたります。同様のコンセプトの『花嫁の水着』という作品が2016年1月に発行されていまして、こちらは特に指定は受けていません。
因みに『先輩の水着』に関しては修正を加えたうえで『水着彼氏。』と改題した作品が電子書籍版で読むことが可能です。
これらのことから考えられる可能性は、

  • 指定を受け、次回作以降は作者さん側で表現に配慮している
  • 指定した側はアトランダムで選別していて、ある程度期間を経たものが続編か或いは同様のコンセプトなのかは考慮外。または把握しきれていない

といったところでしょうか。


続けては東城麻美さんですが、2007年にお亡くなりになっていまして、その後に初収録も含めたセレクションというかたちですね。いろいろと毀誉褒貶ある作家さんでもあった訳ですが、立て続けに指定を受けてしまったというのは何か複雑な気分になります。


そして座裏屋蘭丸さんですが、元々電子配信されていて非常に人気が高く、紙媒体で満を辞して出版したら指定を受けてしまった、というかたちです。又聞きにはなりますが、男性向けでも同様のケースは見受けられる模様です。
2作品が立て続けに指定を受けてしまい、これが影響しているのかは定かではありませんが、その次に出した作品『VOID』は完全受注生産且つ最初からR-18指定での出版、電子書籍版もあるとの話ですがそちらは修正が強く入っているとのことです(こちらも又聞きですが)。因みに『VOID』は非常に評価が高く、「このBLがヤバい!2017年度版」でも上位にランクインしています。



あと注目しておきたいのは、出版社の傾向でしょうか。
上の一覧を見て戴ければ一目瞭然ですが、圧倒的ジュネット(或いはマガジン・マガジン)率です。
全44作品のうち、15作品がジュネット。だいたい1/3ですね。2010年以降毎年指定を受けている唯一の出版社でもあります。
ジュネット、これは私見になりますが、BL系の出版社では最も突き抜けている印象でして、全身全霊で頭の悪いことをしている感があります(賛辞です、念の為)。6年ほど前にはなりますが、ジュネットの雑誌について軽く触れたことがあるのでよろしければそちらもご参照ください。

あとは、「ポロリ落とし」で画像検索をして戴ければある程度は納得してもらえるかな、と。元ネタとなる作品は、ジュネットから出ています。


それとは逆に、これまで指定を受けていない出版社の傾向もあります。一般コミックス(非BL・非成年向)を主軸に据えている出版社のBLレーベルは、指定を受けない傾向が強いですね。
例を幾つか挙げると、新書館(Dear+コミックス)・芳文社(花音コミックス)・幻冬舎(ルチルコミックス・LYNXコミックス)はかなり規模が大きいBLレーベルを持っていますが、これまで指定を受けていません。それより若干規模は小さい印象がありますが、集英社(EYES COMICS Blink)や白泉社(花丸コミックス)もそうですね。意外かもしれませんが、集英社(正確には集英社グループのホーム社)もBLレーベルを持っているんですよ。


ただこれもあくまで「傾向が強い」というだけで、竹書房はこれまでに3作品が指定を受けていますし、昨年11月には、初めてKADOKAWAが指定を受けているんですね。CL-DXというレーベルで、『純情ロマンチカ』や『世界一初恋』、『八犬伝 -東方八犬異聞-』に『SUPER LOVERS』等、アニメ化された作品も少なからず存在するレーベルです。どこの出版社が指定を受けるかは、今後も注目しておいたほうが良いかもしれません。


といったところで、あまりまとまっていない気もしますが、長くなったのでこのあたりにて。

『映像研には手を出すな!』のフキダシ

例によって仕事でやることが多く、絶賛更新停滞中です。
とは言えそればかりでは息が詰まりますので、気分転換も兼ねて何か書いてみようかと。


既に2月になりましたが、先月話題になったマンガのひとつとして、『映像研に手を出すな!』を挙げることができるかと思います。



自分の考える「最強の世界」をアニメで作りたい監督気質・設定大好きな浅草みどり、お金大好きプロデューサー気質の金森さん、カリスマ読者モデルでアニメーター志望の水崎ツバメ、この3人が高校でアニメーション制作目的で「映像研」を設立することから始まる物語です。
瑞々しさのある女子高生活とアニメ制作、そして浅草さんの思い描く世界(設定)が作中の現実と混じり合い、SF・ファンタジー的想像力に溢れる日々が描き出されています。主要キャラクターの高揚感が伝わってくるような演出が実に心地よく、個人的にもお薦めできる作品です。キャラクター造型も秀逸で、とりわけ金森さんが素晴らしいですね。


で、この『映像研に手を出すな!』、単行本発売直後に(少なくとも自分のTLを眺めた上では) twitter とかでもかなり話題になっていたのですが、その要因のひとつとして、フキダシの独特な演出があります。実例を2つほど挙げてみます。



(大童澄瞳『映像研には手を出すな!』1巻18ページ。)


浅草さんと金森さんが、追っ手(使用人)から逃げていた水崎さんの手助けをし、その際にイチゴミルクを被ってしまった水崎さんをコインランドリーに案内している場面です。主役となる3人が接点を持った直後のシーンですね。複雑に入り組んだ裏道、橋の上に建てられた家屋、魔都・魔窟といった趣のある雑然とした魅力、恐らくこういう世界観こそが、作者の大童澄瞳さんにとっての「最強の世界」なのかな、と感じたりもします。
ちょっと脱線しましたが、ここで注目して欲しいのがフキダシでして、一目瞭然かと思いますがフキダシ内の台詞にパースが付いています。これはこの作品の大きな特徴のひとつで、随所にこのようなパースの付いた台詞・フキダシが存在します。
個人的な印象では、パースが付いたことによりフキダシそのものは平面的なものとして(読み手に)認知されて、それによって背景に奥行きを感じさせるような、そんな演出になっているなと感じました。



(同書78ページ。)

大雨の中を歩いている場面になりますが、浅草さんの「凄い風だなこれ!ヒャッホーウ!声が流れてくぞ!」という台詞を、風に流されている形状のフキダシで描くことで、声が流れる現象を再現している訳ですね。これも面白い演出です。



ただ、実は個人的に最も気になったフキダシの演出はこれらではないのですな。上に揚げた2つの例に比べると非常に地味ではあるのですが、非常に洗練された技術ではないかと感じたフキダシの使い方があります。実際に使われているのがこちらとなります。



(同書8ページ。)

1人でのアニメ制作に躊躇している浅草さんと、周囲を観察している金森さん。その2人が喋っている最中、金森さんが水崎さんを発見する場面です。


注目して戴きたいのは今挙げた画像の2コマ目、金森さんの台詞「おや。」のフキダシです。
フキダシの右上に、切れ込みみたいなのがあるのが判るかと思います。



普通のフキダシは、1コマ目の浅草さんの台詞のように、フキダシの一部が尖っていて、その先端が話者に向けられています。
それに対して切れ込みが入ったフキダシは、切れ込みが入っている箇所の正反対方向からの発言を意味します。上の画像を例に挙げると、右上に切れ込みがあるので、左下が尖っているフキダシと同じ意味合いということになりますね。つまりこの場合、設定画を描いている浅草さんの左後方から掛けられた声ということです。
それを踏まえて、直前のコマをご覧ください。



(同書7ページ。)


柵を背に設定画を描いている浅草さん視点から見て、左後方に金森さんの顔があることが判るかと思います(柵から乗り出しているので若干後方になっている)。



他の例も挙げてみましょう。



(同書71ページ。)

風車のアニメーション制作をしている場面の1コマ。浅草さんが金森さんに、風の表現について説明をしています。水崎さんも近くにいます。切れ込みのあるフキダシは2コマ目に使われていますね。「なるほど。」と「ほう。」の2つ。これは共に右方向、つまり浅草さん視点の左側方向からの発言であることを意味します。1コマ目の位置関係から、この台詞も金森さんの発したものだということが判ります。
仮に水崎さんの台詞だったとした場合、浅草さんとの位置関係では正面に近いので、「なるほど。」「ほう。」のフキダシの上部に切れ込みが入っていたと考えられます。


コマに描かれない人物の台詞(フキダシ)が誰の台詞なのかを判断する場合、主に文脈(台詞の内容)とか文体(口調)で判断する訳ですが、この「切れ込みが入ったフキダシ」は別ベクトルからの判断基準を提供してくれる訳です。
別に普通の(先端が尖った)フキダシでも良いではないかという意見はあるかもしれませんし、まぁ概ね当たってもいる訳ですが、コマ枠の都合上見栄えが良くなかったりとか、複数の(コマ枠に描かれない)キャラクターが存在した場合とかを考えると、フキダシを削ることで位置関係を示すこの手法は非常に洗練されているなぁと考えたりする次第。


...まぁ実を言うと、この法則がすべてのフキダシにおいて適用されているかというとそうでもなかったりはするのですが*1、概ね上記のような使われ方をしています。これは使い方次第では、複数人がいろいろ台詞を発するような場面での構図・演出でかなり選択肢が広がるかもしれないなぁとか、素人考えですが感じたりもします。


フキダシにも注目しつつ、夏発売予定の2巻に期待ですね。
といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:95ページ7コマ目とか。