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『ブラッドハーレーの馬車』を、物語の点から検討してみる:第八話と適当なまとめ

無闇に長い『ブラッドハーレーの馬車』の感想が続いています。
この回で完結させます。

この記事から読んでしまうと、いきなり最終回の解説を始めてしまうのでご注意を。


【第八話 馬車と飛行船】

時は1917年、第一次世界大戦も終局へと差し掛かろうとしている時期。
その年に「養女」として迎えられたのは、第一話で犠牲者として描かれたダイアナの親友・コーデリアである。
既に20歳になったコーデリアは「屋敷へと向かう」馬車の中で、7年前に養女として迎えられたダイアナの行方を尋ねるが・・・。

最終話。『1・14計画』の終焉、ブラッドハーレー家の没落と顛末が語られます。
ブラッドハーレー家に何らかの疑惑を感じつつも、真実を知るためにそこへ向かおうとするコーデリアの強さが印象的です。
179ページ扉絵や206〜207ページ見開きで描かれるコーデリアの後ろ姿に、凛とした力強さを感じますね。

この回で考察されるべき点は203ページ、マリラ(養女であるが、公爵の「仕事」の手伝いをしている)の回想です。
まずはその箇所を引用しておきます。

だけどある日・・・私は気付いた
『パスカの祭り』で少女が一人死ぬごとに・・・

天井画の中の翼を持つ少女が一人ずつ増えていく事に

私だけが気付いたお義父様の贖罪―
だから私は・・・最後まであの屋敷を出る事ができなかった

たとえ他の誰もがお義父様を見捨てても・・・

まずは天井画について。
ブラッドハーレー公爵にも罪の意識があったことが示唆されます。
しかしここで思い起こされるのが、第三話のフィリパです。
脚が不自由になったからという理由で『パスカの羊』にする冷酷さと、「罪の意識」が結びつかないのです。ただでさえフィリパを送り出す行為に必然性が見出せないので、矛盾はいっそう明確になります。

あらゆる不安要素を排除し、多くの罪を被ってでも貴族の地位を守ろうとしたのか・・・そのあたりの解釈は読者次第ということでしょうか。


さてマリラは唯一天井画の秘密に気付いた訳ですが、ここで見逃せない点がひとつあります。
回想から察するに、天井画の秘密に気付く前から『パスカの祭り』のことを知っていたと考えられるのです。
それもマリラのみならず、多くの養女たちがです。
彼女たちはいつ、どのようにして『祭り』の存在に気付いたのでしょう?

これについても特に説明とかはないので各自推測するしかない訳ですが、幾分筋道のとおった説明を考えようとすると、やはり第七話でレスリーが消息を絶ってしまったことが原因とするのが妥当かと思います。
「もうひとつの歌劇団」の噂話とかをしていた矢先にレスリーがいなくなり、さすがに不穏に思った多くの養女たちが出自の孤児院を調べてみて・・・という具合に。

・・・何か謎本みたいになってしまっていますね。(´ω`;)
一種の妄想ですので、あまり真に受けないようお願いする次第です。

あと、仮にこの推測を採用するとして、その場合第三話・第七話と登場し、最後の最後まで公爵家に残っていた二六女カザリンは如何なる心境であったのかも気になるところです。
よほど浮世離れした性格だったのでしょうかね。


まだいろいろと書くべき点はあるようにも思いますが、とりあえず簡単にまとめを。

物語の構成・設定という点で言えば、かなり大雑把なのは確かです。
これまでに挙げてきた幾つかの綻びが、それを裏付けていると思います。
しかしこのマンガが駄作かと言うと、決してそんなことは無い。これは強調しておきたいですね。

『ブラッドハーレーの馬車』に登場する少女たちは、何れも強い印象を読者に残すと考えます。
その少女たちを描くために諸設定が与えられたと考えるほうが自然です。
それに、こういう設定は綻び・空白があるほうが読者の想像を掻き立てると言えます。
実際僕はかなりいろいろと考えてしまいましたしね。

(思えばTV版の『エヴァ』も、ストーリー的には完全に破綻した最後の2話があったからこそあそこまで多く語られた訳ですし。)


人に薦めるのは躊躇われますし、まったくもって受け付けない方も多数おられるかと思いますが、残虐描写にある程度の耐性がある方なら、読む価値はある作品だと思います。
少なくとも何かが心の中に残るかとは思いますよ。
・・・まとまってないなぁ。(´Д`)

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

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