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時折マンガの話をします。

ツンデレという病に如何に向き合うか

(個人的には)今月最大の注目作、篠房六郎百舌谷さん逆上する』が一昨日発売となりました。

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する』は「アフタヌーン」で連載されています。
ある事件がきっかけでツンデレ美少女・百舌谷さんに下僕として扱われることになった樺島という少年(ブサイク)の視点から、百舌谷さんの果てしなく暴走し続ける日常(?)が描かれます。
そこに樺島をパシリとして扱い百舌谷さんにも執拗にちょっかいを出す竜田揚介、竜田の幼馴染みの五島千鶴、更には竜田の兄(オタク)なども絡んできて、それが原因で百舌谷さんのツンデレが爆発し・・・という展開ですね。

とにかく、ツン状態での百舌谷さんの発言が圧倒的です。
転校してきて自己紹介をする際の、最初の台詞がこうです。

初めまして

こうして皆さんの前に
立ってみると皆の顔が皆
長い間ほったらかした後ブサイクに
歪んで芽を出した毒まみれの
ジャガイモの山にしか見えません (後略)

(4ページ)

このように淀みなく繰り出される、流麗な言い回しによる罵詈雑言のオンパレードがこの作品の面白さのひとつですね。

ただこの作品の最大の特徴にして、『百舌谷さん』を巷に溢れる萌えモノとは一線を画したものにしているのが「ツンデレ」の設定です。
この作品において「ツンデレ」とは病気です。属性ではない訳です。

「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害」という名称が与えられています。
因みにカバー折り込みの後書きによると、この名称を考えたのはSF作家の伊藤計劃さんとのことです。伊藤計劃さんのブログ(伊藤計劃:第弐位相)にも『百舌谷さん逆上する』の鋭い考察が書かれていますね。余談になりますが『バルバロイ』という同人誌に収録されている伊藤計劃さんの短編「セカイ、蛮族、ぼく。」(恐らく世界で唯一の「セカイ系蛮族小説」)は必読です。


(いちばん右の同人誌が『バルバロイ』です。)

些か脱線が過ぎましたので元に戻します。
百舌谷さんは「ツンデレ病」に罹っている。
そして百舌谷さんはこの症状を心の底から呪っています。ここが重要だと思います。

実際に『百舌谷さん』を読んで、百舌谷さんのツンデレ具合に「萌え」を感じる人ってどのくらいいるのかな?と考えたりする訳ですよ。
作中の百舌谷さんが世界のすべてを呪う、その原因となっている「ツンデレ」を。
そのような属性に萌えるのは、その属性を持ち合わせて(しまって)いる当人の人格を無視・否定することに繋がり得るのではないか。

竜田は兄から、百舌谷さんのツンデレ的振る舞いを引き出すように要求されます。
そして竜田は、金に釣られて嬉々として承諾し、そして竜田に嫌われないよう暴力的な行動を必死に抑えている百舌谷さんに対してツンデレを出さないことを非難する。
第4話の観覧車の場面以降竜田の心情に幾分の変化が出ては来ているものの、それ以前の行為は読んでいてかなり不快感を感じるように描かれています。
この作品を読んで百舌谷さんのツンデレに萌えを感じる人は、竜田とさほど変わらないのではないか。

こういうふうに考えると、この作品はかなり重い問い掛けを発していると言えます。
かなり批評性の強い作品ではないかと思うのですよ。


『百舌谷さん』がどこへ向かうのか。そしてこの作品にどう向き合うべきなのか。
今後も注目の一作です。