マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『火星のココロ』は実にウェブマンガらしい作品かも、という話

現在 Yahoo!コミックにて、ヒーロークロスラインHXL)という企画連載が進行中です。多数のマンガ家さんが共通する世界観・時間軸を背景にした作品をそれぞれ描いて、しかもそれらが別作品ともクロスオーバーしていくという構成になっています。
1999年にオルタネイション・バーストと(後に)呼ばれる謎の現象により世界中で異形の能力者集団が大量発生。その集団は「ノッカーズ」と呼ばれ、その能力を用いての犯罪行為が社会問題化しています。HXLの登場人物は何らかのかたちでノッカーズとの関わりが存在し、それが物語を動かしていく訳です。


本誌というのかスポンサー雑誌というのか、HXLの単行本レーベルである「マガジンZ」が2009年で休刊してしまうということではありますが、どんなかたちでも構わないので続いて欲しい企画だと思います。


さてそんなHXL作品のひとつに、『火星のココロ』というものがあります。


作者は馬場民雄さん。代表作は『虹色ラーメン』でしょうか。
『火星のココロ』は、HXLの時間軸では(現時点では)最も後となる2058年の話です。火星への植民が開始されてから10年、コロニーで生活している少女ココロとその家族、そしてノッカーズの能力を持つ子犬・コロの物語です。


まだ全巻揃えていないので感想は控えますが、なかなかいい話ですよ。
そしてこの作品は内容以外にも注目に値する点があります。



写真を見れば一目瞭然ですが、左開きなんですよね。



単行本の冒頭にも、「このマンガは左から右に読んでください。」と註記されています。
この「左から右に読む」という形式は、海外コミックの翻訳以外では非常に珍しいです。確か『金魚屋古書店』に「リリカ」という左開きのマンガ雑誌を扱った話がありましたが、3年ほどで休刊したようです。


で、何故左開きのマンガは殆ど無いかというと、メディアの形態と日本語の関係ですよね。
日本語は伝統的に縦書きで、右から左に読みます。非常に大雑把に書くと右上→左下方向に読み進めていく筈です。
当然活字メディア(新聞・雑誌・書籍等)も右開きとなりますね。
日本の初期のマンガは海外マンガ(つまり左から右に読んでいく)の大きな影響下にありますが、*1さすがにメディアの形態までは変更できない。


縦書きが日本語の基本であった以上、絶対にマンガも右から読むものでないといけなかった訳です。
仮に左開きで文字が縦書きであった場合、左上→右下方向に絵の部分を読みながら文字は右上→左下方向に読むという非常に面倒な事態に直面する訳です。逆に言えば左開きのマンガである場合、文字もまた左上→右下方向に読むものでないといけない。


日本語という言語は縦書き・横書き共にOKという(恐らくは)非常に珍しい言語ですが、特殊な例(新聞の見出しとか理科・社会の教科書、ビジネス文書とか)を除いては、やはり縦書きが優勢であったと言えるかと思います。


厳密に調べれば違うのかもしれませんが、個人的な印象では横書きに接する機会が大幅に増えたのは1990年代後半から。
つまりネット・メールの普及以降です。このブログもそうですが、横書きです。
これはプログラム言語の関係なのですかね?完全に文系の人間なのでよく判らないのですが。
とにもかくにも、「ウェブ」というメディアにおいては、圧倒的に横書きが優勢な訳です。


些か堅苦しい話が続きましたが、『火星のココロ』に戻ります。
この作品の台詞も、当然のことながら横書きです。
ウェブ上で公開されたマンガという点で考えると、非常にそのメディアに合ったかたちと言えるのかもしれません。
ただしばらくの間は右から読む形態は優勢でしょうね。左から描くとなると視線とかフキダシの位置とか構図も変わってくる筈ですし。


【参考文献】

*1:有名どころでは『イエロー・キッド』とか『タンタンの冒険』とか。