『女犯坊』がVシネマに!
4月1日です。今日から新年度ですね。
そんな新しい年度を飾るに相応しいニュースが。
ふくしま政美先生の怪作『女犯坊』がVシネマ化されるようです。
カトゆー家断絶さん、ゴルゴ31さん、痕跡症候群さんあたりをご覧になって、真偽のほどを確かめて戴ければと思います。
最も勢いがあった時期の「妖根魔陰篇」(大奥を舞台にした第二部)を中心に据えるようですね。
監督は中野貴雄さん。キャットファイト映画を数多く手掛けられておられる方なので、大奥内部での愛憎・淫欲入り乱れる女たちの闘いも見事に映像化してくれるものと期待します。
脚本は中野監督とふくしま先生が共同執筆。「7割方できあがっているが、完全主義で知られるふくしま先生も納得するまで徹底的に練り上げる。見切り発車は絶対にしない」と意欲を見せておられます。
もし『女犯坊』が映像化する場合最も難航するのはキャスティングだろうなと思っていましたが、やはり大変なようです。主役の竜水に至っては、プロ・素人問わずのオーディションで決める模様。それ以外にも大上臈や韃靼人ブーリバ等個性的過ぎるキャラクターが勢揃いですからね。「何人かの俳優にオファーは掛けているが、原作を読ませると一様に難色を示すか、戸惑うかするんだよ」とは中野監督の言。
公開時期は未定。じっくりと待つことにしましょう。
新年度(4月1日)を飾るに相応しい内容はこのあたりにしておきましょう。続きはレビューです。
【注意:ここから先は4月1日とかは特に関係ないですよ】
・・・ここまで『女犯坊』を知っていること前提で書きましたが、読んだことがない方も少なからずいるかもしれません。
この作品と作者のふくしま政美先生は、実に数奇な遍歴を重ねておられます。以下、その遍歴をかいつまんで説明すると共に、『女犯坊』のレビューっぽいものも同時に行ってみようかと思います。
『女犯坊』が初めて世に現れたのは1974年。
エロ劇画誌『漫画エロトピア』においてです。
ふくしま先生がデビューしたのは1968年のようですが、それまでの間はあまり注目されてはいなかったようです。
しかし『女犯坊』において、何かが解き放たれてしまったようなのです。
『女犯坊』の主役は、竜水という怪僧です。
あまりにも個性的な風貌で、僕の文章力では説明がしきれません。なので、インパクトの強い画像を1枚持ってきます。
(原作:滝沢解/劇画:ふくしま政美『女犯坊 第一部 怒根鉄槌篇』太田出版、72〜73ページ。)
馬を担いでいるのが竜水です。
日常生活において、「馬を担いでいる」という言葉はそうそう使うものではありません。竜水の怪僧ぶりが判ろうというものです。
竜水は「女犯道」なるものを掲げて行動しています。本人曰く、
女も抱けぬ仏がいてたまるか
仏こそが最高の性力者なのだ!!
能う限り長くたくましく女を抱け
女を舐め女にひたり聖水をほとばしらせよ!
これが極楽浄土
この修行こそが己を仏に近づける唯一の道である
これが女犯道
おれの世直しだあ!!
(前掲書、40ページ。)
その道に基づき、竜水はそれを阻むものに次々と鉄槌をくだしていくのです。
権力を笠に好色を戒める仏門の指導者とか、役人とかですね。
権力の象徴とも言える大伽藍を、文字通り力尽くで叩き潰したりも。
実際のところ竜水が好き勝手やっているように見えなくもありませんが、それは些細なことですよ。(´ω`)
そして竜水は大奥に入り込んで「世直し」を行い、明治に入ってからもそれは続きます。話の規模は拡大の一途を辿り、それに合わせるかのように竜水の体躯まで巨大化していくのです。最後に竜水は豪商・岩崎から船を貰い受け、従者の岩松と共に世界へと繰り出します。
こういうふうに書くと判りづらいのですが、この作品の見せ場のひとつは女性との交わりです。エロ劇画ですからね。
第二部(大奥)以降はグロテスクなキャラクターが登場する比率も上がるのですが、どうしてなかなか、妖艶かつ淫蕩な女性も多数登場します。蛇使いとか尼さんとか、磔になった美女とか、マニアックな描写が多いのも嬉しいところです。
そして偏執狂的な様相まで呈している、執拗な描き込み。
これはとりわけ竜水と、グロテスクなキャラクターの描写に顕著です。第二部の大上臈や韃靼人ブーリバ、第三部のモルガンお雪とかですね。ページいっぱい、時には見開きでそのキャラクターの顔ばかり描いたりもするのですよ。とにかく一度観たら忘れられないインパクトがあるので、是非ご覧戴ければと思います。
(原作:滝沢解/劇画:ふくしま政美『女犯坊 第三部 超根飛翔篇』太田出版、148〜149ページ。)
こんな感じですね。因みにこれは第三部のモルガンお雪です。ちょっと心臓に悪いですよね。
そしてこの「エロトピア」版『女犯坊』は、10年くらい前に1度復刻されています。
左から第一部〜第三部です。現在は入手が少々難しいかと思いますが、古書店とかで見つけたら即座に購入することをお薦めする次第です。
さてこの『女犯坊』で注目されたふくしま政美さんは、その後「週刊少年マガジン」で『聖マッスル』を連載したり、梶原一騎氏原作による『ローマの星』を連載したりもしますが、諸事情あって何れも長続きはしませんでした。その個性的過ぎる絵柄故にメジャー的な雑誌では受けが良くなかったり、完全主義的・偏執狂的描き込み故に作者自身が行き詰まり、連載が中断したり。
そして1981年頃、ふくしま氏はマンガ界から失踪してしまうのです。
80年代はいわゆるバブル期、マンガの世界にも少なからぬ影響が感じられます。
巧く説明できないのですが、「軽さ」とでも言いますか。それ以前においてさえ明らかに異質だったふくしま氏の絵柄・ひいては作品じたいが、殆ど顧みられなくなっていたと考えられます。
ふくしま政美先生は、この時期に完全に忘れられていてもおかしくなかった。
消え去らずに済んだのは、評論家・宇田川岳夫さんによる研究活動によるところが大きかったのではないかと思います。残念ながら僕は持っていないのですが、『人間ゾンビ』という同人誌等でふくしま作品の研究を行ったりしておられます。
その集大成とも言える記事が、『フリンジ・カルチャー』という本に収録されています。この本はふくしま作品のみならず、世の中から顧みられることのなかった数々のマンガ・音楽・芸術を取り上げています。たいへんな名著なのでご興味のある方は是非。
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そしてふくしま政美先生が再び注目されるのは、1995年頃です。
「クイック・ジャパン」に掲載された名ルポルタージュ、『消えたマンガ家』で取り上げられたのです。言うまでもなく、先述の宇田川岳夫さんも記事に多くの協力をしておられます。
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折しもバブルが崩壊し、阪神大震災や地下鉄サリン事件もあり世の中の先行きが不透明になっていました。マンガの世界においても、この世の春を謳歌していた「週刊少年ジャンプ」が凋落の兆しを見せていました。『DRAGON BALL』の連載が完結したのも1995年です。
個人的には賛同しかねますが、マンガ衰退論が出始めていた時期と言えるかと思います。それまでとは異なるマンガ表現が求められていたのかもしれません。
そんな時期に注目されたのが、それまで誰も知らなかった・或いは忘れ去っていた(かのような)過去の作品群です。貸本時代の作品とかが中心ですね。そしてその中にふくしま作品も存在したという訳です。
そして昔の作品の再評価と共に、復刻も数多く行われました。その中でも最大の業績が「QJマンガ選書」だと考えます。『女犯坊』『聖マッスル』『聖徳太子』と、とりわけふくしま先生のパワーが迸る作品群を一挙復刻したのですからね。
そしてその復刻と時期を同じくして、長らく消息の掴めなかったふくしま先生が遂に見つかります。ロフトプラスワンで「ふくしま政美復活祭」というトークイベントも開催されるのです。
その後短期連載とかをやったり、唐突に「アフタヌーン」で『超市民F』という作品が(恐らく)1回だけ掲載されたり、「ぴかれすく」というエロ劇画雑誌で『女犯坊』を連載?したりして*1、2007年に「漫画サンデー」で3度目の復活を成し遂げます。
「漫画サンデー」版『女犯坊』の舞台は現代日本です。
百八の女たちの煩悩により創り出された仏陀異(ぶったい)X、それが竜水です。その姿は、長い失踪を経てマンガ界に復活したふくしま先生の実像と重なります。
現代日本でも、嘗て幕末〜明治初期に行ったのと同じように、竜水は「世直し」を続けます。金銭欲や権力欲にまみれた政治家とかを叩き潰していく訳ですよ。
因みに岩松に替わって竜水の手伝いをするのは、空海(そらみ)という少女です。
さて内容はどうかというと、さすがに年齢的・体力的な問題でしょう、「エロトピア」の時期に比べるとさすがに絵のパワーは落ちています。・・・その時期と同じものを期待するのは些か酷過ぎる話かもしれません。ペンタッチも随分変化していますね。
とは言え、
(原作:坂本六有/劇画:ふくしま政美『女犯坊』1巻実業之日本社、146ページ・148〜149ページ。)
悪どい商売をしていた仏具店を蹴り崩す描写とかには、往年の迫力を感じさせますね。
2巻に登場する、耳なし芳一の如く全身に魔除けの呪文を書いている女王様とかもいいですね。(´ω`)
何だかんだ言って、やはり昨今の作品とは一味違うパワーがありますよ。
さてそんな「漫画サンデー」版『女犯坊』、昨年いっぱいで連載が完結したのですが、単行本未収録の話が多数あります。むしろ未収録の話のほうが多いです。
現在2巻まで出ていますが、本来5巻分くらいあるという内容の記事が、昨日発売された『オタナビ』にも書いてありました。
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マンサンコミックスは途中で単行本を出さなくなることが度々ありますが、このまま埋もれてしまうのは非常に惜しい。これまでこの作品を知らなかった方は、読んでみては如何でしょうか?
たくさん売れることによって、続刊が出るという道が拓けるかもしれませんしね。*2
さあ、書店へ急ぎましょう。
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