マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

日本マンガ学会のシンポジウムに行ってきました(第一部)


一昨日(21日)、日本マンガ学会のシンポジウム「大学でマンガ!?」が開催されました。
自分は何も研究者ではなく一介のマンガ好きに過ぎませんが、一般参加も可能とのこと。たまたまこの日は仕事が休みだったこともあり、行ってみることにしました。


今回は書くのは、そのレポートです。まずは第一部を。長文です。


注意:相当適当に書きなぐったメモと記憶を頼みに書いているので、実際の内容とはニュアンスが異なる箇所・或いは誤った認識をしている箇所が存在する可能性も少なからず存在します。あらかじめご了承ください。発言内容も正確な引用ではなく大意と考えて戴ければと。



シンポジウムの会場となったのは、中野坂上にある東京工芸大学です。
9時半少し前に会場に到着。
生憎の雨模様ながら、既にけっこうな人数が会場内におられました。もっとも学会員の方や学生さんが大半で、僕のように趣味で一人で参加というのは少数派だったような気がします。(´ω`)



入口に置いてあった、前日の研究発表のレジュメ。
かなり専門的な内容なので僕のような人間は読むだけで難儀しますが、初期コミックストリップの研究とかは興味ある内容でした。



10時にシンポジウム開始。



【第一部:実作者の立場から】


第一部は大学でマンガ実作の講義を担当している、プロのマンガ家(兼教授 or 准教授)のお話。
主に自分は大学でどのような講義を行っているかについてです。
司会・進行は評論家の呉智英さんです。


現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

呉智英さんの代表作を挙げるならやはりこれ。マンガ好きなら必読の1冊ですよ。)


最初に話をしたのは里中満智子さん(大阪芸術大学教授)。
代表作は、『アリエスの乙女たち』になるのでしょうか。・・・実は未読です。('A`)


アリエスの乙女たち(1) (中公文庫―コミック版)

アリエスの乙女たち(1) (中公文庫―コミック版)

  • 【大学でマンガの講義を受け持つことを決めた理由】:当初は文芸学科からの招聘だった。マンガの発想を他の分野(文学・美術・建築等々)で活かしてもらうことができるのでは、との思いがあった。後に「キャラクター造型学科」が設立され、そこで授業を受け持っている。
  • 【講義内容】:キャラクターのつくり方とかストーリー構成、物語の見せ方(或いは魅せ方?)について等。これらについては、講師個人の嗜好に基づいて教えている面が多々あるように思う。
  • 【専門学校と大学での、授業内容の違い】:専門学校は期間が短いこともあり、技術習得に偏らざるを得ない。大学は「基礎の物語作り(ネーム作成とか)」に時間を割くことが可能。それらを教える際には、編集者的な立場での指導を心掛けている。

続けての発言はしりあがり寿さん(神戸芸術工科大学准教授)。
やはり『弥次喜多 in DEEP』が代表作になるのかな、と。


弥次喜多 in DEEP 廉価版 (1) (ビームコミックス)

弥次喜多 in DEEP 廉価版 (1) (ビームコミックス)

  • 【講義内容】:自分が教えている大学ではマンガを「ストーリーマンガ」(長編)と「総合マンガ」(ストーリーマンガ以外。1コマもの・エッセイマンガ・アート寄り等々)に分類しており、後者を担当している。内容としては「発想の訓練・アイデアの出し方」。実際にどのようなことをするかと言うと、大喜利のように何らかのお題を出してすぐに答えてもらうということをやったり、実際にエッセイマンガを描いてもらったりということをしている。
  • 【新入生の傾向】:読んでいるマンガが偏りがちである。「ジャンプ」しか読まないという学生もいたりする。自分は「漫画原論」という講義も受け持っているが、幅広い発想を持って欲しいという意味合いで、その授業ではとにかく色々なマンガを読んでもらうようにしている。
  • 【新入生の傾向・続き】(ここで里中満智子さんから同様の意見):最初の講義で、手塚治虫先生の作品を読んだことがある人に挙手を求めると、非常にまばらで寂しい気分になることも。マンガ家を目標とするのであればやはり手塚先生の作品(引いては手塚作品に限らず、過去の名作)はある程度読んでいて欲しい。例えば『ジャングル大帝』のラスト、「○○が×××××に△△△△△△、×××××が『●●●●●●●、○○!』と言って(以下略)」という一連の場面を僅か2ページで描き切っている。この情報の密度にも一度接してみて欲しい。


ジャングル大帝レオ (秋田文庫)

ジャングル大帝レオ (秋田文庫)

(是非実際に確かめてくださいな。)

  • 【教えることの難しさ】(再びしりあがりさん):教える側もまた答えを持っている訳ではなく、「正しいアイデアはこうだ」と示せる訳でもない。そこが難しいところ。

3番目の発言は竹宮惠子さん(京都精華大学教授)。
この方があの奇蹟的名作『風と木の詩』を描かれたのか・・・と感慨深い気分になりつつ拝聴。


風と木の詩 (1) (中公文庫―コミック版)

風と木の詩 (1) (中公文庫―コミック版)

  • 【講義・演習の試行錯誤】:大学で教え始めて10年ほどになるが、講義の方法論がまったく存在しない、手探りでの状態だった。技術的な指導を学生に満遍なく行う必要があるのも難しい点。現在は1年次に技術習得の授業を行い、2年次で何らかのテーマを与えて作品を描いてもらい、3年次以降フリーで自分の描きたいものを描いてもらうような形態を取っている。
  • 【演習・技術習得としての「実用マンガ」】:演習で実際に行っているものの1つに、外部から依頼された「実用マンガ」*1を学生に描いてもらうというものがある。マンガの技術(限られたページ数でテーマを伝える等)を身に付ける教材として有効。
  • 【外部依頼の問題点・その1】:金銭的な問題は当然出てくる。学生に支払いは為されるべきかどうか。*2
  • 【外部依頼の問題点・その2】:発注を受ける側の問題点もある。描き手(学生)の側に外部発注の仕事はしたくない、自分の描きたいものを描きたいという思いも存在する。また、指導する立場の人間にも、外部の仕事はつまらないという蔑視が存在することもある。
  • 【外部依頼の問題点・その3】:受ける題材によっては、クライアントと描く側の間に温度差・齟齬が生じ、互いに不満が生じる場合もある。また受注内容によっては指導が行き渡らず、どの学生も描く内容がパターン化してしまうこともあった。どの依頼を受けるかの判断が重要で、マネジメント担当の人材・拡張が現在必要なこと。



竹熊健太郎相原コージサルまん サルでも描けるまんが教室21世紀愛蔵版』上巻159ページ。)


実用マンガの話を拝聴してまず思い出したのが『サルまん』です。
まぁこの作品は強烈なパロディ・誇張を用いている訳ですが、やはり下に見てしまう傾向は存在するのでしょう。
しかしそのような実用マンガが大学の授業で用いられるようになり、そして竹熊健太郎さんはこのシンポジウムで発言する側になっている。時代の流れというか、移り変わりを感じたりもしますね。



最後の発言は畑中純さん(東京工芸大学教授)。
『まんだら屋の良太』が有名ですね。・・・僕が持っているのは確か小池書院版で、何故か8冊しか出ていないんですよね。全巻(53巻だったかな?)を読むにはオンデマンドしかないという状況は何とかして戴きたいものです。


  • 【講義内容】:1年次では原作翻案、具体的には宮沢賢治作品を何かマンガにするという講義をしている。2年次には8〜16ページのオリジナル作品を前期・後期に各1作品、加えて(註:ここはメモを書き漏らしてしまっています)2作品、計4作品を提出してもらっている。
  • 【場の提供】:明確な方法論がないのがマンガ。そして個々人の物語構成に立ち入っていいのかという疑問も自分の中に存在する。また、技術というのは描いているうちに上達していくもの。なので自分が行うのはマンガを描く場の提供。
  • 【世の中締切です】:社会的ルールとして、締切を守るのは最低限のこと。マンガ家も同様だが、そう捉えていない人間もいる。自分の目的は、大学での4年間のうちに社会人としての自立を促すことで、そのためにも締切の番人として徹するようにしている。

この後、パネルディスカッションの時間に。
主に「締切」に関連してのお話。学生は締切を守らない傾向が強いという話から、それにどのように対応しているかという点に。

  • 里中満智子さんの場合】:締切の対処としては、それを守らなかった場合の説明を詳細に行うようにしている。印刷所をストップさせるとどのくらいの人件費が掛かるか、それに付随してどの程度周囲へ迷惑が及ぶか。金銭面の話も行う。
  • 竹宮惠子さんの場合】:本を造ることを講義の中心にするという構想を立てている。その際には競争原理を働かせる(一人あたり○ページ担当、というふうにして、描ける人数を制限する)。そして締切を設定して、間に合わなかった場合別の学生の作品に差し替えるようにする。
  • しりあがり寿さんの場合】:自分の場合、学生の「幅の狭さ」を感じているので描きたいものを描かせることを重視している。

そして質疑応答の時間に。
質問をしたのは、マンガ家兼講師*3の方。名前を出していいものか判らないのでいちおう伏せておきます。

  • 【質問】以前知り合いのマンガ家と集まって飲んだ際に「大学でマンガを教える」という話が出てきたが、「才能がある人は大学に入る前にデビューしていたり、勝手に持ち込みを行ったりもしている筈で、『大学で』という時点で既に受け身なのではないか」という意見があった。ワンステップ置いて大学でマンガを学ぶという点にメリットはあるのだろうか。
  • 竹宮惠子さんの応答】:新入生はマンガを描きたいと考えていても、必ずしも全員が明確に目標を定めて入学してきている訳ではない。その「決めきれていない箇所」を明確にする時期なのではないか。
  • しりあがり寿さんの応答】:自らの適性(ストーリー向きなのかギャグ向きなのか等)を知るには大学はいい場所だと思う。理論・セオリーも知っていて損をすることではない。
  • 里中満智子さんの応答】:学ぶことは近道をできるということでもある。一人で作業をしていて判らないことも、集団で行うと判るという場合もある。また、世の中には遅咲きの人もいれば、編集者と話すのが苦手という人もいる訳で、様々な人がいる。才能があってすぐに持ち込みに行ける人は当然そうすればいいが、そうでない人への選択肢も存在するべきだと思う。
  • 畑中純さんの応答】:同世代が多く存在する。身近な人間からの刺激を受けることができる。この点は大きい。

といったところで第一部終了です。
続きはこちらです。

*1:或いは情報マンガ、広告マンガ、宣伝マンガ、PRマンガ。

*2:つまり、演習で与えることができるのは単位であって、それに加えて金銭が発生するのは果たして・・・ということでありましょう。アルバイトの斡旋とは異なるという訳ですね。

*3:正確には近々講師になられる、だったかな?