マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

独断と偏見に基づく、漫画文庫発刊の出版社別傾向(その1)

僕はマンガを本格的に集め始めたのが比較的最近なので、年代が古い作品を買おうとする場合はどうしても復刻版や文庫に頼ることが多くなります。古書店で原本に手を出すという行為は、財政的な事情で難しいことが殆どです。


最近は新しい作品も買うようにしていますが、何年か前までは文庫作品を買う割合のほうが高かったくらいです。このブログでも時折昔の作品をネタに何か書いたりすることもありますが、それはその時期に買い集めたものを使っているという訳です。


そしていろいろと買っていると、何となくですが出版社によって文庫の出し方に違いがあるということが判ります。
という訳で今回は、その発刊の傾向についてまとめてみようかと思います。
あらかじめ書いておきますが、あくまで個人的な印象に基づくものであるということはお忘れなく。




秋田書店


漫画文庫という形態が定着したのは、個人的な印象では90年代半ばです。
70年代にも漫画文庫発刊の動きはあったものの、その時は定着しなかった模様です。今でも古書市とかに行くと『忍者武芸帳』の最初の文庫版が売っていたりして、当時の名残を窺い知ることができます。


それが90年代に定着したのは、秋田文庫によるところが大きかったのではないかと考えます。*1
ドカベン』と『BLACK JACK』の文庫版ですね。


ドカベン (5) (秋田文庫)

ドカベン (5) (秋田文庫)

Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka (1) (秋田文庫)

Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka (1) (秋田文庫)


言わずと知れた有名タイトルであり、幅広い年齢層に受け入れられる内容。
そして写真や実写調の画像を用いた、落ち着いた印象を与えるデザイン。早い話が、どこで読んでいても恥ずかしくない訳です。


・・・と、まずは持ち上げてみましたが、全体的に見て秋田書店の出し方はかなり変です。


まず、中途半端な巻数しか出さないことがあります。
がきデカ』文庫版は2巻、『マカロニほうれん荘』は3巻しか出ていません。*2


マカロニほうれん荘 (3) (秋田文庫)

マカロニほうれん荘 (3) (秋田文庫)


王家の紋章』は文庫版が定期的にに出たり2年くらい出なかったりと、妙な出し方をしています。連載に追いつかないようにする措置かとは思いますが・・・。


王家の紋章 16 (秋田文庫 17-16)

王家の紋章 16 (秋田文庫 17-16)


サイボーグ009』に至っては収録順がバラバラです。本編(「誕生編」〜「地下帝国ヨミ編」)は文庫版だと5〜10巻に収録されているという事態が発生しています。絵柄が当時とはかなり異なってしまっているので最初の巻には現在*3の絵柄に近い「エッダ編」とか「海底ピラミッド編」を収録した、という話が何かに書かれていましたが、途中で絵柄が昔のものに戻ってしまうのもどうなのかと思ったりします。


サイボーグ009 (5) (秋田文庫)

サイボーグ009 (5) (秋田文庫)


他にも、後述しますがほんらいは秋田文庫で発刊されて然るべき作品が別出版社から出たりすることもあり、何だかよく判らない、場当たり的な出し方をしている印象を受けるのが秋田書店の特徴です。



小学館講談社集英社


漫画文庫が波に乗ってきたことを受けて、マンガ出版大手の3社も本格的に文庫版を出し始めます(しつこいようですが、これもあくまで個人的な印象)。
私見では、1997〜2002年頃でしょうか。その時期は、毎月のように名作が矢継早に文庫化されて、買う側としてもたいへんな恩恵を被ったと感じています。


BASARA (1) (小学館文庫)

BASARA (1) (小学館文庫)


『BASARA』とか、毎月発売日を心待ちにしていたものです。


ただ、名作の数というのは限られています。
今になって考えてみると、明らかにオーバーペースで出していたと思います。弾切れを起こしてしまうのです。


そして何故かは判りませんが、それでも刊行数を落とそうとは考えないようなのです。


結果、2003年頃から「悪いとは言わないが、果たしてこれは・・・」と思うようなラインナップが徐々に増えていった感があります。そして不可解なことに、連載中の作品まで文庫化しはじめます。嚆矢を切ったのは『蒼天航路』あたりでしょうか?


蒼天航路(1) (講談社漫画文庫)

蒼天航路(1) (講談社漫画文庫)

(2000年の時点で文庫になっていますね。)


他にも、『ゴッドハンド輝』とかそうですね。そしてこの作品は果たして文庫に(以下略)



小学館だと、『ギャラリーフェイク』とかがそうですね。


ギャラリーフェイク (Number.001) (小学館文庫)

ギャラリーフェイク (Number.001) (小学館文庫)

(刊行は2002年11月の模様。)


集英社は連載中の作品の文庫化はあまりしていないです。『こち亀』はかなり例外的に捉える必要がありそうです。
あと集英社は、最近は完全版のほうに力を入れていますね。ただ文庫のほうでも先月遂に『究極 !! 変態仮面』が出たりしているので侮れません。




もう少し細かく特徴を挙げてみます。
まず講談社漫画文庫ですが、新装版を頻繁に出します。
これは先程触れた弾切れも関係しているでしょうし、以前の講談社漫画文庫は装丁・背表紙が地味だったことも影響しているかと思います。特に背表紙は作品ごとに色の違いがあるだけで、フォーマットが全て同じだったのですよね。*4


ただ文庫を集め始めた最中に新装版の刊行が開始されると、暗澹たる気分になります。
おかげで僕は『夏子の酒』を途中までしか読んでいません。('A`)


新装版 夏子の酒(1) (講談社漫画文庫)

新装版 夏子の酒(1) (講談社漫画文庫)


そして小学館文庫の傾向としては、解説が独特過ぎたりします。
文庫の特徴として、巻末解説が入るというものがあります。*5その場合それを書くのは評論家の方だったり同業他者(作者さんに縁のある人)だったりする場合が多いのですが、小学館文庫の場合、関係あるのかよく判らないミュージシャンとかだったりすることが度々あるのですよ。


六三四の剣 (1) (小学館文庫)

六三四の剣 (1) (小学館文庫)


自分が持っているもので例を挙げると、『六三四の剣』文庫版1巻の解説(?)はK-1の武蔵です。
名前(しかも読みだけ)が同じということで抜擢されたのでしょうが、肝心の作品については「嵐子なつかしー」くらいで、あとはK-1の話とか始めたりする訳ですよ。
「おじさんが読みたいのはそういう文章じゃないんだよなぁ」とか思ったりするのですが、どういう意図があるのか少々図りかねます。



白泉社


大手3社は名作を大量投入し過ぎて息切れを起こした感が強いですが、それに比べると白泉社は「漫画文庫」を非常に大事に扱っている印象が強いです。
元々白泉社文庫は3ヶ月に1回の刊行です。ペースがゆっくりしています。そして刊行数も抑えています。


尚且つ装丁にも注目です。
白泉社と言えば「花とゆめコミックス」ですが、*6花ゆめは非常に制約が強い。白抜きが入った赤文字極太ゴシック体で書かれる表紙タイトル、必ず背景には何らかのかたちで正方形の枠が描かれている、等々。その制約下で試行錯誤された表紙を観るのも楽しかったりしますが、文庫だとその制約から解放されています。


天使禁猟区 (第1巻) (白泉社文庫)

天使禁猟区 (第1巻) (白泉社文庫)


天使禁猟区』の美麗なタッチには、やはり明朝体のほうが似合うなとか考えてみたり。



本来はある同人誌の感想を書くための前フリ的な記事のつもりでしたが、予想外に長くなってしまいました。
大手出版社を書いたところで一区切りして、次の記事でそれ以外のところに移ります。

*1:実際にはそれに出版不況の影響だとか複雑に絡んでくる筈ですが、そこらへんは誰か別の方にお任せします。

*2:チャンピオンコミックス版だと前者は全26巻、後者は確か全9巻。

*3:発刊当時、石ノ森章太郎さんは存命でした。

*4:個人的には旧装丁も統一感があって嫌いではないのですが・・・。

*5:当然入らないものもありますが。

*6:花ゆめ以外の作品も幾つか文庫にはなっていますが、割合的に少ないので割愛させて戴きます。