マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

とある凄絶な運命の物語(閲覧要注意)

今回は、とあるマンガの感想です。
18禁です。尚且つかなり濃いめの内容かと思います。
先に進む際は充分にお気を付け下さい。




今回取り上げる作品は、『このマンガがすごい!2009』においてオトコ編36位にランクインしています。
同じ順位には、『少女ファイト』や『ヒャッコ』とかも入っていますね。


その作品のタイトルは『外道の家』。


この時点で何か感づいた方は、引き返すのもひとつの選択肢かと思います。
この作品は、「月刊バディ」という雑誌に連載されていました。


判る方は判ったかと思います。
作者は田亀源五郎先生です。


ある程度マンガを読んでいる方、もしくは2ch をよく見ている方ならピンときたかもしれませんね。
チラシの裏にでも書いてろ、と思った方は引き返すのが得策やもしれません。


それでは、表紙を公開します。
心して閲覧してください。




『外道の家』全3巻です。
お判りかと思いますが、分類としてはBLということになるのでしょうか?・・・いやそのような表現は生ぬるいですね。ガチガチのハードゲイマンガです。「月刊バディ」もその傾向の雑誌ということになります。


しかしながらこの作品、単にその嗜好を持つ方のみに訴える作品では決してありません。
描写は拒絶を示す方も少なからずおられるでしょうが、純粋に物語として優れたものであると思います。以下、物語の概略をかいつまんで紹介します。



物語は昭和24年5月に始まります。
舞台となるのは地方の農村、そこの大地主である堀川家です。
当主・堀川惣右衛門の一人娘・萩乃の元へ婿が迎えられます。それがこの物語の主役となる寅蔵です。



田亀源五郎『外道の家』上巻9ページ。)


祝言の場において、自らも戸惑いを隠しきれない寅蔵の姿が描かれています。
寅蔵は戦時中にアメリカの捕虜となり復員してきた過去があり、その為に村の人間からも冷ややかな目で見られています。そのような境遇にある寅蔵と大地主の娘である萩乃との婚姻は、誰から見ても不釣り合いなものとして映るという訳です。


余談ながら、田亀源五郎先生の描く男性の特徴として、筋骨隆々なのは無論のこと、髭の濃い人物も多いです。最新作のタイトルはそのものズバリ『髭と肉体』です。


髭と肉体 (オークラコミックス) (アクアコミックス)

髭と肉体 (オークラコミックス) (アクアコミックス)


話を戻しまして。
そのような不釣り合いに見える縁組を進めたのは、他ならぬ堀川惣右衛門その人です。



田亀源五郎『外道の家』上巻9ページ。)


左のコマに描かれているのが堀川惣右衛門。
何やら含み笑いをしているのが見て取れますね。


そして祝言が終わり、寅蔵と萩乃は初夜を迎えることになります。大地主の娘であり、村でも屈指の器量を持つ萩乃と夫婦になれた寅蔵は、うまく話をすることができずに気まずさを覚えつつも、喜びを感じています。いっぽうで萩乃のほうは、何か醒めきった、冷淡な態度を崩しません。それでいながらも粛々と夜の準備を始める萩乃。二人は身体を重ねます。



そして此処から、寅蔵の地獄が始まる。


契りを交わした直後の閨に、惣右衛門と使用人が入り込んでくる。
褥の検分を行い、寅蔵に子を孕ませる能力があるかを確かめる。そして・・・。



田亀源五郎『外道の家』上巻24ページ。)


使用人たちの手により、緊縛される寅蔵。
そして明かされたのは、寅蔵は萩乃の子を宿すために婿に入れられたこと、そして寅蔵は惣右衛門の所有物・玩具として扱われるということ、それらのことを萩乃は承知しており寅蔵に対しては何の感情も抱いてはいないということ。
その後何をされたかについては、各々ご想像戴くか実際に確認して戴ければと。いちおう付け加えておきますと、上の写真は可能な限り緩い描写を選んでいます。


その後の展開はまさしく凄絶の一語。
惣右衛門に、使用人たちに、更には惣右衛門の母親に、果てることなく陵辱され続けます。あらゆる希望が握り潰され、人間の尊厳が奪われていく様子が執拗に描かれていきます。
その凄惨且つ淫欲に満ち溢れた物語は、寅蔵の子供の世代に至るまで続いていくのです。


そして堀川家にまつわる複雑怪奇な人間模様も詳細に描かれます。
萩乃と使用人・英雄との恋愛、大刀自(惣右衛門の母親)の孤独と狂気、そして明らかになる堀川家のある呪われた秘密。それは「外道の家」という、この作品のタイトルを示すものでもあります。そしてその「呪い」とでも言うべきものが再び繰り返されるのではないか、という解釈も成り立つ構成になっている。


『外道の家』は手塚治虫奇子』を意識したものだそうです。*1また、横溝正史作品(金田一耕助もの)の世界観にも近く感じます。この作品で描かれたような出来事が、或いはそれに近いようなことが、もしかすると
あったのかもしれない・・・。そんな感覚を、戦後間もない時期の旧家という舞台設定は作り出している。それがこの作品に、より強い生々しさをもたらしているようにも感じます。


情欲と陵辱が渦巻く、閉鎖された空間。そこであらゆるものを奪われ続ける寅蔵の運命はどこへ辿り着くのか。是非とも見届けて欲しい。
かなりの割合の人が拒絶するであろう描写が多いことは理解しています。しかしそれでも読み進めて欲しい作品です。



【付記】

『外道の家』単行本は「月刊バディ」増刊、つまり分類上は雑誌扱となっています。その為入手が普通の単行本に比べて難しいです。都心部なら中野ブロードウェイにあるタコシェで取り扱っている筈です。あとは専門サイトとかでも手に入るようです。

*1:『外道の家』下巻264ページ解説参照。