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平野耕太『ドリフターズ』の、異世界の文字を解読する

平野耕太さんの新作『ドリフターズ』1巻が先日発売されました。


ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)


簡単な感想は既に書きましたので、そちらを参照して戴ければと思います。


今回書くのは、異世界ものに必ず付いて回る問題に関してのものです。
早い話が、異世界の言葉についてですね。


この作品は、歴史上にその名を残す英雄・豪傑といった人々が次から次へと、異世界の同じ時代に送られます。つまり1箇所に英雄たちが集結するという訳です。
そのような数多く存在する英雄のうち、『ドリフターズ』の主役となるのは戦国時代末期の武将・島津豊久です。そして豊久が異世界に送られ、そこの住民に発見される場面がこちらになります。



平野耕太ドリフターズ』1巻30ページ。)


彼らはいわゆるエルフの兄弟ですが、彼らの台詞の下に何か妙な線が走っているのがお判りかと思います。これはつまり異世界の言葉(文字)ということです。
作中では、この「異世界の文字」が会話で随所に現れます。


さて、別の箇所を取り上げてみましょう。



(同書34ページ。)


大怪我をしている豊久を、エルフの兄弟が「廃城」へ運んでくる場面です。
「廃城」には、豊久と同じくこちらの世界に漂流してきた人物が住み着いています。
このコマでも、異世界文字が使われていますね。
そしてこの文字、よく視ると日本語を極端に変形させた文字であることが判ります。*1


上のコマだと、次のようになりますね。
(以下、台詞を引用する際は普通の台詞をゴシック体で、異世界の文字は太字で表記します。)

はあ はあ
はあはあ


なんて
重いんだ
なんて おもいんだ


そしてよく読み込んでみると、この異世界の文字が、上にある台詞を単純に置き換えたものではないことも判ります。台詞の省略や語順の入れ替えが存在するのです。異世界独自の文法みたいなものが存在するのかもしれませんね。
幾つか例を挙げてみましょう。



(同書34ページ。)


先程挙げたコマの、左側になります。
解読するとこのようになります。

はやく
しないと
はやく しないと


領主様に
見つかったら
とんでもない事に
領主様に見つかる


先程挙げた、「省略」の例ですね。
英語の台詞を日本語字幕に翻訳したような感じ、と言えるかも。
続けてはこちら。



(同書85ページ。)


この異世界において、エルフやドワーフといった亜人デミヒューマン)は人間との争いに敗れ、苦役を強いられています。そして「漂流物」は人間の魔術師で構成された「十月機関」が管理することになっており、亜人が接触することは禁じられているのです。
エルフの兄弟が豊久を助けたことを知った人間たちは、(半ばそれを口実として)エルフの村に侵略を始めます。
そして森の中に逃げた兄弟に迫る追っ手を、豊久が迎え撃っている場面が今挙げたコマになります。追っ手の騎士の台詞にも、やはり異世界の言葉が添えられています。そしてこの文字は2〜3行に分けて記されている。以下のように書かれています。

な・・・何だ
おまえら・・・ッ!!
なんだ
おまえらッ!!


廃城の・・・ッ
漂流者か・・・ッ!
はいじろの
ドリフターズ
か・・・ッ!!


もうひとつ。
村を侵略した代官付騎士武官・アラムとエルフとのやりとりの場面です。



(同書97ページ。)


台詞はこんな感じです。

早晩お前たち
エルフも
ドワーフ
ホビット
そうばん
おまえたちエルフは!


亜人たちは
種族として
絶滅する
デみはしゅぞくと
して


複数行と省略の組み合わせといったところでしょうか。
最後にひとつ、語順の入れ替えにも触れておきましょう。アラムとエルフのやりとりの続きです。アラムの冷酷さが際立つ場面となっています。



(同書98ページ。)


台詞は以下のとおり。

間引きだ
まびきだ


何人が
いい?
はんぶんまで
へらしていい


半分まで
減らして
いいと
言われている
なんにんがいい?


2番目と3番目の台詞が入れ替わっているのが判ります。
3つ目に引用した、34ページ左側の台詞も併せて考えると、異世界では倒置的な表現をあまり用いないのでは、という推測を立てることもできそうです。



と、とりあえずはこのあたりにしておきましょうか。
実を言うと、まだ完全には読み取れていない箇所も幾つかあります。
とりわけエルフの兄弟の初登場時、30〜31ページと32ページの一部に至っては、辛うじてアルファベットに近いものが判読できるものの、現時点ではまったく解読できていません。
これに関しては今後の課題といったところです(誰か代わりにやって戴けるとありがたいです)。


ということで、本日はこのあたりにて。

*1:自分は単行本で読んで気付いたのですが、雑誌で読んでいる方とかにとっては周知の事実かもしれません。