水星さん家の管理人水星さん(id:mercury-c)が、9月6日は黒髪ロングの日とのことで企画を立てています。
そんな訳で自分もそれに乗っかってみようと思います。
それにしても、考えてみれば不思議な話です。黒髪ロングが素晴らしいのは自明のことの筈です。いやこれは個人的な嗜好も含まれているかもしれませんが、ほんらい黒髪が圧倒的多数を占める筈のこの日本という国において、何故明確な主張として「黒髪は素晴らしいのだ!」と声に出す必要に迫られているのか。
それには、戦後マンガの歴史ならびに「マンガ」という媒体が持つ性質が関わってくるのではないかと推測する次第です。以下、この点についていろいろと書き連ねてみます。
尚、検証とかは行わずにかなり思い付きで書いているので、その点あらかじめご了承くださいな。酔っ払いの戯言程度に考えて戴ければと。
さて、まずは「マンガという媒体が持つ性質」についてですが、これは言うまでもなくモノクロ中心で描かれる、つまり白と黒(ならびに中間色)で表現される媒体だということです。
そして中間色というのはスクリーントーンやカケアミ線を用いて表現される訳ですが、少なくともスクリーントーンは戦後間もない時期とかには使われていません。確か効果的に用い始めたのは宮谷一彦氏であったかと思いますので、60年代半ばあたりまで殆ど使われることは無かった筈です。つまり髪の色の表現は白か黒であったと言えましょう。
また、戦後間もない時期というのは、当然のことながら貧しいです。
その時期の少女マンガとかで中心となるのは、貧乏にも負けずにけなげに生きる少女の話か、異国やファンタジー的世界を舞台にした絢爛豪華な話が多い割合を占めている。後者では、高橋真琴さんや水野英子さんの作品が典型と言えましょうか。
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そして異国(主にヨーロッパ)を舞台とした場合、主役・ヒロインとかの髪の色は、やはりブロンドとかになる可能性が高い。その場合、髪は白く描かれます。
更に言えば、日本という国は明治維新以降から現在に至るまで、西欧に対しての抜き難い憧れを持っているように感じられます。とりわけ国全体が貧乏だった頃はその感情は強いのではないか。外国は裕福さ・華やかさの象徴でもあったと思われます。
そしてそれは、髪の色とも無関係ではないのでは、と考える次第です。
日本人であっても金持ちの場合はブロンドの巻き髪(?)だったりもしますし、高度経済成長を経た70年代頃には、学園を舞台にしたごく一般的(中流)家庭のヒロインも髪の色が白く描かれていたりする訳です。
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髪の毛を黒く描かないという描写がごく当り前のものとなる。更にはスクリーントーンの普及で白でも黒でもない髪の色を描写できるようにもなります。
このような変化を経て、マンガを読む際の「髪の色」を別段奇異なものと捉えなくなる傾向が強まっていったのではないかと思う訳です。
アニメの影響も強いかもしれません。
とりわけ80年代以降、美少女アニメが多く作られるようになってからでしょうか。ヒロインの髪の色は、他のキャラクターと一線を画すために大いに役立つ筈です。リン・ミンメイや綾波レイは青です。ラムちゃんは緑です。世間ではそうそう見掛けません。様々な髪の色が、キャラクターを特徴付ける要素として登場してくる。
現実のほうでも、正確な年代はよく判りませんが90年代始め頃には髪を染めることが当り前のような傾向が出てくる。
ほんらい圧倒的多数を占める筈の黒髪が、数ある髪の色のひとつになってしまっている。
黒髪じたいの占める割合が、確実に減ってきている訳です。由々しき事態です。
更に言えば、純粋な黒髪率は更に下がります。これはどういうことかと言うと、これまたマンガの制約故ですね。
丁度昨日取り上げた、『迷い猫オーバーラン!』を例にしてみましょう。
(矢吹健太朗『迷い猫オーバーラン!』2巻22ページ。)
上の画像が都筑乙女、下の画像が竹馬園夏帆になります。
どちらも見事な黒髪ロングに見えますが、実は片方は違うのですな。
どういうことか、それは原作の表紙を見て戴くと判ります。
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実は乙女の髪の色は、濃い青なんですね。
それがマンガだと黒く表象されてしまうと。このような事例は他にも少なからず存在するでしょう。
『迷い猫』には少なからず美少女キャラクターが登場する訳ですが、純粋な黒髪ロングとなると恐らく夏帆只一人。黒髪ロングとは実に稀少な存在となってしまった訳です。*1
故に我々は、声を大にして主張せねばならない訳です。
「黒髪ロングは素晴らしいものなのだ!」と。
でもやはり乙女も悪くないなぁ・・・。