マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

より深くマンガを知ることができる(かもしれない)、マンガ評論セレクション

タイトルどおりの内容です。
いちおうルールとして、自分で所有しているものに限定します。そのため相当に重要な評論本とかであっても抜け落ちている場合が少なからずありますのでご了承ください。



【歴史】

戦後少女マンガ史 (ちくま文庫)

戦後少女マンガ史 (ちくま文庫)

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

戦後ギャグマンガ史 (ちくま文庫)

戦後ギャグマンガ史 (ちくま文庫)

戦後から1980年頃*1までの、少女マンガ・SFマンガ・ギャグマンガの歴史を詳細に辿っています。その膨大な情報量*2には圧倒されるのみ。これほどまでに詳細な内容を、まだ二十代の頃に書き上げていたということが信じ難いです。
文庫化にあたり、各種データや記憶違いの箇所に訂正が施され、より正確なものとなっています。


現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

マンガ前史(大正時代あたり〜1945年まで)から1990年頃までのマンガの歴史を、当時の社会風潮・マンガにおける潮流を踏まえつつ、代表的な作品が網羅されています。マンガの歴史のお手本と言えるくらいの内容だと思います。言語学的な側面からアプローチを図ったマンガ理論も実に面白い。個別の作家論も充実しています。


漫画大博物館―1924-1959

漫画大博物館―1924-1959

近代漫画の誕生から「サンデー」「マガジン」が創刊された1959年までを、実に豊富な図版を用いながら*3解説しています。図版を眺めているだけでも充分に愉しめる、まさしく博物館的な内容となっています。小松崎茂大城のぼる・豊田亀市*4内田勝といった錚々たる面々のインタビューも収録されています。


貸本マンガRETURNS

貸本マンガRETURNS

戦後のごく短い時期に隆盛を誇った、そして後のマンガに大きな影響を残しつつ消えていった「貸本マンガ」の歴史を丹念に辿った労作。貸本で扱われた代表的なジャンル(時代劇・ハードボイルドもの・少女もの・怪奇・青春もの)を核に据えつつ、それらのジャンル(ならびに貸本そのもの)がどのような変遷を経て衰退へと向かっていったかが書かれています。図版も多数収録されているのみならず、巻末の資料も精緻を極めています。「貸本マンガがどう読まれたか」といった記述(だったかな?)について著者の一人と夏目房之介さんが論争をしていた気もしますが、どちらが正しいとかはちょっと判りません。


あの頃マンガは思春期だった (ちくま文庫)

あの頃マンガは思春期だった (ちくま文庫)

夏目房之介さんの個人史でありながら、1960年代〜80年頃までの「マンガの思春期」の歴史にもなっています。マンガを読むという経験が、そのまま著者の体験と結びつき、自らの血肉となっていく様子も窺える、稀有な記録となっています。あまりに奇麗に結びついているのでフィクションではないかと一瞬疑ってしまうほどです。名著だと思います。


戦後マンガ50年史 (ちくまライブラリー)

戦後マンガ50年史 (ちくまライブラリー)

差別・発禁・規制といった問題を核に据えて、戦後マンガの歴史を捉えた著作です。実に様々な、現代の視点から考えると果てしなく不可解かつ理不尽な(恐らく当時としては少なからず清廉潔白な)扱いをマンガは受けてきたのだということが判ります。非実在青少年なる珍妙な概念が考案された現在にこそ、読まれるべき本なのかもしれません。


戦後エロマンガ史

戦後エロマンガ史

エロマンガの初の通史にして、恐らくは決定版。カストリ雑誌から大人漫画、青年劇画〜エロ劇画、そしてロリコンマンガ雑誌、美少女系コミックへという流れを、これまた「戦後マンガ史三部作」と同様圧倒的なまでの情報量で描き上げていきます。貴重な図版も多数収録。そして図版を眺めていくと、如何に「レモンピープル」がエロマンガにとって大きな分水嶺となったのかも判りますね。





【理論】

マンガの読み方 (別冊宝島EX)

マンガの読み方 (別冊宝島EX)

この本の登場により、マンガ評論の主流は表現論になりました。まさしく革命的な一冊。線・形喩・主体と客体・コマと間白といった「マンガを成立させる要素」の精緻な分析は圧巻です。別冊宝島という媒体故か、或いは著作権とかの絡みなのか、絶版となっているのが惜しまれます。古本屋で見掛けたら迷わず購入することをお薦めします。またこの作品、分析をするにあたり膨大な数の図版を引用しており、名作の見本市の如き様相も呈しています。この図版を観て気になった作品を集めてみる、という使い方*5もできます。


マンガによるマンガ評論では恐らく最も有名な作品。基本的にギャグ・パロディで描かれていますが、各所で展開されるマンガの分析は非常に鋭いです。レディースコミックの分析とか、笑いつつも目から鱗が落ちるような思いがしたものです。


マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

アメリカ人作者が描いた、マンガによるマンガ評論です。マンガの定義から始まり、マンガの歴史、リアリティー(具象性)・言語(意味性)・図形(抽象性)の3点から成り立つ三角形によるマンガの構造分析、「仮面効果」という概念、コマの意味、マンガにおける時間と空間の描かれ方等、実に多岐に渡る内容が饒舌かつ強い説得力をもって語られていきます。改めて読み返してみて、近代マンガの祖がルドルフ・テプフェール*6とはっきり言明している点にも驚かされました。マーヴルコミックス以外のアメコミ(いわゆるオルタナティヴ・コミック)への言及も多数あり、ガイド的な読み方もできるかと。


テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ

テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ

1980年代後半〜2000年代前半に至るまで頻繁に用いられた「マンガ衰退論」が、実のところ評論が80年代後半以降のマンガ表現の変化に対応しきれていない結果と捉え、従来のマンガ評論を批判的に検討しつつ、「キャラ」という概念や作者・読者の立ち位置も踏まえた、独自のマンガ構造モデルを構築しています。『マンガの読み方』で提示された構造モデルを更に押し進めたものとなっています。ただ、自分にとっては少々議論が高度だったため、かなり読むのに難儀したうえに理解が不充分という結果になってしまっています。('A`)
「キャラ」の分析に関するイラストを、高遠るいさんが描いていたりもします。




こちらの画像はリクィド・ファイアより借用)

ピアノ・ファイアの管理人いずみのさんによる同人誌です。
マンガをまずは「物」として捉えることから始め、視線のベクトルやアングルという視座を読み手に提供します。マンガを平面ではなく立体で捉えたマンガ論は(少なくとも自分は)初めて読むものだったので、たいへん新鮮かつ刺激的でした。また、「主観ショット」や「プライヴェート視点」を始めとする視点の分析も実に面白いです。題材として取り上げる作品が、個人の嗜好が出ているのかちょっと独特です。




・・・と、随分長くなったのでこのあたりにしておきます。
他にも面白いマンガ評論は幾つもあるのですが、それはまた別の機会にということで。

*1:三部作が最初に出版されたのは1980〜81年にかけて。

*2:聞いたことも無いような作品が次から次へと出てきます。

*3:いわゆる稀覯本といった類の書籍も多数収録されていますが、その殆どが松本零士さんのコレクションとのこと。

*4:「サンデー」初代編集長。

*5:実際この本がなかったら、自分は川原由美子さんの作品を読んでいなかったかもしれません。

*6:翻訳では「テファー」と表記されています。