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植木職人は空間を超越する:井上紀良『華と修羅』第二十九話レビュー

昨年のクリスマスに、とあるプレゼントを戴きました。



水星さん家管理人・水星さん(id:mercury-c)からの贈り物、それは『華と修羅』レビューバトンです。
実に忙しい時期に何とも困った話大変光栄なことですので、謹んでお受けした次第。ちょっと仕事でドタバタとしてレビューが少し遅くなった点についてはご容赦願います。



まさか年末の賞与で購入した scansnap で最初に取り込むのが『華と修羅』になろうとは予想しておりませんでしたよ。('A`)
それはそれとして、早速感想?を書き連ねてみたいと思います。



【先週までのごく大雑把なあらすじ】


侯爵家の三男(嫡子)である唐房慎太郎は、現侯爵・毅の後継争いに巻き込まれることに。権力を掴むために手段を選ばぬ冷酷な長男・新や昂りが鎮まらないほっこり兄さん次男)とは考えを異に、優しい心を持つ慎太郎は、毅を始めとする周囲の密かな期待を背に、時期当主となるための修羅の道を選びます。


そして新の策謀も乗り越えて、密かに想い合っていた貴島百合子と遂に結ばれた慎太郎でありましたが、ほっこり兄さんの火の不始末による火事が発生し、それに巻き込まれる形で百合子は落命。全てを失い崩れ落ちる慎太郎。第一部完!



【そして、第二部開始】


そしてその火事から半年。
世間では景気が悪くなり、急激な物価高が進行します。全国各地で暴動も発生し、動乱の時代へと雪崩れ込んでいきます。
しかしそのような情勢とはまるで無関係に、貴族の世界は常に絢爛豪華。
唐房家では、恒例行事となっている観桜会の準備に追われています。


次期当主への地盤を着々と固めつつある長男・新。
そして「日本を牛耳る最強の閨閥を目指す」という新の権力への執着を知り、それを暴こうと唐房家への取材を続ける集英新聞の記者。
彼らの姿が描かれると共に、半年前の火事以来慎太郎が行方知れずになっていることが、記者の口から語られます。果たして慎太郎は何処へ行ったのか?そしてほっこり兄さんについて、この回で語られることはない。


場面は替わり、唐房家近辺と思われる市場。
不況の煽りを受け閑散としています。そこで働く人足も仕事じたいがなく手持ち無沙汰。閉塞感が市場全体に漂っている。そしてそこにフラリと現れた浮浪者風の、薄汚れた身なりの男。
彼の側を、観桜会のために用意された食べ物を満載した荷車が通ります。
その荷車からこぼれ落ちたのは一房のバナナ。当時、バナナは高級品です。荷車から落ちたバナナを拾った市場の班長の息子・勇は、唐房家の使用人に盗んだと思い込まれ、激しく罵倒されます。立場上唐房家に逆らえず、穏便に済ませようとする班長。泥棒呼ばわりされたことに納得がいかない勇。
そんなやりとりが行われているとき、先程の浮浪者風の男が、勇の持っていたバナナを取り上げ、勝手に食べてしまいます。逆上する使用人たち。浮浪者は殴り飛ばされ、散々なまでに足蹴にされます。そして謝罪しつつバナナを返す男と、それを奪い取り去っていく使用人たち。
そんな中、班長は浮浪者風の男の行為が、班長と勇を助けるための行為であったことに勘付きます。そして班長は、彼の声に聴き憶えがあった。彼の正体を確信した班長は、このように声を掛けます。

まったく...名乗れば
殴られはしなかったろうに


まあ お前は連中とは違うか
唐房の名を安く使う奴じゃあない


(「ヤングジャンプ」2011年2月3日号287ページ。)


そして目が隠れるほどまで伸びていた髪の毛をたくし上げたその時、彼の正体が明らかになる。



(同号288ページ。)


そう、班長と勇を庇った彼こそが、行方知れずになってきた唐房家三男・慎太郎その人であったのだ!
というところで、次週への引きとなります。


さて、この号から第二部がスタート。新章の始めは、唐房家ならびに周囲を取り巻く状況・世相の説明が中心となります。手堅い始め方と言えると思います。そして長々とした説明になってしまうような箇所を新聞記者の質問と受け答えで描写するという手法も、オーソドックスでありながら効果的です。
次週以降、慎太郎の修羅の道は大きく動き始めると思われます。まだ謎の箇所、慎太郎はこの半年間何をしていたのか・浮浪者の如き全身薄汚れた姿で髪や髭も伸ばし放題でありながら何故顔の上半分だけやたらと奇麗で眉毛も整っているのか・ほっこり兄さんは?といった事柄も今後明らかになっていくことでありましょう。



【注目のコマ】



(同号272〜273ページ。)


第二十九話の扉絵となるページ。
唐房家が開催している観桜会の準備が見開きによって描かれている。広大な庭園に舞台を設置し、舞踊や演奏の練習に余念がない芸妓さんたちの姿、来賓用の長椅子を設置する使用人、木の手入れをする職人たちの姿が描かれ、不況に覆われている世間とはまるで隔絶した、どこまでも絢爛たる貴族の暮らし振りを示すコマとなっている。


ここで注目すべきなのは、植木職人である。
273ページ(右ページ)の左側にいる植木職人(と思われる人物)に注目してもらいたい。脚立に上り、木の手入れをしているように見える。
しかし、彼の周囲には何もないのである。最も近くにある桜の木からも数メートルは離れていると思われ、彼が何故そこに脚立を置き、上っているのかがまったくもって謎なのである。



【個人的にツボだった1コマ】



(同号284ページ。)


勝手にバナナを食べてしまった慎太郎に、逆上した唐房家使用人が殴り掛かる場面であるが、「バナナ!バナナ!」と叫びながら殴り付ける様子が実に美しく、生きているうちに1度くらいは実践してみたいと思わせるに充分であった。



【本心】



(同号28ページ。)


嗚呼、何たる美しさ。
華麗なる食卓』に登場する、メイド喫茶に勤めるヘキルちゃん。
高円寺マキトのエディブルファイト2回戦進出のお祝いとして「コスプレ衣装を選んでもらう」というご褒美を提供。マキトが選んだのは白スクール水着。その撮影をしている最中、テーブルに置いてあった水差しが倒れてヘキルちゃんの身体に掛かり、水着が透けてしまうのです。そのことに気付いた場面になります。


白い服は時に全裸よりもエロスを醸し出すのだという持論を持つ当方にとって、言うまでもなく白スク水は正義に他ならず、故に今週の「ヤングジャンプ」で最も語るべき作品はこれに相違なく、何故俺は必死に『華と修羅』を読んでいるのかを考えると頭を抱えたくなるので努めて気付かないふりをしていた、とここに告白しておきます。



というわけで、今週号の『華と修羅』レビューは締めとさせて戴きます。
次号のレビューですが、『進撃の巨人』考察で飛ぶ鳥を落とす勢いの、無駄話管理人・トルド13(id:toldo13)さんにお願いしたいと思います。