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傑作ミステリーの誕生。石黒正数『外天楼』

昨日、石黒正数さんの新刊『外天楼』が発売されました。


外天楼 (KCデラックス)

外天楼 (KCデラックス)


講談社からは初コミックスとなるでしょうか。
恥ずかしながら、この作品じたいの存在をつい先頃まで知りませんでした。掲載誌は「メフィスト」。確かミステリーの専門誌でしたか。

※22日14時追記:「ファウスト」と「メフィスト」を混同した勘違い記述をしていたので、修正させて戴きました。大変失礼致しました。


※25日18時追記:「メフィスト」と書いたつもりが「ファウスト」と書いていたので改めて修正。頭が悪くて申し訳ないです。


結果として殆ど事前情報なしに読むことになった訳ですが、これがまた見事という他ないほどの名作でありました。少なくとも自分にはそう感じられた。
という訳で、今からなるべくネタバレを避けつつ、この作品の感想を書いてみようかと思います。


この作品は、最初は一話完結型で始まります。
何らかの事件が発生し、その謎を登場人物が解明していくというのが大筋です。所謂ミステリー仕立てとなっている訳です。石黒正数さんの代表作『それでも町は廻っている』においても時折同様のプロットがありますね。アニメ版でも収録された、「自画像に目が4つある話」とか。


それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)

(該当エピソードは1巻に収録された「目」。)




石黒正数『外天楼』17ページ。)


第1話「リサイクル」。エロ本を入手することに情熱を傾ける少年3人組の涙ぐましいまでの奮闘が描かれます。そしてゴミ捨て場でエロ本を入手したものの、とある謎を提示されてそれを解くためにエロ本を調べている場面になります。




(同書34ページ。)


第2話「宇宙刑事 vs. ディテクト」。特撮作品を題材に、無闇に生活感溢れるかたちでパロディにする手法は、他の短編集でも描かれていましたね。上のコマで登場している秘密結社悪魔騎士団(デーモンナイツ)参謀・ミルダは、読切作品「デーモンナイツ」にも登場していますね。石黒正数さん作品にはお馴染みのスターシステム(同じ容姿をしたキャラクターを別人物として複数の作品に登場させる手法。手塚治虫先生がよく用います。他には、矢吹健太朗さんのヤミもそうですね。)です。
宇宙刑事と悪の組織が闘っていたら、倒された戦闘員がひとり多いことに気付き、調べてみると戦闘員の格好をした女性が死んでいた・・・ということが発覚し、警察がその調査に来て取調べを受けている場面です。


石黒正数短編集 2 (リュウコミックス)

石黒正数短編集 2 (リュウコミックス)

(「デーモンナイツ」が収録されている作品はこちら。)




(同書57ページ。)


第3話「罪悪」。ロボットが主役の女性を起こしています。ロボットが日常に溶け込んでいる未来が舞台の、すこしふしぎ(SF)な、少し哀しいお話です。




(同書83ページ。)


第4話「面倒な館」。
この回において初めてタイトルにもなっている「外天楼」の名称が登場します。増築に増築を重ねた結果、魔窟のようになってしまった住宅街の通称です。九龍城砦のような感じですな。そんな外天楼の一室で、不自然な死に方をしていた男性の死因を探っている場面になります。そして新任刑事・桜場冴子が導き出した結論は・・・。
それは伏せておきますが、筋の通ったバカミスを存分に味わって戴きたく思います。



第5話「フェアリー殺人事件」では、人工生命学の権威・鬼口獰牙が何者かにより殺害され、そこに残されたダイイングメッセージらしきものを巡り、4話で登場した桜場冴子が再び推理(?)を繰り広げていきます。推理を重ねるうちにどんどん本筋から脱線していく様子をご堪能あれ。



と、バラエティに富みつつも、石黒正数さんらしさがにじみ出る内容であることが、他の作品を読んだことがある方ならお判りかと思います。いつもの石黒先生だな、と思われてしまう人もいるかもしれない。


しかしこの作品の本領は、凄さは、その後の展開なのです。
これまでに挙げた、一読しただけだとまるで別物の作品が、すべて1つに収束されていくのです。


そしてじっくりと読み返してみると、最初は軽く流していた箇所にも、巧妙に伏線が張られているのが判ります。単行本扉ページの、ネタ的な演出にすら意味が込められている。それらが総て、破綻をきたすことなく回収されているのです。読み返す度に瞠目せざるを得ませんでした。
物語は、予想だにしなかった地平へと到達します。最終話に辿り着いた時には、ただ驚愕するのみでした。とりわけ215ページ以降の描写は、鮮烈な余韻を残すものとなっています。


ミステリーという作品の性質上、どうしても深く内容に触れることはできません。
しかしこれは間違いなく傑作です。是非読んで戴きたい作品です。
という訳で、本日はこのあたりにて。





※以下、ややネタバレを含む追記を註釈に記載しました。読み進める際はご注意ください。




*1

*1:『外天楼』には、大友克洋さんの『AKIRA』に対するオマージュが含まれていますね。○○○の容姿は××に瓜二つですし、持っている武器もSOLを操る装置と同じ形状です。そして△△△の、顔に皺が出るところも『AKIRA』の改造人間を彷彿とさせる。因みに『ポジティブ先生』に収録されている短編「種」も大友克洋さんの影響下にあり、石黒正数さんが大友克洋さんを敬愛していることが窺われます。