明治大学国際日本学部・藤本由香里ゼミ卒論発表会簡易レポ(1日目)
今月の19・20日の2日間にわたり、明治大学に行ってきました。
上記リンクをご参照戴ければ判るように、実に面白そうな内容であり、そして偶然にも両日仕事が休み。これは行かねばなるまいと向かった次第です。既に togetter に立派なまとめがありますが、自分なりの感想とかも含めて記録しておくのも悪くなかろうと思いますので、簡単なレポのようなものを書いておこうかと思います。
- 藤本由香里ゼミ卒論発表会 まとめ読み用(1日目)
- 藤本由香里ゼミ卒論発表会 まとめ読み用(2日目)
- 藤本由香里ゼミ卒論発表会 まとめ読み用(次の一歩へ)
- 藤本由香里ゼミ卒論発表会 まとめ読み用(感想)
因みに見出し付き・箇条書きとなっているのが発表の内容です。
ノートに殴り書きした内容と自らの記憶に基づいてのレポとなります。更には自分の解釈に基づく要約となりますので、発表内容と若干食い違っている可能性もあります。その点は予めご了承のほどを。
1日目は13時から、ということでその少し前に明治大学へ。
・・・と思ったものの、どうにも開催場所が見つからない。30分近く歩き回ったあげくよく調べてみたところ、「和泉校舎」の文字を発見。自分はそのとき、お茶の水にいました。('A`)
気を取り直してお茶の水から新宿へ出て、そこから京王線に乗り明大前駅へ。
14時半頃に明大和泉校舎へと到着しました。そのため13時からの発表『コミックマーケットにおける女性向け二次創作人気ジャンルの変遷』と13時45分からの発表『「テニスの王子様」二次創作サークル数の変遷と原作メディア展開との関係』は拝聴すること叶わず。
【池滝加奈子『「乙女ゲーム」の変遷〜主人公の位置づけを中心に』】
- そもそも「乙女ゲーム」とは何か?
- 「乙女ゲーム」という言葉が最初に使われたのは「B's LOG」2002年夏号。
- 「乙女ゲームとは自分の中の乙女を愛するゲームだ」という定義が為されている。
- 卒論を執筆するにあたり調査対象としたのは、「B's LOG」2002年春号〜2011年2月号。
- 乙女ゲーム雑誌で、『テニスの王子様』のゲームが取り上げられたことは無い。『桜蘭高校ホスト部』等は取り上げられている。理由は不明。
- 調査対象の年代の都合上、2011年のアニメ化を機に大ブレイクをした『うたの☆プリンスさまっ♪』は対象から外れている。
- 売上・タイトル数に関して。
- 2006年を分岐点として、タイトル数は大きく上昇している。
- 2006年には、女性向PC18禁ゲームが一挙に増えている。
- PC18禁の制作本数はその年以降減少傾向となるが、全年齢対象としたコンシューマ機への移植が多く為されるようになる。
- 人気作品の続編や別ハードへの移植が、新しく発売される乙女ゲームの大きな割合を占めるようになっている。
- タイトル数は増えているので市場の拡大傾向に見えるが、新規タイトルは横ばいの状態が続いている。
- 2006年にタイトル数が増えた原因は、『ときめきメモリアルGirl's side』か?これが発売されたのは2002年で、そこから新しいゲームの開発に着手した場合、その作品が発売されるのは2006年頃になるのではないか?
- ゲームの中身に関して。
- 転換点となるのは、2002年・2006年・2010年。
- 初期の乙女ゲーム(1999年〜、『アンジェリーク』等)においては、ヒロインは巻き込まれ型で、日常の延長というかたちを取る傾向。「普通の女子高生だったのが、或る日突然女王候補であることが・・・!」的な。ストーリーが世界を巻き込むレベルにまで到達することも。
- 2002年頃から、ヒロインの自発的行動が物語を動かすケースが増え始める。
- 主人公が「普通の女の子」に近いものになっている。
- ヒロインの名前や職業を選べるようになり、プレイヤーの選択の幅が増えている。プレイヤーの投影としてのキャラクター。
- 2006年頃からは、「普通の」という要素が更に強まると共に、「負の要素」が描かれるようになる。
- 2010年あたりになると、更に多様化を示すように。変な(イロモノ)キャラクターも登場するように。
- 質疑応答。
- 乙女ゲームを調査する際、ケータイを対象としなかったのは片手落ちではないか?
- 乙女ゲームのユーザーは男性キャラクターへの関心が高いと思われるが、考察対象をヒロインにしたのは何故?
- 乙女ゲームをやる大きな理由の一つとして、声優の存在があると思うが、そこに触れていなかったのは何故?
個人的には、「B's LOG」以外の乙女ゲーム雑誌、有名どころだと「Cool-B」や「電撃Girl's Style」等では扱われる作品の傾向に違いはあるのか、とかが気になりました。まぁこれは無いものねだりというやつかもしれませんし、(これは後述するかもしれませんが)調査対象を広げ過ぎるのは研究目的が茫洋としたものになりやすいというデメリットもありますので一長一短というやつです。
【井出優香『〝萌え擬人化“の男女差〜分類と考察』】
- 「擬人化」と「萌え擬人化」の差異。
- 「擬人化」は「人間でないものに人間的な行動をさせてそれを楽しむもの」。
- 「萌え擬人化」は「人間でないものを人間の姿に置き換えてそれを楽しむもの」。
- 例として、「電車」の場合だと前者は機関車トーマスで後者は新幹線の擬人化キャラクター「ひかり」。「猫」の場合だと前者がハローキティで後者が大島弓子『綿の国星』の主役・須和野チビ猫。
- 研究目的・調査項目・分類について。
- 「萌え擬人化」における男女差は何か、それぞれ何を好むのか。
- 「萌え擬人化」の人気の原因は何か。
- 調査対象作品は153作品、キャラクター数は1743。
- メインキャラクターの性別による分類を行ったところ、女性キャラクターメインの作品は47、男性キャラクターメインの作品は106。
- このことから、女性に人気が高いという傾向が窺える。
- 女性が求める擬人化とは。
- キャラクター同士の関係性(カップリング)への指向。
- マンガ作品が多い。
- 女性キャラクターメインの作品の場合、マンガ作品である率は38%であったのに対し、男性キャラクターメインの場合は84%。
- また、ストーリーが存在しない(イラスト等)の場合、キャラクター同士の関係を示す設定が必ず存在する。
- 106作中76作(全体の71%)がBL作品。男性のみが登場する作品が多い。
- 男性が求める擬人化とは。
- 自分自身とキャラクターの関係性への指向。
- キャラクターそのものの魅力が重要で、関係性・物語性は重視しない傾向。
- キャラクターの個人設定のみが与えられている場合が多い。
- 設定さえ存在しないケース(イラスト・ビジュアルのみ)も。
- 個々人が思い思いのキャラクターを造り上げることが可能。(擬人化ではないが)『ラブプラス』とかはそれを示すものかも。
- 前述のとおり、マンガ作品である率は低いが、マンガ作品である場合は萌え4コマが多め。
- (擬人化されたものではない)人間キャラクターの登場率が高い。
- 男女による「キャラクターとの関係性」の違い。
- 女性読者はキャラクター同士の関係性を傍観する楽しみ方。
- 男性読者は読者とキャラクターを同じ次元に置く楽しみ方。仮にキャラクター同士の関係性を楽しむ場合でも、読み手としての立ち位置はキャラクターと同じ次元にある。
- 何故「萌え擬人化」は人気なのか。その1
- キャラクター作りが簡単、という点。
- キャラクターを作る際に必須なのはビジュアル、そして「あるほうが良い」ものとして性格・関係性等が存在するが、後者に関しては擬人化する対象物に予め備わっている要素。
- そしてどの要素を用いるかによって、異なるキャラクターを作ることができる。
- 簡単に(?)しっかりとしたキャラクターを作ることが可能。
- 何故「萌え擬人化」は人気なのか。その2
- 「非日常へのタッチポイント」という点。
- 「キャラクターの元となるものは、実際に日常生活等で目にするもの・存在するものである」(以上2つ、小池一夫せンせいの理論)
- 「萌え擬人化」において「非日常へのタッチポイント」は予め備わっている。日常のあらゆる場面にタッチポイントは存在する。
- 「萌え擬人化」という技法について。
- 「美味しい部分だけ」を取る技法。
- オリジナル作品は全体を一から構築する必要があるが、「萌え擬人化」は元ネタのイメージと皆が持っているイメージ(共有認識)が前提として存在するので、説明の省略も可能である。
- 合理的な表現技法、と言える。
- 質疑応答。
- 男女によるキャラクターとの関係性に関しては、「萌え擬人化」に限らないのではないか?
- 「合理的な表現技法」とのことだが、それについて肯定的な考えか、それとも否定的な考えか?→物語制作の第一歩として良い面もあるのではないか。
全体的に奇麗にまとまっている内容でした。気になる点としては、調査対象作品の男性向(女性キャラクター中心)作品の、書籍に関して若干偏りが多いかなという気はしました。「女性向は書籍中心、男性向はweb発表の傾向が強い」という発言もありましたので、男性向に関してはwebのみを対象にする(調査対象を絞る)、というのもありだったかなとも。
【石井舞『「ゲゲゲ式」と「らき☆すた式」に学ぶ! コンテンツによる町おこし』】
- 地方都市の町おこしについて。
- 観光資源(歴史関連:史跡とか歴史公園とかその他諸々)を持つ地域であればそれを活かした町おこしが可能。
- そのような観光資源がない場合のモデルとして、アニメ・マンガコンテンツによる町おこしがある。
- 成功例として、境港と鷲宮のケースを取り上げる。
- 境港のケース。
- 境港駅から約800mにわたり、「水木しげるロード」がある。
- 1980年代以降境港は過疎化・衰退が進む。その動きに歯止めをかけるため、街づくりプロジェクトが始まる。
- 境港出身の水木しげるセンセイから「自分の作品(のキャラクター)を置いてみては」との提案。
- 水木しげるロードに銅像を幾つも造ると共に、市でもイベントを継続して行っている。観光客を飽きさせない努力。
- 観光客数は着実に上昇傾向。『ゲゲゲの女房』が放映した年には大きな増加。
- 鷲宮のケース。
- 2007年の『らき☆すた』アニメ放映が転換点。
- OPの映像等から、ファンがロケ地域を特定。また主要キャラクターであるかがみ・つかさの家が神社であることも影響し、ファンが鷲宮神社に参拝にくるケースが急増。
- この現象を知った鷲宮の商工会が、ヒアリングを実施。『らき☆すた』を前面に押し出した町おこしを始める。
- 人気を持続させる秘訣とは。その1
- 1つの作品そのもので完結させず、広い括りで捉えることが重要。
- 境港の場合は『鬼太郎』から「妖怪」の街という位置付けにシフトしている。市で「妖怪検定」も実施。
- 鷲宮の場合は「萌え」の街へとシフト。「萌フェス」「オタ婚活」等、『らき☆すた』とは直接的な関係はないイベントも多数。
- 人気を持続させる秘訣とは。その2
- ファンがファンを呼ぶ「循環的な環境」。
- 地元住民とファンの良好な関係も重要。「聖地」を訪れるファンのマナーも同様。
- その一方で、町おこしのテーマに即した商品開発やサービス等、地元側の努力も必要。「作品のファン」であるのみならず、「街のファン」になってもらう。
- 町おこしに必要なものは。
- 地元住民が「自分たちで働く」ことが大事。境港の場合、2003年に財政難の時期があったが、観光協会が銅像の資金スポンサー集めを行っている。
- 「自分たちで働く」ことが大事とはいえ、行政側は放置するのではなく、窓口の役割を果たすことが必要(著作権etc)。
- 実例として、映画『サマーウォーズ』公開時の、「信州上田こいこいマップ」。
- 町おこしは、郷土愛がないと成功しない。
- 如何にして郷土愛を喚起させるか、そこが行政・観光協会・商工会の腕の見せ所。
- 質疑応答。
- フィールドワーク(聞き取り・実地調査等)はどの程度行ったのか?また境港は調布市とのタイアップも行っているが、そちらの調査は?
- 水木しげるロードが話題になったのは、銅像盗難事件以降ではないか?
- コンテンツ資源も無いような地域であった場合はどうするのか?
- コンテンツによる町おこしの「失敗例」はどのようなものがあるのか?
他の街のケースも知りたいところですね。世界遺産に登録されつつ『ひぐらしのなく頃に』の舞台となっている白川郷を始めとして、歴史的な資源を持ちつつアニメ・マンガの舞台となっている箇所との違いとか。前述の失敗例とかも。
【雫石理詠『フィクションにおける女子高、女生徒の描かれ方の変遷〜「マリア様が見てる」は何を変えたか』】
- 『マリア様がみてる』における制度について。
- 「スール制」という制度。ミッション系女子校内において、上級生と下級生が擬似的な姉妹の契りを結ぶ制度。
- 1930年代の友情小説における「エス」の復活。吉屋信子『花物語』が代表的。
- 1930年代の雑誌「少女画報」の読者投稿欄には「はがき文」「少女ロマンス」の2種類があり、前者においては編集サイドも「事実を書く」ことを重視していた。その投稿において女子校での「エス」が描かれていたことから、これは実際にあったことと推測される。
- 「女子校」を描く媒体・設定について。
- 『マリみて』以前の雑誌では少女向雑誌が中心、以後の雑誌は青年向が増えている。
- 『マリみて』以前の作品は名門の女子校が多い。ミッション系の学校が多いかと思ったが、宗教色はまちまち。
- 『マリみて』以降は一般校も増えてくる。その場合宗教色はなし。一方で、名門校であった場合はミッションスクールが舞台となる場合が多い。
- 全般的にみると、『マリみて』が女子校の設定を変えた、とまでは言えない。
- 学校組織の描かれ方について。
- 『マリみて』以前は教師・校則等により生徒の行動が統制されるケースが多いが、以後は教師・寮監といった存在が優しくなる。
- 管理教育への批判が出たこともあり、1990年代以降はそのような描写が排除される傾向に。
- 特権組織(『マリみて』での山百合会的な存在)は『マリみて』以前には多く存在するが、以後は部活動・委員会がそれに替わるものとして描かれるように。
- 女性同士の恋愛について。
- 『マリみて』以前は、性行為にまで及ぶ事例も(玄鉄絢『少女セクト』とか)。
- 『マリみて』以後は、ちょっとしたコミュニケーション(手を繋ぐ等の軽いスキンシップとか)も百合として受容される傾向に。
- 『マリみて』から入った百合ファン(主に男性ファン)の増加によるものと思われる。
- 美少女ゲーム(男性向)の事例。その1
- web上で評価の高い作品をピックアップした上で、『マリみて』以前/以後の傾向を分析。
- 以前だと、主人公は絶対的な存在として描かれる。教師・実習生etc。犯罪者である場合もあった。
- 以後では、ヒロインと同じ目線の、対等な立場で主人公が描かれることが多くなる。女装少年とかも登場。
- プレイヤーが女学生と自己同一化して楽しむ傾向。
- 美少女ゲーム(男性向)の事例。その2
- 『マリみて』以後、攻略対象のヒロイン(複数存在)同士が「エス」の関係になるケースも。
- 男性百合ファンの増加と関係があるのか?
- 舞台となる学校は、『マリみて』以前では名門校(という設定)が多かったものの、ミッションスクールはなし。『マリみて』以後はミッションスクールが増えている。
『マリみて』の影響を強く受けたのはギャルゲー方面、という指摘はなかなかに興味深いものでした。気になった点は、調査対象の作品年代で、1940〜60年代あたりに大きな空白があった点。40年代は戦争の影響とかもあるでしょうし、50〜60年代は「女学校」を舞台にした作品が単純に少ないのかもしれませんが。高橋真琴さんとかは描いていないのかな?
あと、男性向美少女ゲームの調査対象に『学園ソドム』があったのですが、あれは少し極端過ぎる例かもしれませんな。(´ω`)
選択肢に時間制限があり、時間切れになるといちばんダメな結末になるというシステムが高く評価されていたと思いますが、内容が非常にハードでして・・・検索は自己責任で!( ゚∀゚)
と、このあともうひとつ、若林リュボーフェ『吉川英治の「武蔵」から井上雄彦の「武蔵」まで〜時代によって変わる武蔵像』という発表もあり、これも面白かったのですが、ノートを取らないでしまったので(申し訳ないです)ごく簡単に。吉川英治版『宮本武蔵』と井上雄彦『バガボンド』の、同じ場面をどのように描いているか比較した研究で、執筆された年代の死生観の違いを浮き彫りにするような内容です。
個人的な願望を書くならば、佐々木小次郎の違いに触れて欲しかったところです。ただその場合、必然的に井上雄彦さんの『リアル』にも触れる必要が出てくる。そうなると『SLAM DUNK』にも・・・と収拾が付かなくなる可能性も出てくるので難しいところですな。
というわけで、1日目終了。
2日目のレポに続きます。