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時折マンガの話をします。

伝説の編集者・大伴昌司の著作が復刊。『カラー版 怪獣ウルトラ図鑑』

先月のことになりますが、書店を散策していたところ、偶然目に留まって一驚し、そのまま手に取ってレジに持って行ってしまいました。


怪獣ウルトラ図鑑[復刻版] (写真で見る世界シリーズ)

怪獣ウルトラ図鑑[復刻版] (写真で見る世界シリーズ)


『カラー版 怪獣ウルトラ図鑑』の復刻版です。
今年がウルトラマン誕生45周年ということも影響したのでしょう、長らく絶版になっていたこの書籍が遂に復刊の運びとなりました。


著者は大伴昌司。
自分が生まれる前に鬼籍に入られている方なのですが、マンガや特撮といったオタク関連の歴史を辿るような書籍・記事等で度々その名前が挙げられる、半ば伝説的な編集者ですね。
1966〜1971年あたりに掛けて、「週刊少年マガジン」の巻頭図解シリーズの記事を担当しています。戦前から国内外を通じて存在した戦艦・航空機の内部図解を、怪獣の体内に敷衍して展開したレイアウトが、当時の読者の方々に大きな衝撃・或いは影響を与えたとのこと。
図解以外だと、「マガジン」1970年1月1日号の特集「劇画入門」における、「1枚の絵は1万字にまさる」というコピーが有名ですね。


さてその大伴昌司という方ですが、何年かごとに再評価の動きが出てくることでもお馴染み(?)でして、大伴昌司特集的な書籍・記事も度々出版されたりします。比較的最近だとこちらになるでしょうか。


少年マガジンの黄金時代 ~特集・記事と大伴昌司の世界~

少年マガジンの黄金時代 ~特集・記事と大伴昌司の世界~

idea (アイデア) 2011年 11月号 [雑誌]

idea (アイデア) 2011年 11月号 [雑誌]


『idea』では現在、編集者の赤田祐一さんと『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』の著者として知られるばるぼらさんのお二方による企画「20世紀エディトリアル・オデッセイ」が連載中でして、2011年11月号には第3回となる「大伴昌司と内田勝の視覚革命」が掲載されています。


と、このように再評価的な位置付けの著作は比較的よく出るのですが、肝心のご本人の著作が非常に入手困難という状況が長らく続いていたというのが実情でして(少なくとも自分の印象ではそうです)。時折復刊はされるのですが、無闇に高額だったり、それもすぐに絶版になりプレミア価格が付いてしまったりと。*1


喩えるならば、『ONE PIECE』でも『HUNTER×HUNTER』でも何でも良いのですが、有名作品の評論・考察本だけが流通しているような状態とでも言いましょうか。
雑誌の巻頭ページの記事という発表媒体上の制約とかもあり、書籍じたいになりづらいという制約もある訳ですが、何ともバランスの取れていない状況であったと言えるのではないかと思う訳です。
そんな状況故に、大伴昌司個人の名義で出版された『怪獣ウルトラ図鑑』の復刻は、非常に嬉しい出来事であると言えましょう。



『怪獣ウルトラ図鑑』は「ウルトラ完全図解百科」「ウルトラセブン怪人怪兵器第百科」「ウルトラマン怪獣百科」「ウルトラQ怪獣第百科」の4部構成になっています。初版発行が1968年、最も近い時期に放映されている『ウルトラセブン』に最も多くのページが割かれています(表紙もセブンですね)。
「完全図解百科」にはウルトラセブンの必殺技図解やウルトラマン(初代)の内部図解、更にはウルトラホークや警備隊基地、ペガッサ星人のマンモス宇宙都市、更にはバルタン星人やメフィラス星人レッドキングといった有名怪獣の内部図解等を多数収録。大伴昌司氏の面目躍如といった内容です。
以降の「怪人怪兵器第百科」「怪獣百科」「怪獣第百科」には、それぞれの作品に登場した怪獣のデータが写真付で収録。体長・体重・攻撃方法・弱点等が詳細に記述されています。
全篇を通じて、熱のこもった文体で書かれているのも、*2独特の雰囲気を醸し出しているように感じます。


ただ、この本は「完全な復刻」という訳ではない。残念ではありますが、これには如何ともしがたい事情があります。
復刻版の奥付ページには、以下のような断り書きがあります。

同社に保管されていた初版本をベースに、当時の内容や印刷・造本などを可能な限り再現しておりますが、権利元の意向により、一部キャラクターなどの掲載内容が異なります。


大伴昌司『カラー版 怪獣ウルトラ図鑑』復刻版174(奥付)ページ。


この文面だけでも、判る方は判るかと思いますが、スペル星人については未収録です。
スペル星人が登場した『ウルトラセブン』12話は欠番扱いとなっている、というのは有名な話かと思います。そして欠番に至る経緯が、スペル星人が「ひばくせい人」という呼称を付けられていたことに端を発するというのも良く知られているかと。
更に書くと、最初に「被爆星人」という呼称を用いた作品が、この『怪獣ウルトラ図鑑』であります。この呼称が問題とされる1970年末までは特に問題なく発行され、22刷まで版を重ねていたとのことです。


この問題に関しては、安藤健二さんによる名ルポルタージュ封印作品の謎』に詳細が書かれているので、是非読んで欲しいと思います。


封印作品の謎

封印作品の謎

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)


と、長々と書きましたが、資料的な価値も高く、読物としても面白い。
稀代の編集者の仕事を、当時の空気を携えたまま読むことができる、現時点では数少ない本でもあります。些か値は張りますが、お薦めの1冊です。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:まぁ絶版・プレミア化については、再評価的な本もそうだったりするのですが・・・。

*2:擬音を多く用いたりするのも特徴です。